(仮称)宗谷丘陵南風力発電事業の環境影響評価方法書に関する意見書を提出しました
日本自然保護協会(NACS-J)は、絶滅危惧種で幻の魚と呼ばれるイトウの生息地における風力発電計画の環境影響評価方法書に意見書を提出しました。
同計画は、環境アセスメントの一つ前の計画段階環境配慮書の段階で、猿払村にあるイトウの国内最大の産卵地を含むなど、深刻な自然環境面での問題がありました。今回、猿払村での計画を大きく削減していますが、依然として猿払村の流域最上部の尾根上で風車を建設予定であり、かつイトウの産卵地上流部での風車の搬入林道の建設計画も残ったままです。
私たちは、イトウへの深刻な影響への懸念から猿払村側を完全に外すように意見しています。また、全域が土砂流出防備保安林などの問題点もあり、更なる計画変更を求めています。さらに、渡り鳥の調査を猛禽類の調査の片手間に行う調査計画となっているなど現地調査計画にも問題があります。
同地域では、本計画だけでなく他事業者による大規模な風力発電も計画されており、地域全体として自然環境面での深刻な懸念があります。
2024年12月27日
ENEOSリニューアブル・エナジー株式会社 御中
(仮称)宗谷丘陵南風力発電事業 環境影響評価方法書に関する意見書
〒104-0033 東京都中央区新川1-16-10 ミトヨビル2F
公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 土屋 俊幸
日本自然保護協会は、北海道稚内市、宗谷郡猿払村、天塩郡豊富町で計画されている(仮称)宗谷丘陵南風力発電事業(事業者:ENEOSリニューアブル・エナジー株式会社、最大270,000 kW、基数:最大45基)の環境影響評価方法書(作成委託事業者:株式会社建設環境研究所)に関して、自然環境と生物多様性の保全の観点から意見を述べる。
環境配慮書段階では、事業実施想定区域に国内最大のイトウの産卵河川が含まれているなど自然環境面で国内最大級の問題があった。本アセス図書では、猿払村内での風力発電機設置を基本的に取りやめるなど、一定程度の環境配慮がみられるものの、引き続きイトウの産卵河川への土砂流下が懸念される計画内容である。また、計画地のほぼ全域は土砂流出防備保安林であり、事業実施による自然環境および防災面への影響が懸念されることから、更なる自然環境面での配慮を図るべきである。
1.イトウの国内最大の産卵地への影響が引き続き懸念されることから、更なる事業実施内容の改善を図るべき
当協会は、同計画の計画段階環境配慮書に対して、国内最大のイトウの生息河川である猿払川流域を、事業実施想定区域から外すべきであると意見した。それに対し、本アセス図書で示されている風力発電機設置予定地から、猿払村側のエリアは概ね外しており、自然環境への影響の低減が一定程度図られている。一方で、猿払村と豊富町の境界部尾根上への風力発電機設置が引き続き想定されているだけでなく、猿払村側の猿骨川上流域からの風力発電機の搬入も想定されている。
本アセス図書のP.314の表6.2-1に記載されている専門家意見では、猿払村側の集水域への影響低減のためには、猿払村側への排水を避け、猿払村側の切土を行わないようにすると良いとしている。しかし、現在の計画では主稜線に風力発電機の設置をする予定であることから、猿払村側の切土は避けられない状況である。また、猿払村側の輸送路として想定されている上猿払清浜線(道道889号線)から標高263mの風力発電機設置予定地までの既存の林道は、狭く急勾配である。そのため、建設機材の搬入の際には、林道の改修が必要である。そのため、イトウの繁殖が確認されている猿払村の河川の最上流域で大規模な工事が予想され、森林の伐採および、土地の改変が行われることで、イトウの産卵河川への継続的かつ長期的な土砂の流入などが懸念され、イトウの卵や仔魚の死滅などが危惧される。このようなことから、対象事業実施区域から猿骨川上流域を完全に外すべきである。
また、猿骨川上流域と同様にイトウの生息河川である声問川も輸送路の改変の可能性がある範囲に含まれており、本アセス図書図7.2-12の配慮書・方法書における事業区域の検討フローでは、「繁殖遡上が多く見られた河川の水系の集水域を除外」とある。表7.2-3で示されているように、本事業による2024年春の調査によれば、声問川ではイトウの遡上個体が確認されていないが、過去、声問川でのイトウの生息が確認されており、イトウの遡上傾向は毎年一定でないという専門家意見からも、ワンシーズンの調査結果だけで声問川がイトウの生息河川でないと断定することは時期尚早であり、イトウへの影響は、複数年の調査結果により、慎重に判断すべきである。
2.鳥類への累積的影響を正しく評価するために調査方法を見直すべきである
当協会は、これまでに計画段階環境配慮書に関する意見として、事業実施想定区域周辺は、オオワシやオジロワシ等の海ワシ類およびノスリの渡りのルートにあたるため、自然環境面の懸念があると意見をした。それに対し、本アセス図書の図4.1-9に示されているように、検討対象エリアの絞り込みが行われ、鳥類への環境配慮が一定程度なされている。
一方で、本アセス図書で示されている渡り鳥の調査方法では、渡りの状況把握は不可能である。表6.2-12(動物に係る調査内容の詳細(2/3))に、渡り鳥の調査方法が示されているが、調査は1期のみで、希少猛禽類の調査中に、毎月3日間連続で、渡りの時期の渡り鳥の状況を記録するとしている。このように希少猛禽類の調査と同時並行で実施した渡り鳥の調査では、正確に渡り鳥の数や種類、飛翔ルートを把握することは困難である。また、表6.2-1の鳥類の専門家は、渡りのピーク2期で調査を行うことが望ましいと指摘しており、年変動があることや3日では渡りのピーク時に調査を実施することが難しいことから、1期だけの調査では正確な渡りの状況把握は困難である。こうしたことから、猛禽類の調査とは別に、渡り鳥に特化した調査を、最低2期実施すべきである。また、ピーク期間を十分に捕捉するためにも、最低連続した5日間以上実施すべきである。
3.本事業予定地のほぼ全域が、国有林の土砂流出防備保安林であることから、事業実施は慎重に判断すべきである
北海道は2024年11月に「地域脱炭素化促進事業の促進区域の設定に関する環境配慮基準」を発表しており、地域の実情に応じて環境の保全に適正に配慮し、地域へ貢献する脱炭素化促進事業に関する基準を定めている。この基準の中では、風力発電施設の利活用の促進区域に含める区域として、保安林は適切でないことが示されている。本事業計画地全域は国有林の保安林であることから、風力発電施設の導入を促進すべきではない区域に該当する。
特に、本事業の事業実施想定区域の大部分は、土砂流出の著しい地域などにおいて土砂流出を防止する目的の土砂流出防備保安林に指定されている。これらの保安林を解除し広範囲に土地の改変を行うことは、長期間にわたる下流域への土砂流出によって、河川環境の悪化を引き起こすことが容易に予想される。このような状況からも本事業の実施は、特段の慎重さで判断すべきである。
以上