人工干潟の強行に『待った!』 ~藤前干潟、埋め立てストップ
会報『自然保護』No.434(1999年3月号)より転載
昨年12月5~6日、名古屋で開かれた国際湿地シンポジウムの席上、環境庁の小林計画課長が、環境庁の公式見解として「名古屋市の計画する人工干潟は考慮に値しない」と発言。以後、事務次官、環境庁長官が次々と藤前干潟の重要性を支持する発言を続け、港湾の公有水面埋め立ての権限を持つ運輸大臣までもが「環境庁が絶対だめなら埋め立ては出来ない」と発言。1月25日には、名古屋市が藤前干潟にゴミ処分場を作る計画を断念し、代替地さがしに向けて急速に動き出した。
今後のアセス法運用にも影響
この背景には、諫早湾水門閉め切り以後、日本に残された干潟を保護しようという世論の盛り上がりや、「干潟への影響は明らか」とする環境影響評価の結果を無視して藤前干潟の埋め立てを進める名古屋市が、人工干潟の一部の造成に着手しようとしたことがある。
12月22日の名古屋市自然環境保全措置検討委員会では、人工干潟の造成が議論される予定だったが、その直前に「人工干潟では干潟は守れない」とするデータが次々と発表された。
まず12月18日には、環境庁環境影響審査室が「藤前干潟における干潟改変に対する見解について(中間とりまとめ)」を発表、「代償措置としての人工干潟を造成するため、わが国第一級のシギ・チドリ類の渡来地である残りの現存干潟に改造を加えることは、無謀といわざるを得ず、代償措置を実施する場所としては極めて不適切である」と言葉を極めて人工干潟の問題点を指摘した。
特に干潟周辺の浅場が底生生物や魚類の生産の場であり、干潟生態系の重要な要素として評価した点、今年の環境影響評価法施行を前に、代償措置と環境保全対策の考え方を整理した点は重要である。
翌19日には、日本自然保護協会も一員として参加している人工干潟実体調査委員会が、広島港五日市、東京湾葛西海浜公園、大阪南港などの人工干潟の実態を調査した結果、「人工干潟は自然干潟には及ばない、造成の費用対効果は割に合わない」とする「人工干潟調査報告書」をまとめた。
特に人工干潟は、見かけはきれいな海浜に見えても、底生生物が少なく浄化能力も劣ることが明らかになった。
(吉田正人・保護研究部保護部長)