埋立地用途変更(普天間飛行場代替施設建設事業)に係る利害関係人の意見書を提出しました
防衛省沖縄防衛局は4月、公有水面埋立法に基づき工事の内容の変更について沖縄県に「設計変更承認申請書」を提出しました。これを受けて沖縄県は、9月8日~28日の期間、設計変更承認申請書を告示・縦覧し利害関係人の意見を募集し、集まった意見をもとに、沖縄県知事がこの変更を承認するかどうかを判断することとなっています。
28日、日本自然保護協会は、辺野古・大浦湾の豊かな自然環境の保全に取り組む立場から、利害関係人として沖縄県に対しこの「設計変更承認申請書」の内容の問題点を指摘する意見書を提出しました。
埋立地用途変更(普天間飛行場代替施設建設事業)に係る利害関係人の意見書(PDF/331KB)
2020年9月28日
沖縄県知事 玉城 デニー 殿
公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 亀山 章
埋立地用途変更(普天間飛行場代替施設建設事業)に係る利害関係人の意見書
日本自然保護協会は、辺野古・大浦湾の豊かな自然環境の保全に取り組んでいる立場から、以下の意見を申し述べます。
今回の設計概要変更承認の申請において第一の問題は、絶滅危惧種であり国の天然記念物であるジュゴンに対する扱いです。環境影響評価の際にはジュゴンに影響を与えないということが保全措置としてあげられていました。これまでに、沖縄島東海岸に棲息していたジュゴン2頭が行方不明となり、昨年12月に国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストにおいて南西諸島ジュゴン個体群に「近絶滅」の評価が下されるという結果につながっています。最近になりジュゴンの音声らしき音が記録されていますが、人工物が風の影響を受けて出している音かジュゴンの鳴音か、いまだに判明していません。これに対して、IUCNから提案された(IUCN、2019)ドローンや環境DNAなどのあらゆる方法を用いて探す、という姿勢は見られておりません(防衛省交渉、8月21日)。つまり国際的にも関心を持たれているジュゴンの現状を把握できておらず、把握するために全力を尽くすという意図もみられません。
これは、ジュゴンに「影響なし」と予測評価した防衛局の環境影響評価(2012年)の考え方と相反するものであり、環境影響評価や環境監視等委員会が環境保全のために機能していないことを如実に反映しています。
第二の問題は、第一とも関連しますが、これまでの工事や作業の影響が科学的に検証されていないことです。多数の船舶が継続的に航行することに伴う騒音等の影響、護岸設置や大型のコンクリートブロックが300個近く海に沈められたことによる海流の変化、科学的に問題の多い方法でのサンゴや海草の移植と貝類や甲殻類の移動など、これまで進められてきたことが生態系に及ぼす影響が科学的に検証されておりません。また、土砂投入に伴う水質の劣化、騒音の影響など、これまで継続的に海の生き物にストレスを与えてきた累積的影響が科学的に検証されていません。例えば、水の濁り自体は低濃度であっても、その影響が累積することにより、サンゴや固着性の貝類などの生物の生存に影響が及ぶ可能性があります。同様に、一定以下の音量でもその影響が累積することにより、ジュゴンやカンムリブダイなどの生物に影響が及ぶ可能性があります。今回の申請では、地盤改良に伴う杭打ち作業などの水中騒音の最大値のみを持ち出し、環境影響評価(2012年)時と比べて小さいのでジュゴンへの影響はないと結論づけていますが、最大値の騒音のみが生物に影響を及ぼすのではなく、長期間続くことが累積的影響につながるのです。
第三の問題は、埋め立て土砂の調達予定地です。防衛省は埋め立て資材として必要な土砂については沖縄県内で調達できると述べていますが(沖縄タイムス 2019年12月29日など)、申請書には広く九州4県の採石場について土砂採取が可能かどうか検討していることが記載されています。また9月24日に実施した防衛省交渉の場においても九州も候補地に挙がっていることを防衛省は否定していません。土砂の移動に伴う問題の1つは外来種侵入のリスクが増えることです。2016年にIUCNから日本政府に出された勧告では「明確な生物地理学的な区域を超えた物資の移動は外来種の侵入のリスクを高めることに注意する」ようにと書かれており、県外からの土砂搬入の際には厳重な注意が必要です。
沖縄県は県外からの土砂の移動を埋立土砂条例で規制していますが、「県境」は人間の都合で作られているものです。申請書では新たに沖縄県の八重山諸島や南大東島などの離島についても土砂採取の可能性についての調査がなされています。事業者がこれらの場所から調達すれば県条例の対象からは免れるかもしれませんが、同じ県内であっても沖縄島とは異なる自然を持つ島々からの調達は、外来種侵入のリスクを高めることになります。
さらには、新たに土砂調達の可能性があると記載されている沖縄島南部や宮城島については、外来種問題が生じる可能性は県外や沖縄の離島から持ち込む場合よりは低いと考えられますが、前例のない分量の土砂の移動となるので、リスクがないとは言えません。海砂の採取地については記載がありませんが、調達する分量が記してあるため、県内を中心として調達するものと考えられます。
沖縄島の中でも北部と南部では陸上や海中ともに動植物の分布が異なり、サンゴ類の遺伝子型が西海岸と東海岸で異なる事例も見られ(Abe et al 2008)、同じ島でも場所が異なれば遺伝子型が違うという研究(沖縄科学技術大学院大学、2015)もあり、アオサンゴのように勝連半島と大浦湾でさえ遺伝子型が異なる例もあります。サンゴ類のみならず、最近になっても沖縄の海の各地から新種や日本初記録種の生物の発見があるということから、沖縄の海の生物多様性は十分に解明されていないことが伺える。従って土砂や海砂を大量に移動させることは、異なる遺伝子を持つ生物や未発見の生物を混ぜる可能性があることを意味し、本来の沖縄の海の生物多様性を知る機会を永遠に失うことを意味します。申請書にはこのリスクに対する予測評価がなされていません。
土砂移動に伴う問題には、土砂採取地の自然破壊があります。1つ1つの採石場の規模は環境アセスメントにかける規模ではないこと、そして採石業者が環境破壊の責任を取ることとされているため、大量の土砂を取られる場所への影響を考慮しなくても工事は進められることになっています。沖縄の脆弱な島嶼生態系への影響は甚大であると考えるべきです。
さらには、今回の申請には軟弱地盤の実態や地盤改良方工事の具体的内容の記述がありません。世界で前例のない工事であり7万本以上となる大量の砂杭を用いて軟弱地盤を改良すると技術検討会では議論されていますが、本申請書にはそれらについての記載がありません。事業者は技術検討会や環境監視等委員会で議論しているから申請書には書かなくても良い(防衛省交渉、9月24日)という認識を示していますが、本来は申請書に記すべきことです。
工法の詳細を明確にせず、明記されている環境影響評価や保全措置は科学性を欠いていることから、沖縄の脆弱な自然環境を守れないと考えられます。
以上のことから、告示・縦覧されている設計概要変更承認申請書には多くの不備があり、沖縄県知事は本申請を不承認とすべきであります。
参考文献:
- Abe,Mariko et al.(2008) Genetic and Morphological Differenciation in the Hermatypic Coral Galaxea fascicularis in Okinawa, Japan. Plankton and Benthos Research 3(3): 174-179
- 沖縄科学技術大学院大学(2015-12-10)「沖縄のサンゴ礁保全に新たな説の提唱」
https://www.oist.jp/ja/news-center/press-releases/22709 - Yasuda et al.(2012) Large-scale mono-clonal structure in the north peripheral population of blue coral Heliopora coerulea Marine Genomics. Volume 7, September 2012, Pages 33-35