【配布資料】今日からはじめる自然観察「草紅葉・枯野で俳句を楽しむ♪」
<会報『自然保護』No.536(2013年11・12月号)より転載>
このページは、筆者に、教育用のコピー配布をご了解いただいております(商用利用不可)。ダウンロードして、自然観察会などでご活用ください。
夏の間、緑色に輝いていた草はらは、秋とともに赤、黄色、紫と色づき、次第に枯れていきます。
そんな草はらで、数々の俳句が詠まれてきました。
あなたも草はらを観て感じたことを言葉にして、一句つくってみませんか!?
髙野哲司(自然観察指導員・IPNET-J参与)
枯野見に出かけよう!
「化物(幽霊)の正体みたり枯れ尾花」
この句は、江戸時代の俳人・横井也有が詠んだもので、ことわざにもなっています。ところで「枯れ尾花」を実際に観たことはありますか? 実は、尾花とはススキのこと。穂の形を動物の尾っぽに例えて名付けられています。朝、ススキに露が宿ることから「露見草」とも呼ばれています。
江戸時代には「枯野見」という風習がありました。「枯野見」とは、枯れた草の原っぱを見物に行く冬のハイキングのようなものです。江戸時代の人たちは、冬枯れの草原にも風情を感じてきました。俳人・与謝蕪村は、夕暮れ時の枯野を見て、
「暮れまだき星の輝く枯野かな」
と詠みました。今風の枯野見であれば、枯れ草を摘んで、クリスマスのリースをつくるのも楽しいものです。
「草紅葉 書をふところに 畦に来る」
有名な俳人、水原秋桜子の句です。晩秋から初冬にかけて、樹木の葉が色づくとともに、草も色とりどりに色づきます。草が色づく現象のことを「草紅葉」といいます。エノコログサというイネ科の草では、夏場は観ることができなかった紅色、赤紫色、黄金色などのさまざまな色が葉や穂の色に出てくることがあり、その多様さに驚くことがあります。
水辺では、ハスの葉が枯れて茎が曲がった様子を観察することもできる季節です。俳句の季語を集めた「歳時記」では、秋の季語として「敗蓮」、また冬の季語として「枯蓮」が載っています。ハスという植物の地上部分が枯れていることには変わりはないのですが、同じ植物でも季節ごとに詠み分けがなされていることから、人々はその枯れた葉や実に趣を感じてきたのでしょう。
「枯蓮を被むつて浮きし小鴨哉」
小説家の夏目漱石が読んだ句です。草を1本1本じっくりとみつめてみると、色とりどりの草紅葉の世界や、「わび・さび」「もののあはれ」を感じ取ることができるでしょう。
野草たちのまた違った一面を愛でたら、季節の言葉をひとつ入れて、5・7・5のリズムに乗せ、ぜひ俳句を詠んでみてください。
▲「江戸名所花暦・巻之4」に描かれた「枯野」。
田んぼのあぜ道を歩く人々の姿と草を観察している人の姿が描かれている。ススキなどの野草も見える。現在の東京都の豊島区雑司ケ谷付近。(国立国会図書館蔵)江戸の「枯野見」人気スポットは、向島の長命寺周辺。
▲写真上(a):枯れ草のクリスマスリース、写真下(b):枯蓮
草紅葉の観察ポイント
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1)植物全体の色づきを観る。
野草の場合は植物全体が色づくことが多いです。イヌタデ(タデ科)の場合は、花穂や茎、葉っぱなど草全体が赤く色づきます。
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2)普段見られない色が見えてくる。
草たちは、秋が深まるころになって初めて、夏場の緑色の時には見ることができなかった、もう一つの表情を「草紅葉」として私たちに見せてくれます。葉っぱが橙色、黄色、紫色、桃色などいろいろな色に、美しくそして可憐に色づくことが大きな魅力です。その年の気候や草が生えている場所の違いによっても、葉っぱの色づきはさまざまです。
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3)同じ種類でも色づき方が違う。
同じ種類でも葉っぱごとに色づき方が少しずつ違うことも草紅葉の魅力です。例えば、ヨモギ(キク科)では橙色に色づく葉っぱと赤紫色に色づく葉っぱがあります。秋から冬にかけて、草との一期一会の出会いを楽しむこと、それが草紅葉の観察であるといえるでしょう。
写真:b~i 伊藤信男
クイズの答え:A→ススキ、B→オギ、C→ヨシ
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