「赤とんぼがいる風景」写真コンテスト入賞者発表!
「自然しらべ2014 赤とんぼさがし!」連動企画
「赤とんぼがいる風景」写真コンテスト入賞作品発表!
子どもから大人まで、だれでも気軽に参加できる自然しらべでは、調査報告の際に対象の生きものを写真に撮って送っていただいた方法をとることで、1枚1枚写真を見て種類を確認することができるため、ただの目撃情報とは異なり、高い精度の調査記録を得ることができています。
その記録写真の中には、親子でほのぼのとした調査風景の写真から、生態写真として優れたものや芸術的な写真まで、アッと!と驚く画像も多く含まれています。
2014年は調査期間中に撮影・投稿された記録写真を対象に、株式会社ニコンの協力で「赤とんぼがいる風景」写真コンテストを行い、5名の方が入賞されましたのでご紹介します。
(入賞された方には賞品として株式会社ニコンより、下記のカメラを贈呈しました。)
グランプリ賞
堤 信一郎 さん(福岡県)
撮影地:熊本県上益城郡山都町長原 通潤橋
撮影日:2014年9月28日
<感想>
水路橋としては日本一の通潤橋そのすぐ脇にある棚田で出会ったのがマユタテアカネでした。
冬でも昆虫採集に出かけるほどの、虫好きの息子と一緒に歩いていると棚田の畦を彩っている彼岸花に、花と同じくらい鮮やかなマユタテアカネがとまっていました。
息子が「あっ!」と声を出すと、ふわっと飛び立ちましたが、またすぐ近くの草の上にとまりました。「お父さん、写真写真!」と声をひそめながらいう息子にせかされながら、二人で近づいていきました。その時、「しーっ」と言いながら一本指を口に当てて、そーっと近づいていく息子の姿とその息子に握手を求めてくれているようなマユタテアカネの姿にほのぼのとした気持ちになって、心癒されるひと時でした。
<講評>
トンボの赤ととまっている葉の緑が、色づきはじめた稲穂とそれを取り囲む緑の畦(あぜ)を背景として、いっそうきわだって見える絵画のような構成になっています。頭と足、胸の模様、羽の網目の黒が全体を引き締めて、トンボの精悍さを美しく表現しています。国の重要文化財である通潤橋の棚田で撮影されたことも相まって、芸術的ともいえる作品です。また、この写真は、赤とんぼの種の同定に肝心な胸の模様がはっきりと写っており、生きものを観察する写真としても、きわめてすぐれています。
審査員の全員がこの写真をグランプリ候補に推したのも納得できる、すばらしい写真です。このような風景を息子さんの時代、さらにはお孫さんの時代へと引き継がれていくように、大切な自然をいつまでも守っていきたいものです。
(亀山章 公益財団法人日本自然保護協会 理事長)
※参考:グランプリの写真とともにお送りいただいた環境写真
生態的におもしろいで賞
中村 征夫さん(新潟県)
撮影地:新潟県新潟市西区佐潟
撮影日:2014年10月15日
<感想>
この写真は、市内西部に位置し、ラムサール条約登録湿地である「佐潟」で10月に撮ったものです。
この日は、晴天で風も弱く穏やかな天候でした。南西部にアキアカネと思われるトンボがいたので、ここで撮影することにしました。種の同定がしやすい構図を最優先にカメラを構えるものの、トンボは思う所に止まらず、目線が合うと警戒されて逃げられるやらの繰り返しでした。複眼対単眼ですから敏感さの比は論外でしょうが、一度止まった所に再び止まる習性があることを思い出し、根気強く何枚も撮った中の1枚です。アキアカネも、よく観察すると個体ごとに体長や体色に違いがあり、成熟度の他に生息環境の影響もあるのだろうかと思いました。
<講評>
トンボの成虫は、6脚すべてを用いて静止するのが一般的ですが、前脚を前胸の側部に引き寄せてたたみ、中脚と後脚の4脚のみで静止することがあります。これもそのような事例です。この4脚静止は、トンボ科やサナエトンボ科の一部で報告されています。オオシオカラトンボなどでは普通にみられますが、アカネ属は4脚静止の観察報告が少なく、特にアキアカネではこれが枝(1985)の記録に次いで2例目の写真記録ではないかと思います。4脚静止がどのような条件で起こるのか、機能的な意味は何なのかなどについてはまだよく分かっていません。
(松木和雄 日本トンボ学会・前会長)
赤とんぼのいる風景賞
葉山 雅泰さん(千葉県)
撮影地:千葉県白井市今井 今井の用水路(金山落とし)
撮影日:2014年10月30日
<感想>
桜の名所として、春には多くの観光客で賑わう千葉県白井市今井地区に、「金山落とし」と呼ばれる用水路が流れています。秋深まる10月の終わり、この日私は金山落としにて数個体のアキアカネを観察することができました。
写真のアキアカネもそうですが、よく観察してみると、翅の痛んだ個体が多いことに気が付きました。夏を高山で過ごし、秋になると繁殖のため平地に戻るとされるアキアカネですから、長い距離を飛行してここまでやって来たのかも知れません。外敵に襲われることも、縄張り争いもあったかも知れません。翅の傷は今日まで懸命に生き抜いてきた証なのだということを、教えられたような気がします。
<講評>
羽を張ったアキアカネの堂々とした姿。そして、雑木林を望む田んぼの景色。トンボを追いかけ走りまわった、子どものころを思い出させてくれます。
ただ、葉山さんの観察眼でしょうか、写真には羽の様子も体毛もしっかり捉えられており、あくまで主役はアキアカネであると強く訴えてきます。やや低いアングルから撮り、背景の水平をあえて意識しなかったことで、枯れ枝にとまる静かなアキアカネが、次の瞬間、飛び立っていきそうな動きも感じさせてくれます。
関東平野の田園風景で出会った命の凛々しさを伝える1枚。そうっと近づいて葉山さんがシャッターを切った後、きっとアキアカネは、さっと秋の青空へ飛び立ったことでしょう。
(立木秀成 株式会社ニコン経営戦略本部CSR推進部社会貢献室長)
ナイスショット賞
横田 靖 さん(大阪府)
撮影地:大阪府池田市吉田町
撮影日:2014年9月6日
<感想>
この日は最高気温が30℃を超える日差しの強い日でした。縄張中のミヤマアカネの雄が腹部を太陽の方に向けています。少しでも太陽の受光量を減らそうとするポーズなのです。暑さ対策ですね!
実は私にとってミヤマアカネは思い出深いトンボなのです。兵庫県西宮市の仁川で翅にマーキングされたミヤマアカネが2006年11月16日に当地(池田市吉田町)に飛んできたのを確認したのです。直線距離にして13㎞の距離です。その後4年間続けて移動が確認されたのです。このマーキング活動は「兵庫県立人と自然の博物館」の指導のもと、西宮市と宝塚市の小学生とお母さんたちが始めた活動です。私も縁あってマーキング活動に参加したのですが、まさかマーキングしたミヤマアカネが自分のフィールドに飛んでくるとは予想しなかったものですから、その驚きと感動は大変大きなものでした。
<講評>
トンボが胴体を天に向け、垂直にとまる姿を捉えました。「オベリスク姿勢」と呼ばれ、トンボが太陽の光を受ける面積を最小に抑えることで、体温上昇を防いでいると考えられています。写真では、それを示すかのように、とまった葉の上にトンボの影が小さくまとまって映し出されています。9月初旬、午前11時ごろの撮影で、太陽は高い位置にありました。背景を緑でまとめ、トンボの赤を際立たせたセンスも光っています。
撮影者の横田靖さんは、定年をきっかけに大阪府池田市の自宅近くで自然観察を始めました。以来十数年、毎日のようにカメラを手に生き物を追い続けています。今回の写真には長年培った観察力と生き物への熱い視線を感じます。まさにナイスショットです。(秋元和夫 読売新聞東京本社学事支援部)
楽しくしらべました賞
太田 隆司さん(東京都)
撮影地:埼玉県戸田市 彩湖道満グリーンパーク
撮影日:2014年9月28日
<感想>
秋の定番プログラム「草はらジャングル探検隊」では、バッタやカマキリの仲間のほかに赤とんぼも捕まえてもらって、参加者の子どもたちに種類を調べてもらったりメスは産卵させてみてもらったりしています。
最近はとまっているトンボでさえ捕まえられない子どもたちが急増していますが、この子はなんと飛びまわっていた赤とんぼを見事にキャッチしておりました。「生物多様性」という言葉は知らなくても、子どもたちには幼いうちからいろいろな種類の生きものを捕まえたり、捕まえた生きものをよく観察してもらって、人間のほかにもいろいろな生きものたちが同じ今を生きていること、感じとってもらえるといいですね。
<講評>
エイ!あっ捕まえた! オネーちゃん すごい!と子どもたちの歓声が聞こえてきそうです。秋の青空に飛ぶ赤とんぼを青い竿の虫取り網、青いシャツ着た男の子がうらやましそうです。網にトンボが入った瞬間、女の子が感じただろう躍動感も伝わってきます。そんな子どもたちを振り向き見るお父さんの表情が、何とも温かいのです。
撮影者太田隆司さんの観察会「草はらジャングル探検隊」の楽しさが醸し出す雰囲気なのでしょう。網でただ捕まえるだけでなく、種類を自分で調べてもらったり、よく観察してもらったりという工夫も、流石の自然観察指導員です。「トンボだって、みんな生きているんだ、友だちなんだ」と思える観察会を、子どもたちにいつまでも続けていって下さることを期待しております。
(大野正人 公益財団法人日本自然保護協会教育普及部長)
▲「赤とんぼのいる風景」写真コンテスト審査会(2015年2月9日 株式会社ニコン会議室)