都市近郊の希少な草地を守る~亀成川源流部の保全にむけた取り組み~
千葉県の北総地域には全国でも希少な草地が点々と残されています。これらの多くはニュータウン開発予定地となったことで奇跡的に残されてきた場所ですが、一部では急速に開発計画が進行しています。
NACS-Jでは「下総生物多様性アクションプラン」の一貫として、印西市の亀成川源流部(千葉ニュータウン21住区予定地)に広がる草地の保全の取り組みを、地元の市民団体「亀成川を愛する会」と進めています。
印西市別所・宗甫地区にあたる「千葉ニュータウン21住区」は、1966年に開始された千葉県とUR都市機構(正式名称は独立行政法人都市再生機構。当時の宅地開発公団)とのニュータウン開発計画の事業地の一つです。
1970年代にはすべて県の土地となりましたが、オイルショックやバブル崩壊などにより事業が中断・縮小されたことで貴重な里山の生態系が奇跡的に残されました。
しかし最近になって、平成25年度までに事業を完了させるというスケジュールで土地の造成が急ピッチで進み始めました。源流域の豊かな自然環境を何とか残そうと、2010年には地元市民らによって亀成川を愛する会が立ち上がりました。
しかし未だにそのほかの大部分については開発予定地となっています。
そこでNACS-Jと亀成川を愛する会は、千葉県中央博物館や東京大学の専門家の協力を得てこの場所の自然環境の重要性について再評価し、レポートとして取りまとめました。
その結果、今ではこの地域では珍しくなった源流部まで続く連続的な谷戸地形や台地上の泉、ほかでは見られないような大規模な貧栄養草地、そして県指定絶滅危惧種100種以上を含む豊かな生態系の存在など、全国的にみてもここが保全上極めて重要な場所であることが明らかになりました。
特に燃料革命以降、茅葺や燃料として利用されなくなった草地が全国から姿を消す中、これだけの大規模な草地がここに残っていることは奇跡と言えます。ニュータウン開発予定地となったことで乱開発による市街化を逃れ、その後も草刈り管理がされてきたことで偶然にも草地が維持されてきたようです。
この場所が地域の財産として保全され引き継がれて行くよう、現在さまざまな取り組みを進めています。
6月2日には印西市の草地の重要性を考えるシンポジウム「いのち育む印西の原っぱ」を開催し、160名もの参加がありました。その後、30以上の地元団体の賛同を得て、開発事業者である千葉県・UR都市機構に保全と土地利用計画の見直しについての要望書を提出しています。
この場所の自然環境の豊かさと希少性は生物多様性の保全上重要であることはもちろんですが、水源の涵養や福祉・観光・不動産価値などを通じて実質的にこの地域のかけがえのない財産となっています。
UR都市機構の事業にも最近では生物多様性に配慮した事業が多く展開されるようになっていますが、過去に決定した都市開発計画を見直すには多くの市民が理解を示し声を上げることが不可欠です。
現在地元を巻き込んで市民から新しいまちづくりを提案する準備も進めています。会員の皆さんからも、ぜひさまざまな形での支援をお寄せください。
(高川晋一/保全研究部)
(写真提供:亀成川を愛する会)