絞り込み検索

nacsj

木曽地方の国有林におけるヒノキ・サワラを主体とする温帯針葉樹林の保護林化による広域保全と復元に向けての意見書を出しました。

2012.07.03
要望・声明
木曽地方の国有林におけるヒノキ・サワラを主体とする温帯針葉樹林の
保護林化による広域保全と復元に向けての意見書(PDF/1.34MB)


2012年7月3日
林野庁長官 皆川 芳嗣 殿
林野庁国有林野部長 沖 修司 殿
林野庁中部森林管理局長 城土 裕 殿
木曽地方の国有林におけるヒノキ・サワラを主体とする温帯針葉樹林の
保護林化による広域保全と復元に向けての意見書
公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 亀山 章
当協会は、日本列島の森林植生の体系的な保全を図ることを目的に、全国の国有林に対して各種保護林を適切に設定・配置するよう求めてきた。
長野県・岐阜県境、木曽地方の国有林における温帯針葉樹林は、第三紀にまで遡る古い時代からの樹種を多く含んでいる。この地域には、この第三紀系の樹種、ヒノキ、サワラ、コウヤマキ、アスナロ、ネズコ、チョウセンゴヨウ、オオヤマレンゲ、マルバノキなどが、単独でなく群集として存在する。これらは、わが国の亜寒帯や亜高山帯に広く見られる針葉樹林の構成種よりも古いグループといわれ、現在の分布域も世界的にみても環太平洋沿岸域などに限られている。
これらの樹種は、人が集中し人間活動が盛んな温帯域に分布したため、最終氷期以降、伐採利用や火入れなどにより大幅にその量を減少させてきた。日本列島においても、奈良時代以降に伐採が進行し、江戸時代初期にはほぼ伐り尽くされた歴史を持つといわれている。また、その後再生できた森林も、近代に入ってから優良な木材資源として大量に伐採され、まとまった森林は現在ではほぼ消失の状況にある。
木曽地方の温帯針葉樹林も、戦国時代から江戸中期にかけて伐採された後、天然更新した再生林と考えられているが、この森林は現在も古い時代の植生の面影をよく残す上に、既に300 年近くの樹齢に達し発達した森林生態系を形成している。また近年の研究では、このような温帯針葉樹林の構成種の多くは500~1000 年の寿命を潜在的に持ち、森林としても長く持続するとされている。木曽地方の温帯針葉樹による再生林は、今後も長期間をかけて、より発達した森林生態系へと推移していくことが期待される。このことは、わが国の生物多様性保全の観点から極めて重要なことがらといえる。一部の林学研究者の中には、この300 年生程度の樹齢の林分も老齢過熟林として扱うことを推奨する考えがあると聞くが、これは誤りといえる。
木曽地方の国有林に現在も残存する温帯針葉樹林は、できる限りまとまりを持たせた広域な保護林に設定し、復元のための修復管理地域とすべきである。保護林の種別は第一に森林生態系保護地域を考えたいが、自然林残存地域を広域に囲み、できうる限りのまとまりを持たせるには保護林内部に施業履歴を持つ地域を含めなければならず、原生状態を重視する生態系保護地域の設定要件から難しいことも考えられる。そのため、同規模の保護林となる森林生物遺伝資源保存林の設定を提案する。
保護林設定の理由と備えるべき要件を、以下に列挙する。
① 現在ほとんど消滅の危機にある東アジアの成熟した温帯針葉樹林を、わが国の自然資産のみならず、世界的な自然資産として復元することが必要であること。
② その区域は、自然林(林野庁用語では天然生林)が集中して残存する王滝川上流のうぐい川流域、上松の小川上流域、阿寺川上流域、付知川上流域を含むべきであること(別図1)。その際、流域レベルの保全となるよう残存する自然林と共に、周囲に介在している未立木地、点在する人工林をもまとまりを持って範囲とし、積極的な保全管理(保全・修復)を一体的に行う必要がある。
③ 上記の設定地域においては、残存する自然林(過去に択伐などの施業が入っているいないに関わらず、現在高齢級となっている自然林)の厳正な保護を行うこと。
その際、広大な未立木地(別図2)のうち、風倒など自然撹乱による地域については、原則的に自然による推移に任せるべきである。天然更新や植栽などの失敗による未立木地については、十分な科学技術的な検討と将来計画を策定した上で、必要な更新補助措置を実施し、自然林の再生を目指す必要がある。
④ 森林生態系の保全には空間的にまとまった面積が必要であるが、赤沢休養林など現在何らかの保護地域とされている森林は合計しても数百ha 程度に留まり、森林生態系の保全区域としては極めて狭小である。残存林の集中分布する当該地域は、将来の温帯針葉樹林、その中に生息する希少野生生物種の保全を考えた時、現況に囚われず、広域に保全・再生することが必要である。木曽地方では、大桑村伊奈川上流域が既設の森林生態系保護地域の一部に指定されているが、この森林は急傾斜の亜高山性針葉樹林が占め、木曽ヒノキ林のような温帯針葉樹林を代表するものではないといえる。
20120703kiso_fig1_R.jpg

▲別図1 (Google 地図データより作成)橙色破線の楕円は、残存する自然林の分布地。薄青色の部分は保護林を設定し、復元を進めるべき最小範囲。
【本図の作成手順】
①グーグル画像を使い、国有林でかつ比較的本来の自然林の断片がある、現在のところ木材生産を第一義としていない区域を囲んだ。
②本地図からは便宜上、中部森林管理局として資源利用林に区分している部分は除いたが、赤沢下の麝香沢にも大径の天然木は存在するなど、資源利用林とされている中にも保護林範囲に含める必要のある地域があるのではないかと考えられる。これらの地域の措置については、保護林設定委員会において慎重に論議されたい。

20120703kiso_fig2.png
▲別図2(Google 地図データより作成)自然林残存区域内には、白く見える未立木地・過去の施業地も存在する。
    no4kiso_koyama_R.jpg

   ▲木曾・助六のヒノキ林(撮影・小山泰弘・NACS-J会員)


   no5kiso_R.jpg
 ▲木曾・王滝奥の1960年以降の不成績造林地。ササ+シカ問題地。

前のページに戻る

あなたの支援が必要です!

×

NACS-J(ナックスジェイ・日本自然保護協会)は、寄付に基づく支援により活動している団体です。

継続寄付

寄付をする
(今回のみ支援)

月々1000円のご支援で、自然保護に関する普及啓発を広げることができます。

寄付する