(仮称)出水ウィンドファーム事業 環境影響評価準備書に関する意見を提出しました
日本自然保護協会(NACS-J)は、「(仮称)出水ウィンドファーム事業」について、クマタカやサシバなど希少猛禽類の衝突確率が極めて高い地域であること、また対象区域内に生息するヤイロチョウやミゾゴイなどの希少野生動植物種への影響が懸念されることから、環境影響評価準備に対する意見を出しました。
2024年4月19日
日本風力サービス株式会社 御中
(仮称)出水ウィンドファーム事業 環境影響評価準備書に関する意見書
〒104-0033 東京都中央区新川1-16-10 ミトヨビル2F
公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 亀山 章
日本自然保護協会は、自然環境と生物多様性の保全の観点から、鹿児島県出水市で計画されている(仮称)出水ウィンドファーム事業(事業者:日本風力サービス株式会社、最大60,000 kW、基数:最大14基)の環境影響評価準備書(作成委託事業者:八千代エンジニアリング株式会社、以下本アセス図書と略記)に関する意見を述べる。
1.不十分な調査による予測であり、環境影響評価は困難である
本事業の計画地と全く同じ場所で、電源開発株式会社の(仮称)肥薩ウインドファーム事業が計画されており、環境影響準備書が2023年5月に出されている。(仮称)肥薩ウインドファーム事業の環境影響準備書に対する経済産業大臣の勧告では、クマタカへの影響予測から、適切な環境保全措置が求められている。特に、風力発電機No.14とNo.16は衝突確率が極めて高いことから、具体的に風力発電機の設置取り止めや配置変更が求められている。(仮称)出水ウィンドファーム事業の風力発電機T3とT6の計画地点は、(仮称)肥薩ウインドファーム事業のそれぞれNo.16とNo.14の計画地点とほぼ同一地点である。本アセス図書によるとT3への衝突確率は環境省モデルで0.0092頭/年、球体モデルで0.0178頭/年、T6への衝突確率は環境省モデルで0.0029頭/年、球体モデルで0.0193頭/年と衝突確率は際立って高くないことが示されている。それに対して、(仮称)肥薩ウインドファーム事業では風力発電機毎の衝突確率は示されていないものの、No.16とNo.14周辺に生息しているクマタカペアの最大衝突確率は0.491頭/年と極めて高いことが示されている。
また、(仮称)肥薩ウインドファーム事業の環境影響評価準備書では鹿児島県と熊本県境の尾根付近のサシバの衝突確率は0.05個体/年以上と高い確率であることが示されている。本アセス図書のサシバの衝突確率の分布図は非公開であるが、風力発電機T13,14は鹿児島県と熊本県境の尾根付近に設置予定であるにもかかわらず、表10.1.6-73(32-2)では、サシバの衝突確率は事業実施区域全域が0.01個体/年未満であることが明記されており、(仮称)肥薩ウインドファーム事業と比べて著しく低く推定されている。
本アセス図書において、多くの図表が、「重要な種の生息地保護の観点から公開版では確認位置を非公開」とされている。そのため、データの詳細は不明ではあるが、全く同じ場所に風力発電機の設置が計画されている(仮称)肥薩ウインドファーム事業の環境影響評価と比べて、明らかに全体として鳥類への環境影響が低く見積もられている。一般に、鳥類の衝突確率は、飛翔を正確に把握していない場合、低く算出される。本事業の計画地は森林が広範囲を占め、見通しが極めて悪いため、環境調査において鳥類の飛翔を見落とすリスクが高いことから、鳥類の衝突確率は低く算出されうる。現地調査を再度実施した上で、鳥類への影響を正確に評価すべきである。
2.本事業の北側稜線はサシバの渡りの主要なルートであり事業を実施すべきではない
本アセス図書の表10.1.6-34の渡り鳥の調査結果によると、対象事業実施区域付近の上空を2022年10月6日~9日の4日間に通過したサシバは1,256頭であり、秋季のサシバの主要な渡りルートであることが示されている。確認された秋季のサシバの渡りのうち、約38.9% がブレード回転域よりも低空を通過しており、風力発電機を設置した場合、相当数のサシバが毎年バードストライクのリスクに晒されることになる。サシバは、温帯~冷温帯地方で繁殖のために大規模な渡りを行う猛禽類であり、各地で生態系の指標種として重要な猛禽類である。そのため、サシバがバードストライクに遭遇することは、風力発電機設置場所周辺だけでなく、海外も含めた広域にわたって生態系に大きな影響をもたらすことになる。このような広域の生態系へ影響を及ぼすような場所での事業実施は、国際的にも深刻な問題となることから、特に影響が大きい計画地北側の稜線付近での事業は実施すべきではない。
3.ヤイロチョウやミゾゴイの生息への影響が懸念される
本アセス図書によると、対象事業実施区域内で種の保存法の国内希少野生動植物種および環境省レッドリスト絶滅危惧ⅠB類に指定されているヤイロチョウとレッドリスト絶滅危惧Ⅱ類に指定されているミゾゴイが確認されている。工事による騒音や濁水の流入、移動経路の阻害・遮断による影響の低減の対策を行うことが示されているが、生息域の土地の改変を実施する限り、両希少鳥類の生息への影響は不可避である。これら希少鳥類の生息が確認された場所は、事業実施区域から外すべきである。
4.希少なラン科植物の生育地を回避して計画すべき
対象事業実施区域内の改変区域内では、環境省のレッドリスト絶滅危惧ⅠB類に指定されているキエビネや準絶滅危惧種のエビネとムギランが確認されている。また、改変区域50m以内では、環境省のレッドリストで準絶滅危惧種に指定されているボウランと鹿児島レッドデータブックで絶滅危惧Ⅰ類に指定されているクモランが確認されている(表10.1.7)。
これらラン科植物は、共生菌が成長に不可欠な植物であり、移植後の活着率が低いため、移植は困難であり、生育地を回避して計画を再考すべきである。
5.本環境影響評価図書を常時公開することが求められる
本アセス図書のインターネット公開版は縦覧期間初期に第10章の環境影響評価の結果の各項目のリンクに複数の誤りがあった上に、当初設定されていた閲覧期間最終日まで第10.5「環境影響評価の結果_環境影響の総合的な評価」は閲覧ができなかった。
本アセス図書の閲覧は、環境影響評価法により定められた期間ではあるが、縦覧期間が 1ヶ月程度と短く、また縦覧場所も限られていた。インターネット上で閲覧は可能ではあるが、印刷やダウンロードができないため、縦覧期間終了後は、本アセス図書の内容が実際の計画地の状況と齟齬がないかを確認することが難しい。
地域住民や利害関係者等が常時、容易に精査できることが、環境影響評価の信頼性にもつながるものであり、地域との合意形成を図るうえでも不可欠である。全事業の環境影響評価図書を常時公開している事業者もあり、閲覧可能期間に限らず、縦覧期間後も地域の図書館などで、常時閲覧可能にし、また、随時インターネットでの閲覧とダウンロード、印刷を可能にすることが求められる。
以上