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川辺川の流水型ダムに関する環境影響評価準備レポートに対する環境保全の見地からの意見書を提出しました

2024.01.12
要望・声明

川辺川の流水型ダム建設計画において、環境影響評価法の準備書に相当する「川辺川の流水型ダムに関する環境影響評価準備レポート」が出されました。

NACS-Jはこの準備レポートに対して、流水型ダムであっても環境への影響は多く懸念され、掲載されている環境保全措置では不確実性があり十分でないまま環境影響評価をすすめていることを危惧し、国土交通省九州地方整備局へ意見書を提出しました。


2024(令和6)年1月11日

国土交通省 九州地方整備局長 森戸 義貴 様

公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 亀山 章

川辺川の流水型ダムに関する環境影響評価準備レポートに対する環境保全の見地からの意見書

川辺川の流水型ダムに関する環境影響評価準備レポートについて、環境保全の見地から次のとおり意見を述べます。

意見1.環境影響評価法と同等とするうえで環境大臣に意見を求めるべきである

環境配慮レポートの段階では、まえがきのなかで環境大臣に意見を求めることが明記されていた。また、準備レポートのまえがきでも、熊本県知事から「引き続き、法と同等の環境アセスメントを確実に実施するよう」お願いがあったと記載されている。環境影響評価法と同等の手続きとするうえでは、評価レポートについても、国土交通大臣は環境大臣に意見を求めるべきである。また、環境省が環境保全の見地からどのような意見をまとめるか注目したい。

意見2.試験湛水により九折瀬洞窟のコウモリ類と希少昆虫類に不可逆的な影響が及ぼされるため、防水擁壁や移植などの環境保全措置を慎重に行うべきであるが、具体性にかける

試験湛水(概ね9月~3月)による九折瀬洞窟の冠水期間は明確にされていないが、冠水が数ヶ月に及ぶ場合には、越冬中のコウモリ類や洞窟性の昆虫類イツキメナシナミグモやツノノコギリヤスデ、ツヅラセメクラチビゴミムシなどに不可逆的な影響を及ぼすと考えられる。

これに対する環境保全措置として試験湛水前に洞口前面に防水擁壁を設置し、試験湛水終了後は撤去するとしている(洞口閉鎖対策)。しかし、防水擁壁は水圧や水流に耐えるために規模が大きく強度のある工作物と考えられ、コウモリ類の出入りについて、その構造や設置と撤去の工事に十分な配慮が必要であるが、その具体的なことは示されておらず、評価できない。また、昆虫類の移植は、移植先の東ホールで生息している個体への影響も考慮すべきである。さらに、冠水する範囲のグアノと陸上昆虫を冠水しない東ホールに移植することとしているが、移植したグアノが必ずしもコウモリのコロニーの真下になるとは限らず、不確実性が高いと考えられる。いずれの方法についても「専門家の指導・助言を得ながら対応する」としているが、事例のない保全策であることから、専門家の所属・氏名を公表すべきである。

意見3.生態系の上位性の種であるヤマセミ、カワセミ、カワガラスは、ダムの供用後には行動圏や生息域が分断されるにも関わらず、環境保全措置が不十分である

生態系の上位性(河川域)の注目種として、ヤマセミ、カワセミ、カワガラスを選出し、各種のつがいの行動圏、繁殖状況などの詳細な調査と分析を行ったことは評価できる。しかし、飛翔高度の分布(ヤマセミ図7.2.8-17、カワセミ図7.2.8-22、カワガラス図7.2.8-27)から、これらの種がダム堤体の堤高(107.5m)を超える高度で飛翔していないことは明確である。そのため、ダムの供用後に行動圏や生息域が分断されることが容易に予想される。

カワガラスは1月頃から繁殖をはじめるため、試験湛水期の10月~3月と重なり、その年の20つがいの繁殖への影響は大きいと考えられるが、しかし、試験湛水による冠水に対するカワガラスの環境保全措置として、34つがいの「生息・繁殖状況の監視とその結果への対応」とモニタリングのことしか記載されておらず、環境保全措置に該当する「結果への対応」は何も具体性がない(P7.2.8-447)。モニタリングをすることは当然のことであり、環境保全措置ではない。

ヤマセミの環境保全措置について「他ダムにおけるダム堤体の常時放流設備を通過する事例もある」という記載がいくつかあるが、その具体的な事例が明らかにされていない。また、川辺川の流水型ダムの常用洪水吐きは約100mの長さがあり、既存の流水型ダムと規模が大きく異なり、他ダムの事例を用いて「保全措置による一定の効果があることの不確実性は小さい」と結論づけることは誤りである。

意見4.渓流環境の指標となるカワネズミの環境保全措置の検討を行わない判断の理由が不明確である

カワネズミは、直接改変により「改変区域は本種の主要な生息環境として適さなくなる」、「試験湛水期間(概ね9月~翌年3月)に本種の繁殖期(10月~12月、2月~6月)の一部が重なることから、本種の繁殖場として適さなくなる」、「本種は直接改変等以外(河川の連続性)の影響を受ける可能性が考えられる」と記載してあり、川辺川の個体群に影響があると考えられる。しかし、「7.2.6.4環境保全措置の検討」では環境保全措置の検討を行わない判断となっており、その理由について何も記載されていない。カワネズミは渓流環境の連続性の指標となり、九州個体群は環境省のレッドリストでは絶滅のおそれのある地域個体群(LP)にも指定されているため、環境保全措置の検討を適切に行うべきである。

意見5.7. 2. 4. 水質 7. 2. 4. 1. 環境影響評価の手順、7.2. 4. 2. 調査結果の概要 (p.1~98)について

国や自治体の諸機関による水質調査結果は、現在の球磨川・川辺川の水質状況を示すものではあるが、地域の漁業者や住民の水質悪化の懸念を解消するための議論に直接つながるものではない。漁業者や遊漁者は、アユの生息環境が維持されるのかを懸念しているのであり、アユの斃死事件に直結する溶存酸素については、その濃度が特に低下する夜間から未明にかけての状況を、また、濁りについては、餌資源の付着藻類の生育に関係する降水後の濁りの持続時間が問題視される。このような時期の観測資料を提示するか、なければ既存の資料からの推測結果が示されなければならない。

意見6.7. 2. 7. 植物7. 2. 7. 3. 調査結果の概要2) 付着藻類の重要な種 (p. 561-687)について

サイズが小さく、流域の市民にもなじみが薄い付着藻類を調査対象としたことは評価される。多数の地点を網羅した調査は、今後の河川を対象とする環境影響評価にも踏襲されるべきである。

対象となった種はいずれも希少なものであるから、詳細な分布図は公開を控えるべきであるが、生育環境の水温や、pH、濁度などの要因と対照させ、現在の生育環境の範囲を数値として示す必要がある。「ダムの建設や運用の影響は小さい」との表現が随所に見られるが、その信頼性は、現在の生育環境と、ダム建設・運用後のそれを比較しなければ保証できないはずである。

対象とされた藻類の同定や、生活史、生育環境の解明は高度の専門的な知識を必要とし、流域市民が検証することは難しい。判断の根拠となった文献や、専門家の助言があれば、それも明記すべきである。

藍藻類や紅藻類の同定が種まで確定した専門的なものであるのに対して、シャジクモが大きな分類単位であることが気になる。恐らく複数の種が含まれていると思われる。学名も併記し、「シャジクモ」が具体的にどのような生物群を指すものであるか明確に記述する必要がある。「アシツキ (カワタケ)」の項で、「産卵環境」(p. 563) など藻類の記述としては理解できない部分があり、詳細な説明を求める。

意見7.7. 2. 8. 生態系7. 2. 8. 4. 予測結果b) アユ生息・産卵環境の状況 (p. 130-139)について

アユの生活史に基づき、各生育段階で利用される場の環境調査を行うことが必要であることは理解されているが、それぞれの記述が少なすぎ、アユ漁への影響を判断するに至るものとはなっていない。採餌の場所の評価は、付着藻類の現存量だけで判断されるべきではなく、付着藻類の種類組成や生産速度を窺わせる情報があれば、明示すべきである。また、河床の微地形なども、アユの採餌場としての適否を決める基準となる。図示された現存量の情報からは、採餌場として利用されていても、活発な再生産があり、良好な状況なのか、または利用されず現存量が流量の変化のみにより変動しているのか判断できない。

産卵場については、河床の砂礫の粒度組成、水温・水質などの情報も示し、それらの要素が、ダムの建設と運用後も劣化しないことを示す必要がある。

アユの仔魚が生活する河口部の環境情報を欠いている。ダム下流の八代市住民からは、影響範囲はダム直下だけではなく河口まで及ぶとの懸念の声がある。仔魚の生活環境への影響の可能性の有無を、河口域の塩分濃度や溶存酸素の観測結果を使い説明する必要がある。

短い調査期間では、アユへの影響に関わるすべての情報を提示することは難しい。川辺川産の仔魚の降下の実態が不明であれば、降下や、遡上についての地元漁協などの調査資料も併せて環境影響評価に利用すべきである。

意見8.7. 2. 8. 4. 予測の結果 2) 河川域 (p. 254-419)について

濁りの発生とそれによるアユの影響について解説されているが、実験室内の観測結果が引用されているのみで、それが球磨川、川辺川の現場で懸念されている事態でも適用できるかの説明がない。ダムから流出する濁質は、実験に使われた珪藻土ではなく、有機物を含み、流出後河川内で溶存酸素を消費する可能性を持つものであり、直接的な忌避と斃死だけではなく、餌となる付着藻類の成長阻害や、友釣りが成立するための縄張り形成等の多様な影響について、影響の有無が判断できる情報を提供すべきである。

以下の事項についての情報や説明が不足している。

1)濁り耐性について、多くの室内実験や屋外観測の資料があるが、5例の文献に絞って考察したことの説明

2)濁りだけの単一要因による忌避や斃死との関係に絞り、酸素不足や嫌気的環境で生じる硫化水素などの複合的影響を軽視することの根拠

3)付着藻類への影響を介したアユへの影響、例えば、餌不足、濁質が混じる付着藻類の餌の質の低下、及びそれによるアユの肥満度への悪影響、ピン・ヘッドなどの形態異常、さらにその結果としての市場価値の低下等の検討

4)軽い濁りの縄張り形成への影響、及び縄張りが形成されないことによる友釣り漁への影響

また、河床の粒度分布の予測については、その結果だけではなく、アユの餌場として、また産卵場所として適切な範囲に維持できるかの判断も示すべきである。

意見9.7. 3. 環境の保全のための措置 (p. 1-8) 7.3. 1. 環境保全措置の比較検討及び内容について

環境保全措置が具体的ではなく、評価できない。また、表題に比較検討とあるが、比較の対象となる代案が示されていない。

1)工事の実施における環境保全措置 (水質)

具体的な値が示されていないために評価できない。想定される最大懸濁物濃度や水位上昇・低下の速度などの情報を示す必要がある。また、取水深度を変更するための施設の概要や、その運用の指針なども示す必要がある。

2)工事の実施における環境保全措置 (ニホンウナギ、サクラマス)

仮排水路に設置する魚道の構造が示されていない。設計等について専門家の助言を受ける場合は、その氏名や所属を公開することも必要である。

3)工事の実施における環境保全措置 (スジヒラタガムシ、ミユキシジミガムシ)

整備を予定している湿地の属性を示す必要がある。水質、底質、植生等を現在の生息地と比較し、代替として適切であることを説明しなければならない。

4)工事の実施における環境保全措置 (種子植物・羊歯植物)

リストにあげられたすべての種を保存する方針は高く評価するが、全種について、一律な種子採集や表土撒き出しで活着するのか疑わしい。この段階でどの種をどのような手法で保存するか整理して示す必要がある。ヒロハコンロンカ、タマミズキなど重複して掲載されている種があり、再度リストを点検する必要がある。

5)工事の実施における環境保全措置 (生態系典型性)

瀬の整備は必要であるが、影響を受ける可能性があるすべての採餌場や産卵場について対応できるのかが明らかにされていない。実施するとすれば、恐らく、多額の費用と時間がかかるであろう。現在、整備を想定している場所はどこか明示し、特に、その場所に特化した整備案を提案することが必要である。仮排水路内部の河床改良、及び魚道については、具体的に図面等を示す必要がある。

意見10.7. 4. 2. 事後調査の内容 水質について

事前の予測に不確実性があることを前提とした事後調査の方針、事業中の情報公開、及び追加の環境保全措置の実施については、高く評価する。しかし、供用後のモニタリングについては実施の有無も含めて不明である。もしモニタリングを実施する場合には、どのような項目をどのくらいの期間実施するか明示すべきである。

以上

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