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「令和6年6月改正、食料・農業・農村基本法に基づく食料・農業・農村基本計画骨子(案)」に関する意見(パブコメ)を提出しました

2025.02.19
要望・声明

日本自然保護協会(NACS-J)は農地における生物多様性保全を進める立場から、「令和6年6月改正、食料・農業・農村基本法に基づく食料・農業・農村基本計画骨子(案)」に関して、農林水産省大臣官房政策課に意見(パブコメ)を提出しました。


2025年2月19日

農林水産省大臣官房政策課 御中

「令和6年6月改正、食料・農業・農村基本法に基づく食料・農業・農村基本計画骨子(案)」に関する意見

公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 土屋 俊幸
〒104-0033 東京都中央区新川1-16-10 ミトヨビル2F

日本自然保護協会は、農地における生物多様性保全を進める立場から、「令和6年6月改正、食料・農業・農村基本法に基づく食料・農業・農村基本計画骨子(案)」に関して、以下の意見を申し述べます。

1.「生物多様性保全の促進」を実施項目として追加し、農林水産省生物多様性戦略の実施内容を具体的に記載すること

骨子案P41に新たな項目「⑥生物多様性保全の促進」を追加し、以下の文書を追加すべきである。
「・農林水産省生物多様性戦略(令和5年3月改訂)に基づき、生物多様性保全をより重視した農業生産・畜産業の推進及び農業生産技術の開発・普及、水田や水路、ため池等からなる生態系ネットワークの保全の推進、生物多様性に配慮した調達、流通、消費及び資源循環の構築、生物多様性への理解の醸成と行動変容の促進、森里川海を通じた生物多様性保全の推進、農林水産業にとって有用な遺伝資源の保全と持続可能な利用の推進、農林水産空間の生物多様性に係る調査・研究、農林水産分野における生物多様性保全の取組の見える化、金融やビジネスが活用できる生物多様性データ提供の検討を進める。」

【理由】骨子案P38に【Ⅳ 環境と調和のとれた食料システムの確立】 の基本的な方針として、「生物多様性の保全」が明記されたにも関わらず、個別分野の取組において項目が設定されず、具体的な施策もほとんど記載されていない。また、基本法改正の際の参議院付帯決議の11項「(中略)生物多様性の保全(中略)により、環境と調和のとれた食料システムの確立を図ること」とも整合性が取れていない。

2.生物多様性の保全の目標およびKPIを明記すること

別紙:目標・KPIの検討案P6の目標に「生物多様性の保全」を追記し、状態目標として「2030年までに農地の生物多様性の損失を食い止める」、KPIとして生物多様性国家戦略 2023-2030(以下、国家戦略と呼ぶ)P74に明記された農村環境における生態系ネットワークの保全に関する3つのKPIや、「農林水産省生物多様性戦略(令和5年3月改訂;以下、農水戦略と呼ぶ)P70及び、国家戦略P154,157に基づく農法の生物多様性への効果の評価方法の活用、生態系サービスの評価と効果的な農法の開発」を追記するとともに、「農地の生物多様性の評価手法を開発し、2030年には生物多様性保全目標・KPIを設定する」を追記すべきである。

【理由】2022年に生物多様性条約第15回締約国会議で決議された国際目標「昆明・モントリオール生物多様性枠組」では、農業分野においてもネイチャーポジティブの目標達成への貢献が求められており、基本計画の目標は、国際目標との整合性が必要である。さらに、国家戦略、農水戦略に明記された農地に関わる複数のKPIとの整合性も必要である。農地の生物多様性の評価手法の開発は、環境負荷低減の見える化のうち、知見不足のため稲作に限定される生物多様性取組を拡大することや、社会的インパクト評価を活用した農山漁村への民間の人材・投資の促進等の貢献が期待される。

3.施策の有効性を客観的に評価するため、農地の生物多様性のモニタリングと評価を実施する体制を整備すること

骨子案P41に新たな項目として「⑥生物多様性保全の促進」を追加するとともに、「基本計画の成果を客観的に評価し、計画の見直しに反映させるために、農地の生物多様性のモニタリングと評価の実施体制を整備する。多面的機能支払交付金の生物調査を改良し、評価に活用することや、環境省モニタリングサイト1000調査等との連携も含めて検討する」を追加すべきである。

【理由】「環境との調和のとれた食料システムの確立」という法の基本理念の基盤となる農地の生物多様性保全について、その現状を把握し、評価する体制が十分ではない。例えば、過去には全国の水田の生物多様性モニタリングとして「田んぼのいきもの調査(2001~2009年)」が実施されていたが現在は行われていないことや、多面的機能支払交付金に基づき全国3,477団体(2017年度時点)の生物調査が税金を投入して毎年実施され、この結果は本交付金の評価だけでなく全国の農地の生物多様性の評価への活用が期待されるものの活用されていないことなどが、不十分な対応例としてあげられる。

4.環境負荷低減のため、農業の有する多面的機能の発揮の促進に関する法律に基づく活動に対してトレードオフ解消の要件を追加すること

骨子案P43 「(3)環境負荷低減の取組の加速化」に「・農業の有する多面的機能の発揮の促進に関する法律に基づく活動の中には、環境負荷を与える活動がある可能性があることを踏まえ、本法に基づく全活動においてトレードオフを解消するための要件を追加する」を追記すべきである。

【理由】基本法第4条「多面的機能については、(中略)環境への負荷の低減が図られつつ、適切かつ十分に発揮されなければならない」とされ、「環境への負荷の低減」が追加されていることや、生物多様性国家戦略2023-2030、P93(1-5-5)においても同様の目標が明記されていることに対して、骨子案では、農業の有する多面的機能の発揮の促進に関する法律に基づく全活動に対する「環境への負荷の低減」の対応策の記載がなく、整合性が取れていない。
例えば、多面的機能支払交付金の共同活動において、水路や法面のコンクリート化が多数行われ、土地改良法に基づく事業の環境配慮手続き(環境配慮型工法の選択など)がなく、生物多様性の損失が起きている実態がある。全補助金・交付金が対象となる要件(クロスコンプライアンス)では、これらの環境配慮は記載されていないことや、本交付金の目的達成のためにもよりも厳格な条件設定が必要である。

5.多面的機能支払制度の活動組織とマッチングする対象として「NPOや専門家」を追加すること

骨子案P43「多面的機能支払制度」について、活動組織とのマッチングする対象として記載された「企業、学校、農業に関心のある非農業者」に加え、「NPOや専門家」を追加する。

【理由】NPOの参加によって、生態系保全活動、生物調査などの多数の共同活動を実施しやすくなることが本制度の研究(藤田ら2024)から明らかとなっている。これらの専門性が高い活動の実施率が数%と非常に少ないのに対して、植栽など実施しやすい活動に偏るという本制度の課題を解決するとともに、環境保全に貢献する活動を増やすことが期待できる。
引用文献:藤田卓, 篠田悠心, 西澤栄一郎, 黒川哲治, 市田知子, 矢部光保. (2024). 農地における生物多様性保全に取り組む活動組織の特徴. 農村計画学会論文集, 4(1), 57–66.

6.農業生産基盤の整備に生物多様性保全への配慮事項を追記すること

骨子案P17に新たな項目「エ 農業生産基盤の整備・保全に対する環境配慮の促進」を追加し、下記を追加すべきである。「・農林水産省生物多様性戦略(令和5年3月改訂;P19)に基づき、ほ場整備事業などの基盤整備において、水田や水路、ため池等からなる生態系ネットワーク保全のため、地域全体を視野に入れて、地域固有の生態系に即した保全対象種を設定し、その生活史・移動経路に着目・配慮した魚道やビオトープなどの生態系配慮施設の整備を、地域住民の理解・参画を得ながら計画的に推進する。また、冬期湛水用水等、生態系保全に資する用水を確保する取組を支援する。」

【理由】基本法第3条「食料の供給の各段階において環境に負荷を与える側面があることに鑑み、その負荷の低減が図られることにより、環境との調和が図られなければならない」及び、基本法改正の際の参議院付帯決議11項「(中略)生物多様性の保全(中略)により、環境と調和のとれた食料システムの確立を図ること」、農林水産省生物多様性戦略P19に明記された環境配慮(上述)に対して、骨子案P15「③農業生産基盤の整備・保全」に該当する記述がなく、整合性が取れていない。

7.地域計画の策定において、生物多様性保全を含む環境負荷低減の取組を追加すること

骨子案P15に次の文書を追記すべきである「・地域計画に含まれる「農用地の集積、集約化の方針」「基盤整備事業への取組方針」の策定の際には、水路・ほ場整備によって生物多様性の劣化など環境負荷が生じうることを踏まえ、これらの方針の中で環境負荷低減の取組の記載を必須とする。これらの方針を策定する際には、ビオトープや粗放的農業の実施などを含む「活性化計画」と一体的に運用することも考慮して作成する」。

【理由】基本法第3条「食料の供給の各段階において環境に負荷を与える側面があることに鑑み、その負荷の低減が図られることにより、環境との調和が図られなければならない」及び、基本法改正の際の参議院付帯決議11項「(中略)生物多様性の保全(中略)により、環境と調和のとれた食料システムの確立を図ること」、農林水産省生物多様性戦略P19に明記された「水田や水路、ため池等からなる生態系ネットワーク保全のため、地域全体を視野に入れて、地域固有の生態系に即した保全対象種を設定し、その生活史・移動経路に着目・配慮した魚道やビオトープなどの生態系配慮施設の整備を、地域住民の理解・参画を得ながら計画的に推進する。」に対して、骨子案P14「①地域計画を核とする取組」に該当する記述がなく、整合性が取れていない。

8.中山間地域における農業生産を通じた生物多様性保全の取組を追加すること

骨子案P49 「(地域特性を活かした農業生産、付加価値向上に向けた取組等)」に「中山間地域における農業生産を通じた生物多様性保全の取組は、これらの取組の結果生産された農産物の販売が増加するなど農村の活性化にもつながっていることから、農地の粗放的な利用としてのビオトープや鳥獣害対策など、地域ぐるみの取組を推進する。」を追記すべきである。

【理由】農林水産省生物多様性戦略(令和5年3月改訂;P44)において、「(農山漁村の活性化に向けた対策)」として、生物多様性保全が農産物販売の増加に繋がり、地域ぐるみの取組を推進することが明記されているが、骨子案では該当する記述がなく、整合性がとれない。また、生物多様性保全においてはランドスケープの視点が重要であり、農用地の集約化等の取組と一体的にビオトープ等が配置されることが、地域での農産物の収量と生物多様性保全を両立するために重要であるため。

以上

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