(仮称)新潟関川風力発電事業 環境影響評価方法書に対する意見を提出しました
日本自然保護協会(NACS-J)は、「(仮称)新潟関川風力発電事業」について、絶滅危惧種イヌワシの国内有数の生息地を含むなど、自然環境と生物多様性への影響が甚大なことから、環境影響評価方法書に対する意見を出しました。
2024年4月2日
東急不動産株式会社 御中
(仮称)新潟関川風力発電事業 環境影響評価方法書に関する意見書
〒104-0033 東京都中央区新川1-16-10 ミトヨビル2F
公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 亀山 章
日本自然保護協会は、自然環境と生物多様性の保全の観点から、新潟県岩船郡関川村及び山形県西置賜郡小国町の行政界付近で計画されている(仮称)新潟関川風力発電事業(事業者:東急不動産株式会社、最大47,300kW、基数:最大11基)の環境影響評価方法書(作成委託事業者:日本気象協会)に関する意見を述べる。
1.生物多様性への配慮を欠いた計画であり事業の再考を行うべきである
本発電事業の環境影響評価方法書段階での計画は、環境配慮書段階から発電所の出力規模を縮小し、磐梯朝日国立公園の第2種特別地域及び第3種特別地域の大部分、保安林、緑の回廊を除外して区域の面積を絞り込んでおり、一定程度の環境配慮がなされているが、そもそも計画そのものが自然環境への影響が以下のように多大である。
1-1. 日本有数の高密度なイヌワシ生息地である
表6.2-1(2)の専門家等からの意見の有識者Ⅰからの意見にあるように、周辺20~30km圏内にイヌワシの5~6ペアが生息しており、イヌワシ研究会によると新潟県側だけでも国内の約4%のイヌワシが生息している日本有数のイヌワシの高密度生息地域である。先行調査では対象事業実施区域内にあまり出現しなかったようであるが、先行調査はあくまでも短期間の結果に過ぎず、イヌワシの生息に影響を及ぼす可能性は極めて高いと言える。
1-2.自然林に近い植生が計画地の大部分を占める
本方法書段階で、配慮書段階内で含めていた植生自然度9の自然林であるチシマザサ―ブナ群団やクロベ―キタゴヨウ群落の大部分は除外しているものの、風力発電機設置予定10ヶ所のうち8ヶ所は自然林に近い植生自然度8のブナ―ミズナラ群集およびオオバクロモジ―ミズナラ群集で予定されている。相対的に自然度の高い場所を除外しているが、計画そのものが植生へ与える影響は大きい。
1-3.国立公園内への風力発電機の設置を避けるべき
わが国でこれまで法アセス対象となった400件以上の大型陸上風力発電計画のうち、国立公園を対象事業実施区域に含めた計画は6件のみである。そのうち2件は計画段階で中止となっており、残りの4件のうち本計画を除いた3件は国立公園内での風力発電機の設置は想定されていない。本計画は方法書段階で磐梯朝日国立公園の第2種特別地域及び第3種特別地域の大部分を除外したものの、対象事業実施区域の約99%が磐梯朝日国立公園内であり、全ての風力発電機が国立公園内に建設予定である。国立公園は優れた自然の風景地の保護、その利用増進、国民の保健、休養及び教化、生物多様性確保を目的としており、これら目的を損なう可能性のある大型風力発電機の設置は避けるべきである。
同事業者の親会社である東急不動産ホールディングス株式会社はネイチャーポジティブ宣言を行い、東京・渋谷の都市域での生物多様性への貢献を推進している。再生可能エネルギーの推進も、地球温暖化を抑制し生態系保全につながることから、日本自然保護協会も早急に進める必要があると考えている。一方で、再生可能エネルギー事業を進めるにあたっては、自然環境に配慮した立地・計画でなければ、ネイチャーポジティブに逆行していると言わざるを得ない。イヌワシは絶滅危惧種であり、国の保護増殖事業計画に基づいて絶滅からの回避を目指した取り組みが各地で行われている。それにもかかわらず、当該計画の半分はイヌワシの生息地で計画されており、他の事業者と比較しても生物多様性への配慮に欠いている。特に本事業による生物多様性への影響は憂慮するものであり、環境影響配慮書に対する経済産業省意見の中でも、過去400件近くの計画の中で7件しか言及されていない「本事業の取りやめ」も含めて検討するようにとの意見が示されている。このようなことからも、本計画は中止を前提とした計画の再考を行うべきである。
2.計画地東側の荒谷沢での調査地点の追加が必要である
荒谷沢での、水環境の調査位置(浮遊物質量及び流れの状況)(表6.2-2(15)、図6.2-6(11))と動物の調査位置(魚類、底生動物)(表6.2-2(33)、図6.2-6(11))が不足している。事業の実施による土地の改変や資材の搬入は、風力発電機設置予定地西側のわかぶな高原スキー場側から想定されている。しかし風力発電施設設置予定地は、わかぶな高原スキー場と荒谷沢の境界の尾根部であり、荒谷沢への影響も想定される。しかし、荒谷沢での水環境の調査は計画されておらず、動物の調査位置(魚類、底生動物)は最下流部の荒川との合流点で1地点あるだけである。荒谷沢は砂防ダムなどの施設がなくイワナなどの魚類が多数生息している可能性が高い重要な河川である。そのため、荒谷沢での水環境と魚類・水生動物の調査を大幅に増やすべきである。
3.地すべり地形の調査を行うべきである
同地域は日本有数の豪雪地域であり、グリーンタフ地域であることから地すべりが発生しやすい。1981年4月には本事業予定地の北に約8kmの関川村中束地区で大規模な地すべりが発生している。対象事業実施区域内には地すべりの移動体が多数みられ、一部は地すべり防止区域および土砂災害警戒区域に指定されている。さらには風力発電機設置が地すべりの滑落崖直上に複数予定されている。このような地すべりの危険性が高い場所に、高さ最大159mもの風力発電施設を建設することは、地すべりを誘発する可能性がある。しかし、本アセス図書ではその危険性に関する調査および評価には一切言及されていない。本事業による地すべりの危険性を、現地調査も含めて調査を行い評価すべきである。
以上