プロテクションからコンサベーションへ
(やさしくわかる自然保護11)
月刊『自然保護』No.435(1999年4月号)に掲載された、村杉事務局長による自然保護に関する基礎知識の解説を転載しました。
自然保護に関する考え方や概念それに用語など、基礎的なデータベースとしてご活用ください。各情報は発表当時のままのため、人名の肩書き等が現在とは異なる場合があります。
やさしくわかる自然保護 もくじ
プロテクションからコンサベーションへ
前号までは自然保護の概念のうち、プロテクションとプリザベーションについて述べてきた。
これらはいずれも、とにかく守ろうとする地域の自然の価値を科学的に明らかにして、開発を阻止し、そこを守り続けるためのしくみをつくれば、その目的は一応は達成される。このような努力は現在でも重要であるが、それができるのは、主に対象が人間の生活の場から、ある程度離れた原生的な自然地域に限られる。
実際に人間が生活している場はそのようなところとは別の、資源利用などの人為の影響が、長期にわたって加わった自然のなかである。そうなると私たちが守るべきものは遠くの手つかずの自然ばかりではなく、人間が生活しやすいように人為が加えられた身近な自然もその対象に入れなければならない。また、我々の生活を支える多くの自然資源を枯渇しないように上手に利用することも大切であり、レクリエーションや観光による自然破壊にも気を配る必要がある等々、保護の対象や管理の方法は多岐にわたる。
そのような時代のニーズにあわせて導入されたのが、従来の「プロテクション」より幅の広い概念をもつ「コンサベーション」である。
そもそも、この「コンサベーション」が自然保護を意味する語として世界に登場したのは1956年というのだからけっこう古い話だ。当時、IUPN(International Union for Protection of Nature) と言っていた国際的な自然保護組織が56年にその名称をIUCN(International Union for Conservation of Nature and Natural Resources) に改めた。日本語ではどちらも国際自然保護連合といっているので区別がつけにくいが、以来「コンサベーション」が自然保護の新たな概念として国際的に認められるようになった、というわけである。
なお、この時のPNからCNの変更では単にプロテクション(P)をコンサベーション(C)に変えただけではなく、(N)の中身を「自然」から「自然と自然資源」に拡大させて、自然保護の新しい考え方、すなわちコンサベーションが「人間とのかかわりにおける自然および自然資源を賢明かつ合理的に利用すること」であることを明確にしている※1。
このあたりは自然を人間のために改変することを善としてきた西欧社会の価値観をうかがわせるが、ともあれ、自然保護の概念がプロテクションという狭義のものから、コンサベーションという広義のものに変換されたとみることができよう。アレキサンダー フォン フンボルト※2によって自然保護のプロテクション的な概念が初めて提唱されてから約150年後の変革である。
1956年は、日本自然保護協会が誕生して5年目にあたる。協会でも右記のような国際的な動きを受けてさっそくコンサベーションの概念を導入し、活動の幅を広げていった※3。ちなみに協会では、協会が財団法人化された年(1960)に刊行した『自然保護』第1号ですでに、英名に「The Conservation of Nature」と、「コンサベーション」を使っている。
(村杉幸子・日本自然保護協会事務局長)
<参考文献>
※1 沼田 眞(1995):『自然保護という思想』 岩波書店
※2 村杉幸子(1998): やさしくわかる自然保護第4回:『自然保護』No.428
※3 日本自然保護協会(1985): 『自然保護のあゆみ』