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(仮称)嶺北香美ウィンドファーム事業の計画段階環境配慮書に意見書を提出しました

2024.12.10
要望・声明

日本自然保護協会(NACS-J)は、高知県香美市および大豊町で計画されている(仮称)嶺北香美ウィンドファーム事業の計画段階環境配慮書に対し、四国で計画されている12件の風力発電事業のなかで最も自然環境への悪影響が懸念されるため、意見書を出しました。


2024年12月10日

株式会社GF 御中

(仮称)嶺北香美ウィンドファーム事業
計画段階環境配慮書に関する意見書

公益財団法人 日本自然保護協会 理事長 土屋 俊幸

日本自然保護協会は、自然環境と生物多様性の保全の観点から、高知県香美市および大豊町で計画されている(仮称)嶺北香美ウィンドファーム事業(事業者:株式会社GF、最大154,800 kW、基数:最大36基)の計画段階環境配慮書(作成委託事業者:一般財団法人日本気象協会)に関して意見を述べる。
本計画は、日本自然保護協会独自の自然環境影響指数※では、四国で計画中の12件の風力発電事業中で最も自然環境への悪影響が懸念される計画であり、計画の中止もしくは対象事業実施区域の抜本的な見直しおよび設置基数の大幅な削減を行うべきである。

1.本事業計画予定地の北東部分の自然林および自然草原を計画地から外すべき

本計画の風力発電機の設置予定範囲の北東側半分は、高知県内で数少ないブナの分布地域となっている。このようなことから、自然環境保全法に基づく自然環境保全基礎調査の第2回調査(特定植物群落)において特定植物群落「青ザレ山と周辺の植生」に選定されている。本事業計画では、特定植物群落「青ザレ山と周辺の植生」の範囲の約2/3が対象事業実施区域に含まれており、その一部は高知県の奥物部県立自然公園の第3種特別地域に指定されている。
また、四国に16~24頭ほどしか生息していないツキノワグマ四国地域個体群生息地に隣接しており、一般社団法人コンサベーション・インターナショナル・ジャパンによって生物多様性保全の鍵になる地域(KBA)の「剣山系」に指定されている。
このように、本事業予定地の北東部分は、全国的に見て生物多様性保全上、極めて重要な地域であり、自然保護の観点から少なくとも特定植物群落の「青ザレ山と周辺の植生」の範囲を計画地から除外すべきである。

2.本事業予定地のほぼ全域が保安林であることなどから、本事業予定地での事業実施は慎重に判断すべき

本事業計画地の北東部は国有林の、南西部は民有林の保安林にほぼ全域が指定されており、また一部地域は奥物部県立自然公園の第3種特別地域および普通地域、梶ヶ森県立自然公園の普通地域に指定されている。
高知県は2022年12月に「再エネの促進区域の設定に関する環境配慮基準」を発表しており、地域と調和した再生可能エネルギーの利活用を促進し、市町村が円滑に促進区域を設定することができるように、促進区域の設定に関する県の基準を定めている。この基準の中では、再生可能エネルギーの利活用の促進区域に含める区域として、県立自然公園や保安林は適切でないことが示されている。このようなことから、本計画地全域は再エネ導入を促進するべきではない区域ということになる。
特に、本計画の風力発電機設置予定地の一部は、土砂流出の著しい地域などにおいて土砂流出を防止する目的の土砂流出防備保安林に指定されている。事業計画地の地質は秩父帯および三波川帯にあたり、特に北東部は御荷鉾緑色岩類が卓越する。御荷鉾帯は地下深部まで変質が及んでいることから、地すべりの発生密度が極めて高い特徴がある。このような地質が脆弱な尾根上で、保安林を解除し、大規模に土地改変を行って、高さ150m以上の風力発電機を設置することは、地すべりなどの災害リスクを高めることになる。
更には、現在同地域には風力発電機を搬入するのに十分な林道が整備されておらず、事業実施により林道を新設する場合、大規模な土地の改変が予想される。このような地質が脆弱な地域で、広範囲に土地の改変を行うことは、長期間にわたる下流域への土砂流出によって、河川環境の悪化を引き起こすことは容易に予想される。
このような状況に十分配慮して、本事業の実施は慎重に判断すべきである。

3.本事業はサシバの渡りのルート近くにあるため、計画の中止もしくはサシバの渡りの時期の稼働制限の必要がある

日本野鳥の会高知支部による調査によると、本事業予定地から南約8kmの香美市香北町有瀬での春季観察により、2020年に2,551羽、2021年に4,154羽、2022年に6,127羽、2023年に2,071羽、2024年に4,859羽のサシバの渡りが確認されており、同地域はサシバの、冬季滞在地から夏季の繁殖地への渡りの主要ルートとなっていることが示されている。
環境省レッドリストで絶滅危惧ⅠB類に指定されているサシバは、日本の各地で生態系の指標種として重要な猛禽類である。そのため、サシバがバードストライクに遭遇することは、風力発電機設置場所周辺だけでなく、海外も含めた広域にわたって生態系に大きな影響をもたらすことになる。
このような広域の生態系へ影響を及ぼすような場所での事業実施は、国際的にも深刻な問題となることから、同事業を仮に行う場合も、少なくともサシバの渡りの時期は稼働制限を行う必要性がある。

2024年9月に日本自然保護協会が、個別の陸上風力発電事業について、自然環境への配慮状況を独自に数値化したもの。イヌワシ等希少鳥類の生息の有無、生物多様性重要地域(KBA:Key Biodiversity Area)、保安林の有無と面積割合、自然林の占有割合、保護林の有無、国立・国定・県立自然公園の有無、など計30項目の評価指標を設けて数値化し、「自然環境配慮指数」として合算し算出している。

以上

三嶺の森(撮影:三嶺の森をまもるみんなの会)

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