亀成川源流部(千葉ニュータウン21住区)の生態系保全と 土地利用計画の見直しについて要望書を出しました。
亀成川源流部(千葉ニュータウン21住区)の生態系保全と土地利用計画の見直しについての要望書(PDF/233KB)
2012年7月13日
千葉県知事 森田健作 殿
印西市長 板倉正直 殿
千葉県企業庁長 高梨国雄 殿
独立行政法人都市再生機構理事長 上西郁夫 殿
公益財団法人 日本自然保護協会 理事長 亀山 章
亀成川を愛する会 会長 一島 正四
亀成川源流部(千葉ニュータウン21住区)の生態系保全と土地利用計画の見直しについての要望書
賛同団体(五十音順)
(計37団体)
はじめに
手賀沼流系に属する亀成川の源流部に位置する「千葉ニュータウン21住区」は、過去半世紀近く前から開発予定地となっているもののその大部分が手つかずのままで長く維持されてきました。その結果、貴重な里山生態系が奇跡的に残され、周辺では姿を消してしまった生きものたちのサンクチュアリとなっています。これまで「亀成川を愛する会」をはじめとした地元市民団体や日本トンボ学会が調査を行いこの場の保全を求めてきた結果、地区の一部についてはUR都市機構の英断により開発が中止され近隣公園として保全への配慮がなされることとなりました。
今回、過去の調査データを改めて整理し日本自然保護協会がこの地区全域の生態系についての重要性を専門家の協力も得て評価した結果、当地には他では見られないほど非常に豊かな生物多様性が育まれ、多数の絶滅危惧種や全国でも希少な大規模草地が見られるなど、全国的にも保全上の重要性が極めて高い場所であることが明らかとなりました。しかし現状では近隣公園周辺を除くすべての範囲が、自然環境調査も十分行われないまま平成25年度末までに造成されることが計画されており、全体として保全への配慮もバランスを欠いたものとなっています。
生物多様性とそこからもたらされるさまざまな恵みは、地域社会の産業や福祉、アメニティ、不動産価値等にも密接に関わっています。その認識の下に徹底した市民参加で全国に先駆けて生物多様性地域戦略を策定した千葉県の取り組みは、今や全国の地方自治体の規範となっています。戦略の中では、すべての県施策に生物多様性の視点を取り入れ、千葉ニュータウンなど大都市周辺の里山については生物多様性に配慮した都市計画の見直し方針の検討等による里山環境保全・再生の緊急な取り組みを行う、と掲げられており県下の多くの市民が注目しています。
またUR都市機構においても環境配慮方針の第一に「都市の自然環境の保全・再生」を掲げており、その下で施行された生物多様性配慮型の全国での事業例は国内で高い評価を得ているところです(例:「生物多様性につながる企業のみどり100選」への7例認定など)。
昭和40年代にニュータウン開発計画が作られた頃から社会情勢は大きく変化しており、真に地域の社会・経済に寄与するまちづくりを求める世論は大きく高まっています。地元印西市においても、当地の保全を求める市民からの請願が市議会にて議員全員一致で採択され、市民自身もワークショップやシンポジウムの開催を通じて生物多様性保全とまちづくりについての具体的提案の準備を進めるなど、市民運動としての大きなうねりを見せています。当地の豊かで希少な生物多様性が保全され、地域の財産として引き継がれ魅力あるまちづくりが実現されるよう、以下の4つのことを強く要望いたします。
要望① 保全上の重要性が極めて高い部分については新たな造成は行わず現状の環境を維持すること
今回行った生物多様性及び自然環境の評価の結果、今では希少となった源流部の地形や台地上の湧水泉が当地にはそのまま残り、また極めて豊かな生物多様性が育まれていることが明らかとなりました。特に、わが国では過去半世紀で激減してしまった大規模な草原環境が残されていること、県指定絶滅危惧種109種を含む830種もの生物が確認できること、一部の絶滅危惧種については全国有数の生息地となっていることなどは、この場所が全国的にも保全上の重要性が極めて高いことを示しています。
このことを踏まえ、保全上の重要性が特に高い場所については、新たな造成や改変は行わず、生物多様性の保全が図られるよう当面現状の環境を維持すべきです。
要望② 改めて自然環境調査を行い、保全上の重要性や地域の財産としての価値を再評価すること
地元市民団体である亀成川を愛する会では専門家の協力の下に2010年から精力的な調査を進めてきました。今回の評価により当地の全国的な重要性が明らかとなったものの、調査の制約等もあり植物以外の生物については未だ情報が少なく、また調査が全く進んでいない地区も多く存在します。したがって地域全域をみると現時点でその重要性が十分評価できない場所もあります。
一次造成が行われてから約半世紀が経過し貴重な生態系が再生していることや、千葉ニュータウン21住区の事業規模は本来環境影響評価法に基づく環境アセスメントが義務付けられる面積以上であることからも、自然環境調査と現状把握を行い、改めてその重要性を評価すべきです。既に市民や大学・研究機関等の専門家による自発的な調査協力体制も十分に整っています。
要望③ 希少な自然環境が地域の財産として保全・活用されるよう土地利用計画を改めて検討すること
都市近郊にこれほど豊かな生物多様性が残されている場所は全国でも少なく、それが印西市や千葉県北総地域の大きな魅力(不動産価値を含む)のひとつともなっています。また、秋の七草に数えられるオミナエシや印西に古くから語り継がれる「そうふけっぱらのキツネ」に登場するホンドギツネ(県重要保護生物)が現在でも当地で普通に確認できることは、地域社会の文化的側面からみても重要な意味をもちます。さらに、当地の生態系が果たす水涵養機能やその他のさまざまな生態系サービスは、流域や周辺地域の福祉・経済活動にとっても実質的に重要な機能を果たしている可能性が高いです。
この場所には、既に他では消滅してしまった北総地域の原風景が奇跡的に公の用地として残されています。これを活用することは、千葉県及び関東圏の生物多様性を確保することとなるだけでなく、私たちの財産として未来へ自然資産を残す画期的な試みとなります。当地にしかない希少性・固有性の高い自然環境が保全され、地域の魅力・財産として最大限に活用されるまちづくりを進めるためにも、約半世紀前につくられた現行の土地利用計画を見直すことを強く要望します。
要望④ 新たな土地利用計画・まちづくりについての市民を含めた検討の場を設置すること
当地の希少な自然環境の恵みを一番に享受し、後世にわたり財産として賢明に保全活用していけるのは他ならぬ地元地域です。我が国が現在議長国を努める生物多様性条約においても自然環境の保全と持続可能な発展を実現する上での地元市民・地方自治体の積極的参画が求められています(第10回締約国会議 決議X/2、X/22など)。日本においても「生物多様性地域連携促進法」が2011年に施行されるなど、地方自治体と地元市民、企業、専門家などの多様な主体が連携して生物多様性の保全とその活用を通じた地域作りを進めていくことが主流となりつつあります。
地元印西市では、21住区に残る樹林地をできるかぎり保全してほしいとする市民からの請願が市議会にて議員全員一致で採択されています(平成23年度第4回定例会議)。また地元市民が開催したワークショップ・シンポジウムにはこれまでにのべ260人が参加するなど、この場所の希少な自然環境や素晴しい景観を地域の財産として保全活用するまちづくりを官民協働ですすめていく機運も十分に高まっています。
新たな土地利用計画・まちづくりを検討する場を設けるにあたっては、地元の市民や地方自治体が参画できる形で設けることを強く要望します。
以上
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