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(仮称)島牧風力発電事業の環境配慮書に意見書を提出しました

2025.02.05
要望・声明

日本自然保護協会(NACS-J)は、北海道の道南地域である、島牧村、寿都町で建設予定の「(仮称)島牧風力発電事業」の計画段階環境配慮書に意見書を提出しました。意見書では、本事業計画地が、林野庁の「寿都カシワ遺伝資源希少個体群」と隣接しており、事業による悪影響が強く懸念されることから、事業計画の見直しを求めています。また、本事業実施想定区域の半分以上の範囲が、土砂流出防備保安林を含む保安林となっていることから慎重な事業判断を求めています。


2025年2月4日

島牧ウインド合同会社  御中

(仮称)島牧風力発電事業に係る計画段階環境配慮書に関する意見書

〒104-0033 東京都中央区新川1-16-10 ミトヨビル2F
公益財団法人 日本自然保護協会 
理事長 土屋 俊幸

日本自然保護協会は、自然環境と生物多様性の保全の観点から、北海道島牧郡島牧村、寿都郡寿都町、黒松内町で計画されている(仮称)島牧風力発電事業(事業者:島牧ウインド合同会社 、最大140,000 kW、基数:最大33基)の計画段階環境配慮書(作成委託事業者:一般財団法人日本気象協会)に関して意見を述べる。

本事業は事業実施想定区域内である風力発電機の設置予定範囲の隣接地に、林野庁の寿都カシワ遺伝資源希少個体群保護林が存在しており自然環境上の配慮を欠いている。加えて、風力発電機の設置予定範囲の土砂流出防備保安林内には、山腹崩壊地区や崩壊土砂流出危険地区が存在しており、防災上も大きな懸念がある。このようなことから、本事業の計画を適切に見直すべきである。

1. 保護林への影響が多大であるため、計画地を見直すべきである

本事業実施想定区域内の風力発電機の設置予定範囲に隣接する場所には、林野庁北海道森林管理局が設置した「寿都カシワ遺伝資源希少個体群保護林」が存在する。保護林制度は、特に希少価値が高く特徴的な森林群落を恒久的に保存し、その生態や推移を観察して学術研究や森林施業の参考とする目的の林野庁の制度である。本アセス図書の表4.4-1(3)では、「直接改変は行わない計画とすることから重大な影響はない」と評価している。しかし、風力発電機設置予定範囲が、寿都カシワ遺伝資源希少個体群保護林に隣接しており、保護林が緩衝林帯なしにむき出しになる、保護林上空を風力発電機のブレードが廻る、風力発電機搬入のための道路拡張による伐採の恐れなどの可能性が指摘できる。特に、歌島高原への未舗装の林道は、風力発電機の搬入路として想定されるが、現在の道路のままでは風力発電機の搬入路として使用することは不可能である。そのため、本アセス図書では「直接改変は行わない計画とすることから重大な影響はない」と評価しているが、現状では道路沿いの保護林を直接的に改変する必要性が高く、重大な影響が生じる可能性が高い。このように、本事業は、当該保護林に対し、多大な影響を与え、保護林本来の機能喪失につながる恐れがあることから、寿都カシワ遺伝資源希少個体群保護林を含む北側の設置予定範囲は、本事業の対象事業実施区域から外すべきである。

2. 本事業予定地の大半が保安林などであることから、事業実施は慎重に判断すべきである

本事業実施想定区域内の大半は、国有林・民有林の保安林に指定されており、その一部地域は上述のように林野庁北海道森林管理局が設置した「寿都カシワ遺伝資源希少個体群保護林」に指定されている。北海道は2024年11月に「地域脱炭素化促進事業の促進区域の設定に関する環境配慮基準」を発表しており、地域の実情に応じて環境の保全に適正に配慮し、地域へ貢献する脱炭素化促進事業に関する基準を定めている。この基準の中では、風力発電施設の利活用の促進区域に含める区域として、保安林や保護林は適切でないことが示されている。このようなことから、本計画地全域は風力発電施設の導入を促進するべきではない区域ということになる。

特に、事業実施想定区域南側の風力発電機設置予定範囲の一部は、土砂流出の著しい地域などにおいて土砂流出を防止する目的の土砂流出防備保安林に指定されており、さらには、崩壊土砂流出危険地区や山腹崩壊危険地区も存在している。このような土砂災害リスクが懸念される地域の保安林を広範囲で指定解除し、大規模な土地改変を行って、高さ140~210mの風力発電機を尾根上に設置することは、当該地域の土砂災害リスクを格段に高めることに繋がることは明白である。

また、広範囲に土地の改変を行うことは、長期間にわたる下流域への土砂流出を引き起こし、結果として河川環境の悪化を生じさせることが容易に予想される。このようなリスクを考慮して、本事業の実施は慎重に判断すべきである。

3. 北限域のブナ林などの重要な植物群落への影響が懸念される

本アセス図書の図3.1-27(4)の現存植生図では、風力発電機設置予定範囲に植生自然度9のチシマザサ-ブナ群集、植生自然度8のチシマザサ-ブナ群集が広く分布していることが示されている。本アセス図書表4.3-24(2)の専門家意見の中で当該地域は希少なブナ林の北限地帯であり極力改変を避けるよう指摘している。本計画と計画地が重複している他風力発電事業に対しても、北海道環境影響評価審議会では計画地内に分布する北限域のブナ林の重要性が指摘されている。

しかし、風力発電機設置が想定される折川沿いの尾根部には全く車道も林道も存在せず。また、送電線も後志利別川沿いから大野変電所までは220kVの送電線があるものの、それ以外には事業予定地内に送電線は存在しない。このようなことから、風力発電機や送電線の設置のためには、長距離の林道建設、大規模な土地の改変が必須であり、事業実施のためには北限域のブナ自然林の広範囲の伐採が想定され、自然環境上看過されるものではない。ブナ林の伐採を避けることができない事業エリアの削除を行うべきである。

4. 鳥類への累積的影響を加味した適切な影響評価を行うべきである

事業実施想定区域の周辺には、既設の風太風力発電所、風太風力第2発電所、寿都風力発電所、寿都温泉ゆべつのゆ風力発電所、新島牧ウィンドファーム、尻別風力発電所があり、更には建設中の(仮称)島牧ウィンドファーム事業が存在する。加えて、(仮称)寿都町風力発電事業、(仮称)月越原野風力発電事業計画、(仮称)島牧美川・折川ウィンドファーム事業、(仮称)北海道(道南地区)ウィンドファーム島牧、など複数の風力発電事業が環境影響評価手続き中である。事業実施想定区域周辺は、オジロワシやクマタカ、オオタカなどの希少猛禽類が生息し、ノスリやケアシノスリの渡りのルートにあたるが、上記のように風力発電事業が過密状態にあることから、当計画事業は、これら稼働中の事業、計画中の事業と相まって、累積的影響が生じることが強く懸念される。今後のアセス手続きの中では適切な累積的影響を加味した環境影響を行う必要がある。

以上

島牧風力発電事業の事業想定区域図島牧風力発電事業の事業想定区域図

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