国内全ての国立公園における民間活用による魅力向上事業推進に関する意見書を提出しました
日本自然保護協会(NACS-J)は、2024 年 7 月 19 日の岸田文雄内閣総理大臣の、国内 35 カ所全ての国立公園における民間活用による魅力向上事業推進に関する発言報道を受けて、自然環境保全上の懸念点をまとめた意見書を国に提出しました。
2024年7月25日
内閣総理大臣 岸田 文雄 様
環境大臣 伊藤 信太郎 様
国内 35 カ所全ての国立公園における民間活用による魅力向上事業推進に関する意見書
公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 土屋 俊幸
2024(令和6)年 7 月 19 日の第 24 回観光立国推進閣僚会議において、岸田文雄内閣総理大臣は「ネイチャー・ツーリズムの視点から、全国 35 カ所の全ての国立公園において、先端モデル事業を踏まえ、国立公園制度 100 年を迎える 2031 年までに、地域の理解と環境保全を前提に、世界水準のナショナルパーク化を実現すべく、民間活用による魅力向上事業を実施してください。」と述べた。また、前日 18 日のテレビ東京の取材によると「 2031 年までに全国に 35 カ所ある全ての国立公園で、高級リゾートホテルを誘致する事業を実施する方針を固めた」と報じられている。
国内の 35 カ所全ての国立公園に、新たに高級リゾートホテルなどの大規模宿泊施設を作るのは、自然環境保全上の問題が多い。一部、国立公園内の既にホテルなど宿泊施設が整備されている集団施設地区や、市街地を含む普通地域に新たな宿泊施設を誘致することは否定されるものではない。しかし、全国 35 カ所の国立公園の置かれている状況は多様であり、特に、尾瀬、南アルプス、小笠原などの国立公園は、公園区域内に山小屋以外の大規模な宿泊施設や市街地が含まれていない。これらの国立公園内に新たに高級リゾートホテルなどの大規模宿泊施設を誘致することは、自然環境および景観の破壊をもたらし、各々の国立公園の価値を喪失させることは火を見るよりも明らかである。
一方で、国立公園内でも集団施設地区や市街地を含む普通地域において、その地の環境収容力を考慮した滞在体験の魅力向上事業自体は、国立公園の自然と親しむ機会を創出する上で否定されるものではない。ただし、このような場合でも、自然環境の保全に加えて、地元の理解に留まらない地元の合意と地元関係者の参画が大前提である。
そして、国内の国立公園において、世界水準のナショナルパーク化の実現を目指すのであれば、まずは現在、集団施設地区内に存在している廃屋化した宿泊施設の撤去やリノベーション、荒廃した登山道の整備、国立公園内の自然環境の現状把握や生物多様性の保全活動等を進めるべきである。
以上
南アルプス国立公園のミヤマハナシノブ