意見書その2 (環境影響評価の仕組みに関わる問題点)
1)環境影響評価の仕組みに関わる問題点
2005年日本国際博覧会、瀬戸市南東部地区新住宅市街地開発事業および名古屋瀬戸道路の3事業の環境影響評価は、その手続きにおいて、以下のような共通した問題を有している。とくに21世紀の環境アセスメントを標榜して実施された2005年日本国際博覧会の環境影響評価が、このようなものであったことは、6月から施行される環境影響評価法に与える影響が大きい。
1.方法書に対する市民からの意見の軽視
計画書(方法書)に対する意見を公募しながら、意見の集約、意見に対する見解を、準備書縦覧時期まで公表せず(2005年日本国際博覧会事業は準備書縦覧の14日前にやっと公表)、計画書(方法書)の確定を行わないまま準備書の公告縦覧手続きに入ったことは、計画書(方法書)に意見を寄せた国民の期待を大きく裏切るものである。
当協会も、1998年6月1日に計画書(方法書)に対する意見書を提出したが、2005年日本国際博覧会協会、愛知県から、この意見書にどのように反映したかの十分な説明はなく、数多くの建設的な提言はほとんど無視された。とくに里やま(里地・里山自然)の評価、コケ植物等の調査、視覚的景観に限定しない景観(景相)の調査に関しては、わざわざ通産大臣に技術的助言を求める(1998年9月)という形をとって取り組みを放棄している。
今後の環境影響評価において、重要な評価軸となる項目を調査し予測評価するチャンスを逃したことは、大きな問題である。
2.環境アセスメントを市民の合意形成の過程とする意識がない
計画書(方法書)の説明会、意見交換会については、統一資料においてわざわざ波線を引いて、環境影響評価法が求める以上の任意の取り組みをしたと強調している。しかし、計画書(方法書)の説明会(1998年4-5月)は、2005年日本国際博覧会協会や愛知県からの一方通行の説明に過ぎないという批判を受けた。また準備書の説明会(1999年3月)は、回数を増やし意見交換の場としたが、まだ発言を希望する参加者がいるにもかかわらず緞帳を下ろして幕引きする(3月6日)など、環境アセスメントを市民の合意形成の過程とするという意識が全く感じられない。
3.わずか1年の調査期間で早急な結論を出したことの問題
計画書(方法書)の公告縦覧(1998年4月)から1年も経過しないうちに、調査を終了させて準備書が公告縦覧(1999年2月24日)された。この性急な手続きは、地域整備事業(新住宅市街地開発事業・名古屋瀬戸道路)に関わる都市計画決定を優先したスケジュールであり、環境影響評価を単なる通過儀礼と考えているとしか思えない。また愛知県が、環境影響調査の終了さえ待たずに、工事調査のためのボーリング調査を開始したことは、環境影響評価の軽視を自ら証明するような行為であった。
4.代替案のない環境アセスメントは「アワセメント」に過ぎない
準備書において、ゼロ案(影響がある場合には実施しない案)を含む、複数の代替案が検討されていない。
2005年日本国際博覧会事業に関しては、会場レイアウトの複数案(2案)が示されている(万10)が、海上の森の外に全部または一部の施設を移す案、想定入場者数が2500万人よりも少ない数を想定した案など、インパクトを回避する代替案を検討した形跡が全くない。
地域整備事業(新住宅市街地開発事業・名古屋瀬戸道路)に関しては、原案以外の複数案さえ示されておらず、数多くの項目で影響があるとされているにもかかわらず、住宅や道路の位置を変えるなどの、回避・低減措置を検討した形跡は全くみられず、植物の移植やムササビの巣箱かけなどの代償措置が提案されているにすぎない(住2/2-597.598、道22-628.631)。
影響が明らかであるにもかかわらず、代償措置を中心とした環境保全措置しか示せないのでは、「アワセメント」と揶揄された旧来の環境アセスメントとなんら変わりがない。
5.三事業の連携がまったくはかられていない
2005年日本国際博覧会・新住宅市街地開発事業・名古屋瀬戸道路の三事業の環境影響評価の連携が、通産大臣・環境庁長官および愛知県知事から求められていたにもかかわらず、実際には、方法書や準備書の公表時期をあわせ、薄い統一資料を作成しただけであり、三事業の複合的な環境影響の総合評価が行われていない(統一資料)。
新住宅市街地開発事業・名古屋瀬戸道路の準備書では、平成13年度までの工事によって、数多くの項目で「影響が出る可能性がある」と予測されているが、環境保全措置(代償措置)で回避・低減できると結論づけている(住2/2-609.道2/2-638)。
2005年日本国際博覧会の準備書では、ほとんどの項目で「直接改変による影響はない」と予測されているが、平成14年に工事に着手したときには、すでに新住・名古屋瀬戸道路の工事によって影響が出た後だから、2005年日本国際博覧会の工事のみの直接改変による影響がないのはあたりまえである(万20、住1/2-20、道1/2-15)。
「万博は地域整備事業の土地を先行利用するだけであるから影響は少ない」という説明は、環境影響の責任を新住宅市街地開発事業・名古屋瀬戸道路に押し付け、万博の環境影響を少なく見せかけるものである。愛知県知事は、3事業の責任者として、パリのBIE総会において、「自然との共生」、「21世紀のモデルとなる環境への配慮」をかかげ、世界に公約してきた責任を逃れ得ない。
また、3事業の総合環境影響評価を下すべき「統一資料」は、2005年日本国際博覧会と新住宅市街地開発事業の準備書の結論を併記しただけであり、環境アセスメントの連携という通産省・環境庁および愛知県知事意見のリクエストには全く応えていない。