提言「カメが生息する自然と生物多様性を守る」
2014年4月11日
公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 亀山 章
提言「カメが生息する自然と生物多様性を守る」
「自然しらべ2013 日本のカメさがし!」の成果をもとにして、日本の生物多様性の保全に向けた提言をまとめました。
1.外来種ミシシッピアカミミガメ これ以上増やさない、放さない、飼い続ける
a)ペット飼養者の適正な飼育と終生飼養の徹底
ミシシッピアカミミガメが、野外でこれほど増えた原因は、ペットのカメを無責任に野外に放してしまったことにあります。今、飼っている飼養者は適正な飼育の推進と終生飼養を徹底することが重要です。また、寿命の長い生き物であるため、新たな飼養者への譲渡、引取り処分のシステムなども必要で、市民・行政・産業界・専門家が連携したシステムが求められます。
動物愛護法では、動物の虐待および遺棄、逸走の防止、終生飼養、みだりな繁殖の禁止、所有者の明確化がうたわれており、動物取扱業者には、販売時に現物確認と対面説明の義務が課せられています。この法律を管轄する環境省は、飼養者への普及啓発、業者への取締り等を積極的に行い、民間連携による譲渡・引取についての枠組みの検討を行うべきです。
b)タト来生物法による輸入と流通の規制
ミシシッピアカミミガメが年間約20万匹輸入(2011年貿易統計から環境省試算)され、流通している状況をまず変えなければなりません。外来生物法では対象の生物に輸入禁止等の規制がかけられるため、「特定外来生物」に指定することが有効です。指定されれば、ミシシッピアカミミガメとその近縁種の輸入を禁止して、順次、流通販売の規制をすることができます。
一方で、すでに飼われている個体の大量遺棄も想定されるため、環境省は、飼養等許可について暫定処置を設けるなど柔軟に段階的な法の運用ができるようにし、終生飼養を原則とする動物愛護管理法と連携を図るべきです。また、指定にあたっては、一般の飼養者や動物取扱業者、関係NGO・研究者への理解を十分に図ることが重要です。
(参考)環境省では2010年に生物多様性条約第10回締約国会議で採択された愛知目標において、「2020年までに侵略的外来種とその定着経路が特定され、優先順位付けられ、優先度の高い種が制御され又は根絶される。」という個別目標にもとづき、「侵略的外来種リスト」(仮称)と「タト来種被害防止行動計画」について、専門家による検討会を設け検討が行われている。中央環境審議会の意見具申(平成24年12月)でも、ミシシッピアカミミガメを想定し「我が国の生態系等に大きな影響を及ぼしているにもかかわらず、飼養等を規制することによって大量に遺棄される等の弊害が想定される外来生物については、弊害が生じないよう段階的な規制の導入等の経過措置を講じた上で、特定外来生物に指定することを検討すべきである。」とされている。
c)ミシシヅピアカミミガメの防除の推進
徳島県のレンコン栽培地では、ミシシッピアカミミガメメによる新芽の食害など農業被害が出ています。また、農薬用のため池や都市公園の池などで本種の駆除活動が行われています。このような現場では、今後、外来種の防除を進めていくうえで民・官・産・学が一体となった取り組みが何よりも不可欠です。特に地方公共団体は,管理者であり農業や水利権などの調整を担う立場からも大きな役割があります。環境省は、地方公共団体が調整役を率先できるよう、各地域のモデルとなる優良事例の推進と共有をすべきです。
現場の取り組みでは、市民の参加や資金的援助を求めている活動も多くあります市民の役割として、取り組むNGOや研究機関、行政に関心をもって参加・支援することも大きな貢献につながります。
▲2013年の調査よりミシシッピアカミミガメ(左:千葉県成田市、右:兵庫県内)
※写真クリックで拡大します
2.ニホンイシガメと南西諸島の希少種の生息地の保全をすすめよう
今回の調査ではニホンイシガメだけが生息している可能性のある生息地が全国から見つかりました。そのような地域は水辺エコトーン(水陸移行帯:深みから浅瀬のある水辺、草地、田畑、樹林にかけての環境)が健全な状態で残されている可能性があります。ニホンイシガメが乱獲されないよう、生息する環境にペットのカメが遺棄されないよう監視したり、積極的にその環境を保全管理していくには、行政と市民の連携が何よりも必要です。
また、琉球列島のリュウキュウヤマガメ(国天然記念物・絶滅危惧Ⅱ類)やヤエヤマセマルハコガメ(国天然記念物・絶滅危惧Ⅱ類)は希少性だけでなく、世界遺産登録を目指す琉球諸島にとっての生物地理学的価値を示す生物です。一方、ヤエヤマイシガメなど八重山列島の一部の島に分布していたものが、ペットとして人為的に移動させられたり放たれたことにより、琉球列島や本州で生態系への被害やニホンイシガメなどとの交雑を引き起こしています。
環境省と地方自治体は、国内でも生物多様性のホットスポットといえる琉球諸島のカメ類の調査を進め、生息地の保護地域化など保全対策を積極的にすすめるべきです。
以上
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