レストレーション(自然復元)②~その意義と問題点~(やさしくわかる自然保護18)
月刊『自然保護』No.442(1999年12月号)に掲載された、村杉事務局長による自然保護に関する基礎知識の解説を転載しました。
自然保護に関する考え方や概念それに用語など、基礎的なデータベースとしてご活用ください。各情報は発表当時のままのため、人名の肩書き等が現在とは異なる場合があります。
やさしくわかる自然保護 もくじ
レストレーション(自然復元)② ~その意義と問題点~
ヨーロッパでは昔から大規模な自然の改変が行われていたので、自然復元の歴史も古く、それが自然保護の主要な部分を担ってきた。しかし、日本で復元型の自然保護に関心が高まったのはごく最近のこと、1980年代の後半にすぎない。※1
以来、ホタルやトンボ、メダカなど特定の生物をシンボルにして、それらが生息できる環境を取り戻そうとする活動とか、里山や谷津田の復活を目ざした活動など、じつにさまざまな復元活動が市民参加型の運動として全国各地で繰り広げられるようになった。
かくも急速な拡大の背景には、身近な環境がどんどん失われていることに対する人々の危機意識がある。また、復元活動が一般の市民にとって比較的入りやすい自然保護活動であることもこの種の運動を広める要因といえよう。
自然を復元することの意義を考えてみよう。
まず第一に、復元によって、存続の危機にさらされている生物たちを再びよみがえらせ、生態系の機能の再生が期待できる。
次に、かつての伝統的な農林業の復活を目指した里やまや植林地の復元では、その成功によって持続可能な資源やエネルギーの利用も可能となる。
第三に、復元によって潤いのある生活環境や環境学習の場や機会を増大させること、さらに、活動に参加した人々が共に汗を流すことで互いの絆が強まることも期待できる。一仕事終わったあとでみんなで飲むビールの味は格別だろう。
一方で、この分野は日本では歴史が浅く、理論も実践もまだ未熟で、自然保護の観点からの問題も多い。主なものを拾ってみよう。
まず1つは、すでに失われてしまった自然を取り戻すためではなく、新たな開発で受けるダメージの代償として行われる事業が多いこと。※2 多くの人工干潟の造成のように、機能の回復は到底望めそうにない形ばかりの造成で、自然破壊を正当化しようとする事業はいまだに跡を絶たない。
2つ目は、該当地域の自然の特性に配慮せず、画一的なマニュアルどおりに行われ、かえってその地域の自然誌を壊すような例がみられること。トンボ池づくり、ホタルの里づくり、林地の造成などの事業で外部から生物種を導入する、などがこれに含まれる。復元が、地域の自然の回復を目的としている以上、たとえ同種であってもその地域の生物(郷土種)の導入が望ましいわけだが、残念ながら、多くの事業がその点の配慮を欠いている。
3つ目は、マニュアルの問題点。例えば「自然との共生」をうたいながら、人間にとって好ましくない生物の種や生息地は排除されるなど、自然の本質、つまり多様性なり、生態系なりが全く意識されない、人間中心など、その事業の基本理念と具体的な計画の間に大きなギャップがあるマニュアルが多いのが気になるところだ。当然ながら、人間の生活に潤いを与えることを主目的にした事業にそれが目立つ。また、基盤整備にはよそから土壌や植物の搬入が必要となることも多い。搬入元の自然保護にも気を配ったマニュアルであってほしいものだ。
最後に、自然復元のための原則をあげよう。※3
- もとあった自然を大切にする。
- 特定の種だけでなく、生態系全体を復元する。
- 点の回復ではなく、地域全体の生態的ネットワークを考慮する。
- 人間が最終段階までをつくってしまうのではなく、自然の回復力を助ける。
- 行政だけですすめるのではなく、計画段階から積極的な市民参加をはかる。
(村杉幸子・NACS-J事務局長)
<参考文献>
※1 杉山恵一『ビオトープの形態学』朝倉書店(1995)
※2 吉田正人「自然観察指導員講習会資料」(1996)
※3 吉田正人「建設大学校河川環境科研修会資料」(1999)