大船渡第一・第二太陽光発電所事業 環境影響評価準備書に関する意見書を提出しました
日本自然保護協会(NACS-J)は、岩手県大船渡市で計画されている大船渡第一・第二太陽光発電所事業の環境影響評価準備書に関して、イヌワシの重要な生息地への開発、森林伐採を伴う太陽光パネル設置等により自然環境への影響が懸念されることから、大幅に事業を見直すべきとの意見書を提出しました。
2025年3月18日
自然電力株式会社 御中
大船渡第一・第二太陽光発電所事業 環境影響評価準備書に関する意見書
〒104-0033 東京都中央区新川1-16-10 ミトヨビル2F
公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 土屋 俊幸
日本自然保護協会は、自然環境と生物多様性の保全の観点から、岩手県大船渡市で計画されている大船渡第一・第二太陽光発電所事業(事業者:自然電力株式会社、発電出力29,400kW、太陽光発電パネル(モジュール):約76,608枚、工作物設置面積約27 ha )の環境影響評価準備書(作成委託事業者:一般財団法人日本気象協会)に関する意見を述べる。
本アセス図書で示された発電所の計画地のうち、太陽光発電パネルの設置予定場所の全域は五葉山県立自然公園に指定されており、大窪山地区の景観、および自然環境への影響を免れないため、大幅に事業を見直すべきである。
また、2月末から起きた大船渡市南東部山林火災の状況から、当該事業の工事、供用後に火災が発生した場合の具体的な対応と責任を明確に示すことが事業者には求められる。
1.イヌワシの個体群の存続のため大窪山の開発はすべきではない
事業者の猛禽類調査では、イヌワシが自主調査時から継続的に確認されており、本アセス図書に記載された本調査でも52例確認し、対象事業実施区域を15例が通過したと記載され、ある程度離れた営巣地の個体の飛来であると判断している。生息地保全の観点で、位置や距離や飛翔図が伏せられており、対象事業実施区域で確認されたイヌワシの個体数、雌雄、確認時期、採餌や求愛などの行動の詳細は不明である。しかし、準備書に「当該地を採餌環境として優先的に利用している可能性が高いと考えられる」「令和6年の採餌行動の高利用域は対象ペアにとって重要度が高いものであったと考えられる」と記述があることからも、イヌワシの採餌環境としての重要性を示すものである。それは、イヌワシが山頂域の上昇気流を利用して採餌とその後の運搬がしやすい地形的特性によるもので、単純な採餌環境の植生の面積比で重要性を評価できるものではない。また、準備書時点での専門家等からの意見でも「イヌワシは対象事業実施区域をよく利用しており、そのなかでも高利用域と改変区域が重なっている」「調査結果に伴い事業計画地の選定からやり直す必要があると考える。」という指摘がされている。
このようなことから、対象事業実施区域には営巣地がないとはいえ、イヌワシの生息への影響は否定できない。東北地方のイヌワシの繁殖成功率が15%と危機的な状況(日本イヌワシ研究会、2015)のなか、岩手県は2024年に「陸上風力発電事業に係る環境影響評価ガイドライン」においてイヌワシの生息地域のゾーニングを公表している。当該地域は、レッドゾーン(イヌワシの重要な生息地、対象事業実施区域に含めることが適切でない区域)に該当しており、岩手県内のイヌワシの生息地として重要な場所の一つとされている。このようなことから、イヌワシの個体群の存続のうえでも貴重な採餌環境である大窪山での太陽光発電の開発はすべきではなく、大幅に事業を見直す必要がある。
2.湿原上方の斜面において森林伐採を伴う太陽光パネル設置は行うべきではない
対象事業実施区域内の大窪山周辺には、湧水とその流れ込みにより形成された湿原が点在し、本アセス図書ではトキソウやミズトンボ、ホシクサ類などの希少種が生育・生息していることが示されている。対象事業実施区域内で最もまとまった面積で湿原が分布している場所は、対象事業実施区域北東部の沢沿いである(図7.1.5-10(1))。図2.2-5(20)の施設の配置計画図によると、この最もまとまった面積の湿原の北側斜面では、太陽光パネルの設置が計画されている。図2.2.12(1)によると、同所での太陽光パネル設置は、森林を伐採して設置を行う計画となっている。国内ではトキソウやミズトンボなどの湿原性の希少種は絶滅の危機にあり、その原因の一つとして、湿原周辺の樹林伐採による土砂流入が指摘されている(岐阜県 2014)。
このように、たとえ直接的に湿地の改変は行わなくても、湿原上方で森林を伐採して太陽光パネルを設置する行為は、湿原の環境悪化を招く可能性があることから、行うべきではない。
<文献>
岐阜県.2014.岐阜県の絶滅のおそれのある野生生物(植物編)改訂版,岐阜.
3.湿原を分断するような工事用道路の設置は行うべきではない
図7.1.5-11(2) で示されているように湿原を分断しての工事用道路の設置が計画されている。本アセス図書では砕石マットや栗色マットを採用するため、湿原への影響は少ないと結論付けている。しかし、このような斜面に形成されている湿原の場合、表土が薄く岩盤が地表近くにあるため雨水が地中深くにしみこまず、地下水が湧出することで湿原が形成されている可能性が高い。そのため、たとえこのような工法を採用しても、工事用道路の下流部への水流および地下水への影響は避けられない。また、本アセス図書には工事により裸地が発生した場合、早期に緑化することが記述されているが、具体的な緑化の種類や方法がまったく記述されておらず、緑化による湿原への悪影響が強く懸念される。このようなことから、湿原保全の観点から湿原を分断しての工事用道路設置は行うべきではない。
4.湿原への悪影響が明らかな沈砂池の位置の再検討を行うべきである
図2.2-4(1) で示されている沈砂池の位置は、湿原そのものを避けて計画されている。一方で湿原間や、湿原が分布する沢の直上に隣接する場所で沈砂池の設置が計画されている。図2.2-6(4) には、沈砂池に用いるふとん籠のイメージ図は示されているが、本アセス図書にはどのような工事により沈砂池を設置するかが掲載されておらず詳細は不明である。しかし、土地の改変なく沈砂池を設置することは不可能であり、沈砂池を設置することで下流部や隣接地の地下水や雨水の流れが変化することは免れない。湿原の隣接地、湿原の上流部に沈砂池を設置するべきではなく、沈砂池の設置場所の再検討を行うべきである。
5.本アセス図書を常時公開し、ダウンロード、印刷ができるようにすべきである
本アセス図書の閲覧は、インターネット上で閲覧は可能ではあるが、印刷やダウンロードができず、縦覧期間終了後は公開されないため、アセス図書の内容が実際の計画地の状況と齟齬がないか確認することが難しい。
地域住民や利害関係者等が常時、容易に精査できることが、環境影響評価の信頼性にもつながるものであり、地域との合意形成を図るうえでも不可欠である。全事業の環境影響評価図書を常時公開している事業者もあり、本事業者の対応は不親切といわざるを得ない。縦覧期間後も地域の図書館などで、図書を常時閲覧可能にし、また、事業者のホームページ上で随時インターネットでの閲覧とダウンロード、印刷を可能にすべきである。
以上