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(仮称)佐藤ヶ平風力発電事業 計画段階環境配慮書に関する意見書を提出しました

2025.04.28
要望・声明

日本自然保護協会(NACS-J)は、青森県むつ市で計画されている「(仮称)佐藤ヶ平風力発電事業」の計画段階環境配慮書に対し、計画地の過半数がブナ林やヒノキアスナロ林などの自然林が占めており、特定植物群落の「燧岳山腹ブナ群落」の約40%が事業実施想定区域に含まれているなど、自然環境への影響は多大であることから、事業予定地北西部を計画地から除外するなどの、事業の大幅な計画変更を求める意見書を提出しました。


2025年4月30日

株式会社ユーラスエナジーホールディングス 御中

(仮称)佐藤ヶ平風力発電事業計画段階環境配慮書に関する意見書

〒104-0033 東京都中央区新川1-16-10 ミトヨビル2F
公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 土屋 俊幸

日本自然保護協会は、自然環境と生物多様性の保全の観点から、青森県むつ市で計画されている(仮称)佐藤ヶ平風力発電事業(事業者:株式会社ユーラスエナジーホールディングス、最大60,200 kW、基数:14基程度)の計画段階環境配慮書(作成委託事業者:いであ株式会社、以下本アセス図書と言う)に関する意見を述べる。

本計画の事業実施想定区域の約52%を、植生自然度9であるチシマザサ-ブナ群団やヒノキアスナロ群落などが占めており、さらには特定植物群落の「燧岳山腹ブナ群落」の約40%が事業実施想定区域に含まれている。また、クマタカの繁殖の可能性およびイヌワシの生息の可能性があるなど、自然環境への影響は多大である。このようなことから、自然林が広がる事業予定地北西部を除外するなど、事業の大幅な計画変更を行うべきである。

1.事業実施想定区域に特定植物群落や自然林が大面積で含まれており、事業の大幅な変更が必要である

事業実施想定区域には、特定植物群落「燧岳山腹ブナ群落」の約40%の範囲が含まれている。さらには、事業実施想定範囲約947haのうち約28%にあたる269.0haがチシマザサ-ブナ群団、約23%にあたる215.7haがヒノキアスナロ群落など植生自然度9の自然林が全体の約52%を占めている。特に風力発電機搬入可能な車道も林道も存在しない事業実施想定区域の北西部には、自然林が広がっている。このようなことから、風力発電機の建設および送電線の設置のためには、長距離の林道建設、大規模な土地の改変などを新たに行う必要があり、広範囲の自然林の伐採が想定される。このような原生的な森林および希少な植物群落の大規模な伐採を伴う事業の実施は、ネイチャーポジティブの観点から看過されるものではなく、特に事業実施想定区域の北西部分では事業を実施すべきではない。

2.鳥類センシティビティA3に該当しイヌワシやクマタカの生息の可能性がある事業予定地北西部を除外すべきである

事業実施想定区域では、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」(種の保存法)において国内希少野生動植物種に指定されているイヌワシとクマタカの生息が確認されている。特にクマタカについては、本アセス図書P.360に掲載されている専門家へのヒアリングではその繁殖の可能性が指摘されている。また同専門家からは、本地域が北海道から本州への渡り鳥の経路となっており、風力発電機設置による悪影響の懸念も示されている。環境省作成の陸域版センシティビティマップにおける注意喚起メッシュ図では、事業実施想定区域の北西部分は風車の建設には注意を要するエリア(A3)に含まれている。このような場所に風車が建設されれば、希少猛禽類などがバードストライクの危険に晒されることになるため、同地域での事業は慎重に判断すべきであり、特に陸域版センシティビティマップ(A3)に該当する事業実施想定区域の北西部では事業を実施すべきではない。

3.ほぼ全域が国有林の保安林であり、特に過去に土砂災害が発生した上流部の区域では事業を行うべきではない

本事業の事業実施想定区域のほぼ全域は国有林であり、水源かん養保安林に指定されており、風力発電機設置のためには保安林を解除して、大規模な森林伐採を行う必要がある。事業実施想定区域の北西部下流の小赤沢と大赤沢では、2021年8月に記録的な豪雨により、多数の斜面崩壊や土石流流木・土砂の堆積により大きな被害が発生している。小赤沢と大赤沢の最上流部地域の保安林を解除し、大規模な工事を行うことは、下流部への土石流などの土砂災害の危険性を高めることになる。このような、防災面でも重要な森林群落を伐採し土地改変を行う本事業は、自然環境保全および防災上問題があり、少なくとも過去に土砂災害が発生した小赤沢と大赤沢上流部での事業実施はすべきではない。

4.保護林の改変の可能性がある風力発電機搬入路を計画から除外すべき

本アセス図書には掲載されていないが、本事業実施想定区域内の東側から風力発電機搬入を計画している林道に隣接する場所には、東北森林管理局が設定した「佐藤ヶ平ヒバ遺伝資源希少個体群保護林」が存在する。保護林制度は、特に希少価値が高く特徴的な森林群落を恒久的に保存し、その生態や推移を観察して学術研究や森林施業の参考とする目的の林野庁の制度である。本計画で風力発電機搬入路として想定している「佐藤ヶ平ヒバ遺伝資源希少個体群保護林」に隣接している林道は、現状、風力発電機の搬入路としては不十分な舗装および路幅である。そのため、本林道を風力発電機搬入路として利用する場合、道路沿いの保護林もしくは隣接する森林を伐採する必要があり、当該保護林に対し多大な影響が懸念され、保護林本来の機能喪失につながる恐れがある。このようなことから、「佐藤ヶ平ヒバ遺伝資源希少個体群保護林」に隣接する林道は、風力発電機搬入路として想定すべきでない。

以上

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