(仮称)三重松阪蓮ウィンドファーム発電所計画段階環境配慮書に対して意見書を出しました。
日本自然保護協会(NACS-J)は、三重県松阪市および大台町で計画されている(仮称)三重松阪蓮ウィンドファーム発電事業について、環境配慮書段階で以下のような点で、自然環境への影響が大きいと予測されるため中止すべきとして事業者に意見を出しました。
1)種の保存法の政令指定種イヌワシとクマタカの個体群に影響を及ぼす懸念がある
2)ブナ林やモミ・ツガ林などの植生自然度の高い植生が喪失する
3)室生赤目青山国定公園内の重要な地域での立地による生態系への影響の懸念がある
4)「大台ケ原・大峯山・大杉谷ユネスコエコパーク」への影響が危惧される
5)下流部での土砂災害の危険性増大が危惧される
(仮称)三重松阪蓮ウィンドファーム発電所における 計画段階環境配慮書に対する意見書(PDF/894KB)
2021年8月30日
(仮称)三重松阪蓮ウィンドファーム発電所における
計画段階環境配慮書に対する意見書
〒104-0033 東京都中央区新川1-16-10 ミトヨビル2F
公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 亀山 章
(仮称)三重松阪蓮ウィンドファーム発電事業実施区域は、イヌワシとクマタカの生息確認区域であり、発電所建設予定地である台高山脈の尾根部は植生自然度9のブナなどの自然林が広範囲に分布している。そのため、本事業は自然環境へ重大な影響があることは明白である。また、風力発電機設置想定範囲の全域は「室生赤目青山国定公園」および「香肌峡県立自然公園」に指定され、事業実施想定区域の一部は「大台ケ原・大峯山・大杉谷ユネスコエコパーク」に指定されており自然環境の保全が強く求められているエリアである。日本自然保護協会は、本事業に対して下記のような懸念から、自然環境への影響が大きいと予測されるため、本事業は配慮書段階で中止すべきであると意見する。
1)種の保存法の政令指定種イヌワシとクマタカの個体群に影響を及ぼす懸念がある
対象事業実施区域では、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」(種の保存法)において国内希少野生動植物種に指定されているイヌワシおよびクマタカの生息が確認されている。特に、国の天然記念物にも指定されているイヌワシは、絶滅の可能性が極めて高く紀伊山地のイヌワシ個体群は、他地域の個体群とは生息地が分断され孤立しており、個体数も少なく繁殖も極めて厳しい状態にあると思われる。本事業により同地域のイヌワシの生息環境を脅かし、生息個体を発電施設への衝突事故の可能性にさらすことは、紀伊山地のイヌワシの個体群を絶滅に追いやることに繋がると懸念される。環境省は2021年8月19日に「イヌワシ生息地拡大・改善に向けた全体目標」を発表し、地域ブロックごとのつがい数・繁殖成功率の目標値を設定した。目標値達成にむけた「生息環境改善促進候補地」に紀伊山地も含まれており、本事業は今後求められるイヌワシの保全の取り組みに逆行するものである。
2)植生自然度の高い植生が喪失する
対象事業実施区域Aエリアの白倉山、江股ノ頭および迷岳周辺、およびDエリアの一部では、尾根部を中心に植生自然度9のブナ林やモミ・ツガ林が広範囲に分布し、周辺地域で自然度が最も高いエリアである。貴重な森林の一部は、環境省指定の特定植物群落「迷岳のブナ林」となっている。本事業を実施するためには、これら自然度の高い森林の伐採は避けられず、自然環境保全上から看過できるものではない。このような自然環境に立地計画をした事業者の見識が問われる。
3)室生赤目青山国定公園内の重要な地域での立地による生態系への影響の懸念がある
対象事業実施予定区域Aエリアの白倉山周辺は、室生赤目青山国定公園内の第2種特別地域に指定されている。さらには白倉山直下の江馬小屋谷周辺は第1種特別地域である。本事業実施により、国定公園の第2種特別地域の貴重な自然に直接的な損傷を及ぼすだけでなく、江間小屋谷周辺の第1種特別地域の自然環境への影響が及ぶことが強く懸念され、自然公園法の目的である生物の多様性の確保が出来なくなることは明白である。
4)「大台ケ原・大峯山・大杉谷ユネスコエコパーク」への影響が危惧される
事業想定区域の一部は「大台ケ原・大峯山・大杉谷ユネスコエコパーク」の「移行地域」にあたる。ユネスコエコパークは自然と人間活動の共生のモデル地域とされ、近年は「移行地域」での活動が重要視されている。移行地域は「核心地域」のような厳重な保護は求められていないが、自然環境の利活用に関しては地元住民の合意が強く求められている。「大台ケ原・大峯山・大杉谷ユネスコエコパーク」の管理運営団体の一つである大台町の同意が不可欠であり、同意なく事業を実施することは、本事業がユネスコエコパークの価値を損なうものとみなされる。
5)土砂災害の危険性増大が危惧される
事業実施区域Cの下流部の大崩谷など、およびDエリア下流部の飯田原谷は「土石流危険渓流」に指定されており、過去に土石流が発生した地形的な特徴がみられる。そのため、流域には多数の砂防ダムが存在している。このような土石流の危険が高い河川の流域の上流部で大規模な伐採を伴う開発を行うことは、下流域に災害リスクを高めることに繋がる可能性が大きい。
以上