岩手県・北上高地に計画されている複数の大型風力発電とイヌワシ保全の環境アセスの問題点
絶滅が危惧されているイヌワシ。日本イヌワシ研究会の調べでは、以前から全国的に繁殖成功率が低下する一方であることが指摘されてきましたが、この15年ほどの間にはそのこと以上に生息地から消えてしまうペア(つがい)が増加しているという、さらに危機的な状況が明らかにされています。
岩手県は、東北地方のイヌワシの生息の中心地です。しかし、岩手県といっても原生的な環境が多い西の奥羽山脈には実はイヌワシペアはほとんど暮らしておらず、20つがい以上ものペアは東側の北上高地に暮らしています。ところが現在、この北上高地に複数の大型の風力発電事業が計画されています。
イヌワシをはじめとする留鳥として暮らす大型猛禽類に決定的な打撃が加えられ、特にプロペラとの衝突による個体の喪失が続けば、東北地方を支える個体群が消えてしまう恐れが生じています。
特に最も緊急に見直しが必要なのは、宮古市と岩泉町に計画中の「(仮称)宮古岩泉風力発電事業」(事業主:㈱グリーンパワーインベストメント(本社・東京))。約20万キロワットの発電のため、尾根に約70基のタワーが設置される予定となっています。この計画では環境影響評価(環境アセス)手続きが踏まれたのですが、経済産業省による勧告(2016年1月)では、イヌワシへの重大な影響が懸念されるとして、ごく一部のタワーの設置の取りやめなどが勧告されました。
ところがその後、この措置ではまったく十分でないことが分かってきました。環境アセスの調査でつかめなかった狩りの場所や、そのための飛翔コースが建設地東側にもあることが指摘され始めています。
勧告の出し直しは、果たしてできるのか。さらに釜石広域風力発電事業拡張計画、住田ウィンドファーム事業、住田遠野風力発電事業、葛巻ウィンドファーム・プロジェクトなどがある北上高地全体の累積影響は誰も考慮していませんが、それで進めてよいのか。絶滅が時間の問題であるイヌワシの高密度生息地でも、再生可能エネルギーなら利用して構わないと考えるのか、問われる事態となっています。
NACS-Jでも地元の方の観察記録など現況を正しくつかんだ生息情報の収集を行っています。岩手県知事をはじめ経産省・環境省などへも働きかけていきたいと思います。