絞り込み検索

nacsj

絶滅危急種・本州産クマゲラ個体群の保全に関する要望書を提出しました

2024.01.17
要望・声明

現在、北海道と北東北の一部のみに生息している国の天然記念物クマゲラは、環境省のレッドリストにも選定されている絶滅危惧種である。特に本州に生息するクマゲラは、2017年以降その生息が確認されておらず『幻のキツツキ』と化している。
わが国の自然豊かな森林の象徴である、本州産クマゲラの早急な保護・保全策をお願いする要望書を国に提出しました。

(写真提供:NPO法人 本州産クマゲラ研究会)


2024(令和6)年1月17日

環境大臣  伊藤 信太郎 様
林野庁長官 青山 豊久 様
文化庁長官 都倉 俊一 様

絶滅危急種・本州産クマゲラ個体群の保全に関する要望書

NPO法人 本州産クマゲラ研究会

理事長   藤井 忠志

津軽百年の森づくり

代 表   根深 誠

公益財団法人 日本自然保護協会

理事長   亀山 章

クマゲラ(Dryocopus martius)は分類学上、キツツキ目(PICIFORMES)、キツツキ科(PICIDAE)、クマゲラ属(Dryocopus)に属す日本最大のキツツキである(小笠原 1988)。世界的分布をみると北極圏、ロシアチュコト半島やカムチャツカ半島北部をのぞき、ヨーロッパ全体および北アジアからカムチャツカ半島まで広く生息している(Blume 1973)。その中でも特に本州に生息するクマゲラ個体群は、南限の東端に近く、昭和初期に八幡平で捕獲された折りにも動物分布境界線のブラキストン線を根拠に北海道からの渡り鳥と見なされる(川口 1935)など、動物地理学上も貴重な個体群といえる。

日本でクマゲラ属に含まれるキツツキ類は、クマゲラとキタタキ(D. javensis)の2種であり、キタタキは対馬にのみ局所的に生息していたが、1920年10月の記録を最後に、日本からは姿を消してしまった(日本自然保護協会 1986)。

クマゲラが国の天然記念物に指定されたのは1965年で、現在の環境省レッドリスト(環境省2014)や北海道レッドリスト(北海道 2017)では絶滅の危険が増大している種の絶滅危惧Ⅱ類(VU)に、青森や秋田、岩手の北東北三県のレッドデータブックでは、「現在の状況をもたらした圧迫要因が引き続き作用する場合、野生での存続が困難な種」という定義のIA類(秋田県 2002)やAランク(青森県 2000、岩手県 2014)に位置づけられている。

クマゲラは、北海道と本州北部の一部に生息が確認されており、前者では比較的多く見られるが、後者においては生息個体数が極端に少なく、繁殖が確認されたのは、秋田県森吉山と白神山地、十和田八甲田そして田沢湖のブナ林だけである(泉 1985; 小笠原 1988; 藤井 2014)。

さらに、北海道がトドマツなどの針葉樹林に生息する一方(有澤1933)、本州はブナ林にのみ依存する(小笠原1988)など、両地域における生息環境の違いや、長年津軽海峡を境に遺伝子の交流がないことから、亜種として扱うべきものと指摘されている(小笠原1988)。そのため、本州のクマゲラは、学術的にも保全上も重要な個体群と考えられる(日本自然保護協会 1986)。

クマゲラが生息していることを根拠に、秋田県森吉山は特定動物生息地保護林に、白神山地は日本初の世界自然遺産地域として指定される(藤井2014)など、自然の豊かさと多様な自然環境の指標鳥類とみなされている(林野庁2013)。

本州産クマゲラ研究会の藤井らが北東北三県に現存するブナ林に本種の痕跡がある地域を抽出し、繁殖期行動圏から推定した結果、現存個体数は88-122羽であり、鳥類における種を維持できる100羽前後のぎりぎりの状態であることが判明している。したがって、これ以上の減少は絶滅を示唆している。

しかし、前述した森吉山や白神山地での生息状況に関する情報は今や皆無に近い(藤井 2018a)。青森県白神山地では2008年6月、秋田県森吉山では2014年6月を最後に繁殖活動が行なわれておらず、。個体撮影記録は、白神山地では2009年5月20日、森吉山では2017年4月30日が最後であり、目撃記録は白神山地の2014年10月26日が最終となっている。本州産クマゲラ研究会の調査がすべてではないが、クマゲラ生態調査に特化した研究団体でも生息確認がされていないことから、現在本州産クマゲラは絶滅の危機にあり、『幻のキツツキ』と化している。

キツツキ科鳥類は、主に森林の居住者であり留鳥であるため、他の場所(越冬地域や通行途中の地域)での条件や出来事によって影響を受ける渡り鳥よりも、指標鳥的役割を果たしていることが明らかである(Gorman 2011)。そのため、森林の生物多様性の良好な指標となる(Angelstam 1990,Mikusinski 1997)。世界自然遺産白神山地や特定動物生息地保護林の森吉山では、その植生自然度の豊かさの象徴種としてクマゲラを前面に打ち出しており、もしクマゲラの生息が消滅すれば、それぞれの価値を現世代で失うことになるため、国をあげての早急な保護・保全策を講じる必要性がある。

以上のことから、我々は下記の点を要望する。

  1. 国として緊急に各省庁担当者の協議の場を設けること
  2. クマゲラを絶滅危惧Ⅰ類に格上げし、今後50年間は推移を見守ること
  3. 現状における本州産クマゲラ個体群の生息実態調査(推定個体数把握も含む)を実施すること
  4. 前項3.の生息実態調査を分析し、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)の国内希少野生動物種の指定をし、個体数回復のために今やるべき方策の保全計画を策定し、それを直ちに実行すること
  5. 本州産クマゲラ個体群の保全のための国を挙げてのプロジェクトチームの結成および予算化を行なうこと

以上

前のページに戻る

あなたの支援が必要です!

×

NACS-J(ナックスジェイ・日本自然保護協会)は、寄付に基づく支援により活動している団体です。

継続寄付

寄付をする
(今回のみ支援)

月々1000円のご支援で、自然保護に関する普及啓発を広げることができます。

寄付する