(仮称)知内風力発電事業 環境影響評価方法書に関する意見を提出しました
日本自然保護協会(NACS-J)は、「(仮称)知内風力発電事業」について、将来的に消失が懸念される保護林、絶滅危惧種クマタカなどへの影響などが懸念されること、また、自然環境への懸念がある予定地での調査計画が不十分であることから、環境影響評価方法書に対する意見を出しました。
2024年4月8日
知内風力開発株式会社 御中
(仮称)知内風力発電事業 環境影響評価方法書に関する意見書
〒104-0033 東京都中央区新川1-16-10 ミトヨビル2F
公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 亀山 章
日本自然保護協会は、自然環境と生物多様性の保全の観点から、北海道上磯郡知内町で計画されている(仮称)知内風力発電事業(事業者:知内風力開発株式会社、最大48,000kW、基数:最大12基)の環境影響評価方法書(作成委託事業者:日本気象協会)に関する意見を述べる。
1.保護林への影響を配慮した計画にすべき
本事業で設置が計画されている風力発電機12基のうち1基(No.9)は、林野庁北海道森林管理局が設置したムズルセ川トドマツ希少個体群保護林、および環境省の特定植物群落である知内トドマツ林から1kmほどの位置に計画されている。さらには、伐採や土地の改変の可能性がある対象事業実施区域は同保護林に隣接している。ムズルセ川トドマツ希少個体群保護林は、トドマツ自生地南限地帯で温暖化等の影響により将来的に消失が懸念される個体群、環境省の特定植物群落の知内トドマツ林はトドマツの南限分布限界の個体群とされている。
2021年度に林野庁により実施された保護林のモニタリングによると、ムズルセ川トドマツ希少個体群保護林は樹高20m以上、胸高直径30cm以上のトドマツの針葉樹林であり、一部に風倒木がみられる。同保護林および林縁部を伐採し切土および盛土を行う可能性のある当計画は、森林の環境を大きく変化させる恐れがあり、保護林機能の喪失および特定植物群落の変質につながる恐れがある。このようなことから、同保護林の隣接地域を対象事業実施区域から除外すべきである。
2.自然環境への懸念がある事業予定地南側の調査地点が不足している
本環境影響評価方法書で示されている自然環境の調査は対象事業実施区域の北側に極端に偏っており、風力発電機5基を設置予定の南側エリアは、植生自然度が高いにも関わらず調査地点が少ない。例えば、南側エリアの哺乳類の調査地点は10ヶ所中1ヶ所、魚類・底生動物の調査地点は10ヶ所中0ヶ所である。このような調査地点の配置計画では、事業による自然環境への影響を十分に正しく評価することは不可能である。特に同地域はクマタカの生息地とされるが、風力発電機設置予定地No.7、No.8 から最も近いクマタカの定点観察調査地点(St.11)は約4kmも離れた森林内で計画されている。このような離れた場所の森林内から、クマタカの飛翔状況を正確に調査することは困難であり、影響評価を行うことは不可能である。
事業予定地の南側エリアでの全自然環境の調査地点、特にクマタカの定点観察調査地点を大幅に増やすべきである。
3.猛禽類の渡りの調査を詳細に行うべき
松前半島から津軽半島はノスリやハチクマなどの猛禽類の渡りのルートとなっている。特に白神岬から10km程度しか離れていない対象事業実施区域は渡りの主要ルートにあたる可能性がある。渡りの時期は年変動も大きいことから、通常の環境影響評価の調査よりも期間を長めに設けて詳細に調査を行うべきである。
以上