【配布資料】今日からはじめる自然観察「突然増えるアブラムシの秘密」
<会報『自然保護』No.545(2015年5・6月号)より転載>
このページは、筆者に、教育用のコピー配布をご了解いただいております(商用利用不可)。
ダウンロードして、自然観察会などでご活用ください。
新緑の季節、いつの間にか、柔らかい新芽や葉の裏にアブラムシがびっしり付いていた! という経験はありませんか?
アブラムシはどうやって増えるのでしょうか?
文・写真:松本嘉幸(芝浦工業大学 柏中学高等学校教諭)
なぜあっという間に増えるのか
生物は寿命があるので、自分たちの仲間を絶やさないようにするため、個体維持を重視するタイプと種族維持を重視するタイプがあります。アブラムシは数㎜ほどの小さな虫ですので、群れで生活する後者の生き方を取りました。生理的な寿命は1カ月程度だと思われますが、自然界ではヒラタアブの幼虫やテントウムシなどの多数の天敵に捕食されほとんどは1カ月もしないうちに、死ぬのでしょう。それでもアブラムシが今まで生きながらえているのは繁殖力の大きさと体の構造によるものです。
まず、繁殖力を大きくする方法は、1:1回の産卵数を多くする 2:成長速度を速めて早く大人になり個体数を多くすること、が思い浮かびます。アブラムシは2:の方法を取りました。交尾せずに体内で未受精卵を孵化させ胎生でメスの幼虫を産むことができるのです。種や環境により違いはありますが、幼虫は10日前後で成虫となり、毎日5匹程度の幼虫を産みます。1つの群れ(コロニー)には祖母、母、娘が同居しているので大変な数になります。
このようにたくさんの幼虫を次々と産めるのは、体の構造に秘密があります。お腹の中には胎児が数珠つなぎに入っており(図2)、さらに、その胎児のお腹の中にも、すでに次の世代が用意されています。ロシアの玩具で有名な「マトリョーシカ」のような「入れ子」状態になっているのです。
アブラムシの一年
アブラムシは、普通、卵で越冬します。春になって孵化した幼虫は、幹母と呼ばれ、卵ではなく自分と同じ遺伝子を持ったクローンのメスの幼虫をたくさん産みます。その幼虫もクローンを産みます。晩秋になってはじめてオスと卵を産むメスが現れ、交尾し有性生殖を行います。しかし同じ種でも、気候条件の地域差などにより、有性生殖を行わず、一年中、メスだけでクローンを産み続ける系統もあります。
アブラムシの餌は植物の師管液です。基本的に、種ごとに餌とする植物が決まっていますが、少数ながら世代によって餌とする植物を変える(寄主転換)種があり、移住性アブラムシと呼んでいます。
アブラムシは同じ種の中で翅を持たない無翅型と翅を持つ有翅型がいます。前者は幼虫をどんどん産むタイプです。後者は体長よりも長い翅を使って移動し、移動先で無翅型の幼虫を少数産みます。
アブラムシは食物連鎖の下位の部分を担っており、陸上でのプランクトンのような役割を果たしています。
クイズの答え:ヒラタアブの仲間の卵 (ヒラタアブの親は、卵がかえったときに幼虫が餌に困らないように、幼虫の餌となるアブラムシの生息する場所に卵を産んでおく)