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那覇港湾施設代替施設建設事業に係る計画段階環境配慮書に関する意見書を提出しました

2024.08.23
要望・声明

日本自然保護協会は、沖縄県浦添市で計画されている那覇港湾施設代替施設建設事業の計画段階環境配慮書に関して、沖縄島中部西海岸に残された最も健全なサンゴ礁生態系の喪失などの自然環境への影響が予測されることから中止すべきであることを要望しました。


2024年8月23日

沖縄防衛局長 伊藤 晋哉 様

那覇港湾施設代替施設建設事業に係る計画段階環境配慮書に関する意見

〒104-0033 東京都中央区新川1-16-10 ミトヨビル2F
公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 土屋 俊幸

日本自然保護協会は、沖縄県浦添市で計画されている那覇港湾施設代替施設建設事業の計画段階環境配慮書に関して、自然環境と生物多様性の保全の観点から、意見を述べる。
本事業は、以下の理由により生物多様性の喪失などの自然環境への影響が予測されることから、計画段階環境配慮書の段階で計画を中止すべきである。

1.本事業により沖縄島中部西海岸で最も健全なサンゴ礁生態系が喪失する

本事業の事業実施想定区域(以下、本事業区域)は、近年の環境省や日本自然保護協会などの調査により、健全なサンゴ礁が広がっていることが明らかになっている。本アセス図書第3章のP.99では「事業実施想定区域の北東側は被度5%未満の範囲が分布しており、一部に被度30~50%、50%以上の範囲が分布している。南西側は礁縁部に 30~50%の範囲が分布しているほか、礁池内に被度50%以上の範囲が分布している。防波堤の沖側の自謝加瀬、干ノ瀬、浅ノ瀬は、サンゴ類の被度が高く、特に干ノ瀬では、被度50%以上の範囲が分布している。」と記述されており、事業者も被度50%を超える健全なサンゴ礁が分布していることを認識している。

2009年度の沖縄県のサンゴ礁資源情報整備事業報告書によると、沖縄島周辺海域では1998年以前はサンゴの被度が50%を超える健全なサンゴ礁の海域が広く存在していた。しかし、1998年に世界規模の白化現象が発生し、沖縄島全域で、サンゴの被度が大幅に下がった。例えば、浦添の西洲付近とカーミージー沖では、1972年にはサンゴの被度が約60%、隣接する宜野湾や北谷では30~70%であったが、1998年には約5%程度となっており、大幅に被度が下がっている。大規模白化現象発生の11年後である2009年時点でも、沖縄本島全域でのサンゴの被度は平均10%以下と低い状況であった(沖縄県、2009)。本事業区域でも、1998年の大規模な白化現象の影響でサンゴの被度は大きく下がり、2009年でも5%以下であった(沖縄県、2009)。

しかし、2020年以降には、本事業区域内の空寿崎西(座礁船)のサンゴの被度は50%となり(環境省のモニタリングサイト1000のサンゴ礁調査、本アセス図書P.101)、特に、2022年はサンゴの被度が80%を超えて、本事業区域及び近隣海域の中でも最もサンゴの被度が高くなっている(本アセス図書P.101-P.102 表3.1.5-14)。また、2021年から日本自然保護協会などが実施しているリーフチェック調査でも、本事業区域のサンゴの被度が50%以上に回復していることが明らかとなっている。

一方、本事業区域の北部に隣接する宜野湾と北谷のサンゴ礁では、ソフトコーラルの優占により、サンゴの被度は15%前後と低い状態である(日本自然保護協会と地元団体が実施したリーフチェック調査。宜野湾謝名瀬2016~2021年、北谷2013~2021年)。また、事業実施区域の南部に位置する大嶺海岸では、2020年に完成した那覇空港滑走路増設事業に伴って、かつては豊かだったサンゴ礁の生態系が失われている。

以上のように、本事業区域の海域は、沖縄島中部西海岸に残された数少ない健全なサンゴ礁生態系であり、周辺海域のサンゴの回復のためにも保全すべき重要な場所といえる。

2.重要な影響を回避・低減する可能性は根拠に欠ける

本アセス図書「位置等の複数案の設定」(P.5)では、「代替施設の位置等の検討過程においては、「自然的環境を保全する区域」との重複を避けるとともに、港湾内の潮流域に配慮する観点から、代替施設を沖合に配慮して環境影響の回避又は低減が図られている。」「したがって、これらの代替施設、防波堤の位置に関する複数案は設定しない。」とある。しかし、ここで示されている「自然的環境を保全する区域」は、P.9にあるとおり大規模な白化現象直後の1999(平成11)年と白化前の1992(平成4)年のデータを元に設定された区域であり、これをもってこの区域を避けていることで環境影響の回避又は低減が図られているとは考えられない。

また、予測の結果として、埋め立てによる直接改変のほか潮流変化が生じる可能性があり、それにより、水質・底質・地下水・サンゴ礁の地形・多種の動物、植物、生態系などに多くの変化や影響が生じる可能性があると予測している(P.311、P.321、P.326、P.327、P.352、P.363、P.368)。一方、いずれの項目でも評価の結果は、変化の状況・程度等については予測結果に不確実性があるため、事業実施に伴う重大な影響は、実行可能な範囲内で回避又は低減できる可能性が高いと評価されるとしている。しかし、その実行内容はいずれも、現地調査での確認、影響の程度の適切予測、それを踏まえ必要に応じた検討とあるだけで具体性がない。専門家へのヒアリング結果の概要がそれぞれ記載されているが、各意見を参考にするのか実施するのか、それによって影響回避が十分と考えているのか否なのかなど、掲載の意図が不明である。

また、水質・底質・地下水は、本事業区域だけでなく周辺にも影響が生じる可能性があるとしながら、水質・底質を生息基盤・生育環境とすることで影響が生じる可能性があるとする動物・植物の影響は本事業区域のみで、周辺地域、とくに事業位置の設定で避けた「自然的環境を保全する区域」への影響は予測されていない。

これらのことから、事業者が、重要な影響が回避又は低減できる可能性が高いとする記述は根拠に欠けると言わざるを得ない。

以上のことから、日本自然保護協会は、沖縄島中部西海岸で最も健全で重要なサンゴ礁生態系を喪失させる本事業の実施は中止すべきであると考える。

引用文献:
沖縄県(2009)平成21年サンゴ礁資源情報整備事業報告書

サンゴ礁の画像サンエー浦添西海岸パルコシティ沖のサンゴ群集
(2024年2月リーフチェックにて.写真:Kayo Sato)

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