日本政府、沖縄県知事、浦添市長に那覇軍港の浦添への移設計画の見直しに関する意見書を提出しました
日本自然保護協会(NACS-J)は、米軍那覇港湾施設(那覇軍港)の浦添海域への移設に対し、日本政府、沖縄県知事、浦添市長に要望書を提出しました。
埋め立ては、ウミガメ類、シオマネキ類、オカヤドカリ、カサノリなどが棲む当海域の生物多様性を損なうものです。
この計画を見直し、大切な財産であるサンゴ礁を守り、次世代に引き継ぐことを要望しました。
日本政府宛
那覇軍港の浦添への移設計画の見直しに関する意見書(PDF/175KB)
沖縄県知事宛
那覇軍港の浦添への移設計画の見直しに関する意見書(PDF/182KB)
浦添市長宛
那覇軍港の浦添への移設計画の見直しに関する意見書(PDF/182KB)
<浦添市長宛>
2021年1月25日
浦添市長 松本 哲治 様
公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 亀山 章
那覇軍港の浦添への移設計画の見直しに関する意見書
米軍那覇港湾施設(那覇軍港)の浦添海域への移設に対し、日本自然保護協会は、沖縄の生物多様性の保全を訴えてきた立場から、この貴重な海域において事業を実施することについて、意見を述べます。
那覇軍港の移設が予定されている浦添の海域には健全なサンゴ礁生態系が広がっています。外洋に面したサンゴ礁、広大に広がる浅いイノー(礁池)、潮間帯、外洋水が出入りする深い水路など、カーミージー(亀型の岩礁)から西洲に至る幅3 kmほどの海域は、多様な環境が組み合わさり、その結果として高い生物多様性が保たれています。
海草藻場には絶滅危惧種であるウミガメ類の食み跡が多く記録され、旧暦6月1日にはスク(アイゴ類の稚魚)がイノーに入り、シオマネキ類やオカヤドカリなどの多くの底生生物や魚類が生息しています。カサノリや海草藻場を構成するリュウキュウスガモ、ウミヒルモ、マツバウミジグサなど準絶滅危惧種も確認されています。
沖縄島西海岸一帯のサンゴ礁は1998年の気候変動による大規模な白化現象の影響を受けてサンゴの被度が5%未満に下がり健康度が大きく落ちた状態が長く続いていましたが、日本自然保護協会が、2020年10月と11月にこの海域の調査を行ったところ、サンゴの被度が30~40 %まで回復していました。20年以上かけてやっとサンゴ礁が回復傾向になったものと考えられます。
2020年8月18日に沖縄県・那覇市・浦添市で合意された「那覇軍港移設・北側配置案」の計画は、突然のことであり、多くの市民から説明が不足しているという声が上がっています。
浦添のこの海域は小中学校の総合学習や市民による自然観察会、釣り、潮干狩り等、多くの市民に親しまれている場所です。すでに埋め立てが済んでいる「第一ステージ」では市民の働きかけにより、当初予定されていた埋め立て面積が半分となり、残りを橋梁化して海を残すように変更させたという画期的なことがありました。
さらに沖縄県初の「里浜条例」(浦添市里浜の保全及び活用の促進に関する条例)が制定されるなど、環境の分野で先進的な取り組みが行われていることが高く評価されています。このようななか、海の自然環境を損なう計画に多くの市民が賛同するとは考えられません。
埋め立てに関する環境影響評価では、埋め立ての影響は直接の改変地以外には及ばないことになっていますが、実際の事例をみると、環境への影響は直接の改変地にとどまることはなく、改変地の周辺にも広範囲に及ぶことが知られています。
埋め立て工事が進む泡瀬干潟では、日本自然保護協会が2002年から行っているモニタリング調査によって、埋立地周辺に工事の影響が広く及び、アジサシやウミガメ類が産卵に用いていた砂州が消失し、海草、貝類、サンゴ類などにも影響が及んでいることが明らかにされています。辺野古では、埋立地周辺の海域のサンゴ礁の健康度が下がっており、これは工事と気候変動の両方に起因するものと考え、今後広く及んでいくと予測されています(日本自然保護協会 2013)。
したがって、56haもの埋め立てを伴う本計画を進める場合に、影響は海域全体に広がり、カーミージー一帯の「自然環境を保全する区域」の生物多様性に影響することは避けられません。
2016年より気候変動による影響が沖縄のサンゴ礁にも再び及びはじめています。回復途上のサンゴ礁や海草藻場の保全は、国の気候変動対策にも貢献することであり、観光資源としても有益になるものです。
以上のことから、浦添市には本計画を抜本的に見直していただき、大切な財産であるサンゴ礁を守り、次世代に引き継いでいただきたく要望いたします。
ご参考
日本自然保護協会(2011)沖縄・泡瀬干潟 海草藻場モニタリング調査結果と埋立事業の問題点
日本自然保護協会(2013)「普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価書(補正後)」への意見
海中での調査は、専門性と十分な費用が必要です。
長年にわたり調査を続け、それをもとに科学的な提言を行うことができたのは、皆さまのご寄付があったからこそです。
心から感謝するとともに、今後ともご支援をお願いいたします。