意見書その3 (2005年日本国際博覧会および新住宅市街地開発事業計画の問題点)
2)2005年日本国際博覧会および新住宅市街地開発事業計画の問題点
2)- 1. 2005年日本国際博覧会事業計画の問題点
1. 2005年日本国際博覧会の会場計画には、自然環境への影響を回避・低減するための複数案が検討されていない
会場計画に関する説明には、複数案を検討したと述べられているが(万10)、施設配置が異なる二つの案が示されているだけであり、ゼロ案(影響が大きい場合に実施しない案)や、環境に影響の少ない案(海上の森の外で開催する案)など、自然環境への影響を回避・低減するための複数案が、全く検討されていない。
保全生態学の立場から見て、多種の保全上重要な生物が、広範囲に散在して分布している海上の森の自然環境を保全するには、想定入場者数、施設計画などの会場計画を見直すしかない。
2.2005年日本国際博覧会の会場計画は熟度が低く環境影響評価が成立していない
2005年日本国際博覧会は、その展示・会場計画が決定されていない中で、環境影響評価を実施してきた。このため、厳密な意味では予測評価ができていない。2005年日本国際博覧会協会は、これを新しい手法であり、「環境影響評価の実施と並行して会場計画を策定することが可能です(万・はじめに)」としている。しかし、このような主張は、アセスメントとしては成立しない論旨であり、このような詭弁が通るのであればアセスメントは瓦解する。アセスメントは事業の開始以前に完結しなければならない。
着工した後で計画変更になった場合、着工によって失われた自然はとりかえしがつかず、事前にアセスを実施する意味がなくなるからである。計画が変更になれば(縮小は別として)アセスメントはやり直しになるのが当然である。
3. 2005年日本国際博覧会の会場計画の説明にはこれを妥当とする根拠が示されていない
準備書における、2005年日本国際博覧会の事業計画に関する説明は、これを妥当と判断した検討の経過や判断根拠が全く示されず、検討結果のみが記述されている。一例をあげれば、想定入場者数2,500万人(計画基準日における入場者数275,000人)、開催時間午前9時から午後10時までとするが、閉鎖時間帯を設けず24時間連続して開催する期間を設けることを検討、展示施設・催事施設以外に、消防施設、ヘリポート、アミューズメント施設を設ける等(万7)である。
また施設計画、ゾーニング計画が、くるくると変わっているが、その理由の説明がない。一例をあげれば、トポス型・領域型展示空間が、なぜ選択されたのか、それによって本当に環境に与える影響を回避・低減できるのかの説明が全くない。森林体感空間はなぜB・Cゾーンまで広がっているのか、またAゾーンの影響を拡大することにはならないのかの説明がない。平成8年にBIEに示したゾーニングと平成10年に発表されたゾーニングは異なり、保全地域であるBゾーンに利用地域であるAゾーンが食い込んでいる地域もある。なぜゾーニングが変わったのか、それによって環境への影響は回避・低減できるのかの説明が全くない(万10.17.26)。
4. 2005年日本国際博覧会の過大な入場者数が自然環境に与える影響が予測評価されていない
「想定入場者数2500万人(計画基準日における入場者数275,000人)、開催時間午前9時から午後10時までとするが、閉鎖時間帯を設けず24時間連続して開催する期間を設ける」と述べられている(万7)。このインパクトをきちんと予測評価すべきである。
半年で2500万人、計画基準日において27.5万人の入場者が、Aゾーン(第1案80ha、第2案77.5ha)に集中して入場するという密度は、東京ディズニーランドの平均入場者(52.5haに日平均4.6万人)の4倍、新宿御苑が最高に混雑する花見時期の入場者数(58.3haに1日4万人)の5倍の密度である。また、Aゾーンだけでなく、B・Cゾーンを含めた540haに入場者を分散したと仮定しても、武蔵丘陵森林公園の入園者数(304haに年79万人、日平均約2,500人)の62倍となる。これだけとっても野生生物には大きなインパクトを与えることは明らかである。にもかかわらず、さらに 24時間営業を考えるとは何ごとであろうか?
5. 2005年日本国際博覧会の森林体感空間・水平回廊計画は森への影響を拡大する
2005年日本国際博覧会の理念に関する説明のうち、自然とのふれあいに関する記述と森林体感空間・水平回廊計画には大きなギャップがある。「環境プログラム-自然とのふれあい」(万39)には、「里山の自然をもっとよく知るには、森に入るしかありません。しかし、多くの人が同時に森に入り込んだのでは、微妙な自然と人間とのバランスは壊れてしまいます。」と書かれ、その対策として、限られた人数を対象とした専門的な野外環境教育の実践などが提案されている。
しかし一方で、「一般の来訪者を対象とした森とのふれあいプログラム。水平回廊沿いに展開される、バーチャルリアリティもフルに活用した野外展示」などが提案され、「車椅子からも、ある時は森の上、ある時は土の中というように、自然を楽しむことができる」と説明されている。しかし、水平回廊計画は、地上部分を支える地中の構造まで含めれば、工事の際の資材の搬入および施工、供用時の野鳥などへのインパクトなど、大きな環境影響が予想される。にもかかわらず、水平回廊については、多人数が森に入るインパクトを低減するものと勝手に解釈して、これに関する影響の予測評価を全く行っていない。車椅子で自然にふれる施設を、このような地形の場所に作る必要があるのかどうかを含め、再検討すべきである。
6. 2005年日本国際博覧会の理念の説明では、里やま(里地・里山自然)の保全の考え方を矮小化している
2005年日本国際博覧会の理念に関する説明の中で、海上の森がもつ「里やま(里地・里山自然)」としての価値が過小評価され、「里山林」の保全の問題に議論が矮小化されている。
「12の森の構想-12.資源と環境の森」(万34)、「環境プログラム-人と自然とのかかわり」(万39)で示されている「里山」は、NACS-Jが保全すべきだと考える「里やま(里地・里山自然)」の一部である「里山林」のみに言及したものである。準備書は、「里山林」のみに注目し、「ただ自然のままに放置しただけでは、里山の生物多様性は維持できない」と述べているが、「里やま(里地・里山自然)」全体をとらえる視点にたてば、「里やま(里地・里山自然)」を構成する、田畑、用水路、ため池、渓流、屋敷林、山道、古窯など、さまざまな景観要素とそれらからなる「里やま」の景相(ランドスケープ)が保全されなければならない。2005年日本国際博覧会および地域整備事業は、海上の森の「里やま」景観を全く変えてしまう計画であり、「里山林」のみの持続性を論じるのは、守るべき「里やま(里地・里山自然)」の価値が全くわかっていないといわざるを得ない。
1995年の閣議了解において、会場計画具体化の際に、自然環境に十分に配慮することが求められている。また環境アセスメントの生態系の項目でも、里地生態系を調査対象としていることから、配慮すべき自然とは「里やま(里地自然)」を指していることは明らかである。にもかかわらず、準備書の「はじめに」(万・はじめに)には、「里山利用のあるべき姿について考える」と、里山の自然環境保全よりは、里山利用の観点が強調され、二次的自然としての雑木林の評価が低く見積もられている。
「ただ自然のままに放置しただけでは、里山の生物多様性は維持できない」(万39)と述べられているが、一方で海上の森を博覧会会場として利用した場合、雑木林の減少が生物の多様性の低下にどれほど影響を及ぼすかについて言及されていない。生物の多様性の維持には、基本的に面積の大きさが効いていることも一般的な原理として知られている。 「薪炭林や農用林としての利用がされなくなった丘陵地の森林は・・・放置がすすんで、自然が荒廃しています」(万39)と述べているが、荒廃という表現には人間の恣意的な価値観が投影されている。「この会場候補地の自然は、繊細な人間の関与を必要としています」(万39)とも述べているが、博覧会会場として利用することは、繊細な関与どころではなく、重大な干渉であることを認識すべきである。
2)- 2. 新住宅市街地開発事業計画の問題点
1.新住宅市街地開発事業の自然環境への多大な影響は、「自然環境にやさしいまちづくり」という理念と矛盾する
新住宅市街地開発事業の準備書には、環境共生型の科学研究都市づくりが唱われている(住1/2-5)。しかしこの準備書でも明らかなように、このような都市づくりそのものが、海上の森に対して大きな影響を及ぼすものであり、環境共生という事業目的と明らかに矛盾する。また整備にあたっての基本的方向の一つの「自然環境にやさしいまちづくり」の項目には、「緑地として回復する場所では、生物の生息生育空間に配慮した新たな自然環境の創造にとりくむ」とうたわれている。しかし、この準備書でも明らかなように、新住宅市街地開発事業はきわめて重大な自然破壊を伴うものであり、事業の基本方針との重大な矛盾をはらんでいるといわ
ざるを得ない。
2. 新住宅市街地開発事業は、大量の住宅供給が求められた、過去の時代の計画であり、根本的な見直しが必要である
新住宅市街地開発事業は、高度経済成長によって、大量の住宅供給が求められた1960年代の計画であり、当時は計画的な住宅市街地の形成という役割を果たしたが、一方で多摩丘陵をはじめ生物多様性が豊かな里やまの自然を大規模に破壊してきた。住宅供給が過剰になっている現在、新住宅市街地開発事業は、残された里やまを守るという観点からだけでなく、公共事業の再評価という観点からも見直しが必要である。実際、瀬戸市南東部地区新住宅市街地開発事業では、事業規模を新住宅市街地開発事業として最小限の2000戸、人口6000人とした結果、小学校はあるが、中学校はないという中途半端な計画となり、中学生は直線距離にして2.5km、道なりではおそらく4km以上離れた学校に通学しなければならない。新住宅市街地開発事業全体の時のアセスメントが必要である。