(仮称)留萌北部(沿岸)広域風力発電事業の環境影響評価方法書に関する意見書を提出しました
日本自然保護協会(NACS-J)は、北海道北部の沿岸域で計画されている(仮称)留萌北部(沿岸)広域風力発電事業の環境影響評価方法書に対し、アセス手続き途上での大幅な事業拡大を行うべきではないと意見しました。
本計画は配慮書の段階では最大出力35万kWでしたが、方法書では65万kWと約2倍の規模に変更されました。これは、事業計画が進む前に適正な環境配慮を行うという、本来の計画段階環境配慮書の目的を果たせているとはいえません。環境影響を正しく評価し配慮するためにも、事業者に適切な対応を求めます。
(仮称)留萌北部(沿岸)広域風力発電事業環境影響評価方法書に関する意見書(PDF/589KB)2023年7月14日
株式会社 ユーラスエナジーホールディングス 御中
(仮称)留萌北部(沿岸)広域風力発電事業環境影響評価方法書に関する意見書
〒104-0033 東京都中央区新川1-16-10 ミトヨビル2F
公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 亀山 章
日本自然保護協会は、自然環境と生物多様性の保全の観点から、北海道天塩郡天塩町、天塩郡遠別町、苫前郡初山別村で計画されている(仮称)留萌北部(沿岸)広域風力発電事業(事業者:株式会社ユーラスエナジーホールディングス、650,000 kW程度、基数:90~100基)の環境影響評価方法書(作成委託事業者:株式会社建設環境研究所)に関する意見を述べる。
1)計画段階環境配慮書から大幅な事業拡大は行うべきではない
計画段階環境配慮書は、事業の早期段階における環境配慮を図るため、事業の位置・規模等の計画の立案段階において環境の保全について適正な配慮をするべき事項について検討を行い、その結果をまとめたものである。その際に、対象事業が周辺の自然環境、地域生活環境などに与える影響について、地域住民、専門家、地方公共団体などの意見を取り入れるよう努めることとされている。本事業の環境影響評価方法書(本アセス図書)の対象事業実施区域は、動植物の分布や生態系、騒音などの状況を考慮して、計画段階環境配慮書の事業実施想定区域から区域を絞り込んでいる。しかし、総出力は配慮書では35万kW程度であったが、本アセス図書では65万kW程度と約1.86倍と大幅に増加している。また設置基数も計画段階環境配慮書では70~80基程度であったが、本アセス図書では90~100基に増加している。このような環境影響評価手続き途上での大幅な事業拡大は、計画段階における環境配慮の手続きを蔑ろにしているといわざるをえず、大幅な事業拡大は行うべきではない。
2)調査地点の追加が必要である
北里牧場地区サラキタナイ川での、水の濁りの調査地点(浮遊物質量及び流量)(図6.2-3)と動物調査地点(魚類、底生動物)(図6.2-10)が不足している。サラキタナイ川の中流部には人造湖の更岸貯水池があり、貯水池の上下流では河川環境が大きく異なっている。しかしサラキタナイ川での水の濁りの調査地点と動物調査地点は更岸貯水池よりも下流のTK-W1とTK-W3の各2箇所のみで実施予定である。風力発電機設置は更岸貯水池上流でも計画されており、風力発電機設置により河川環境への影響が想定されることから、サラキタナイ川の更岸貯水池よりも上流でも水の濁りの調査地点(浮遊物質量及び流量)と動物調査地点(魚類、底生動物)を設置すべきである。 本アセス図書によると、遠別富士見地区での動物等の調査地点は各植生タイプ1箇所ずつ実施予定であり、動物調査地域の調査地点(哺乳類、昆虫類及びコウモリ)の10箇所中9箇所(図6.2-22、図6.2-24)、調査経路(一般鳥類)の6箇所中5箇所(図6.2-23)は対象事業実施区域西側で実施予定である。しかし、対象事業実施区域の東側は植生自然度9(自然林)に該当する針広混交林や針葉樹林が広く分布し、本事業の実施によって自然環境への影響が強く懸念される。特に針広混交林の面積は広範であることから、針広混交林で動物調査を合計で3~4か所程度調査を行うべきである。
3)専門家等へのヒアリングの精査が必要である
対象事業実施区域は南北約30kmと広域にわたり、第6章の「対象事業に係る環境影響評価の項目並びに調査、予測及び評価の手法」は対象事業実施区域を3地域に分けて、各実施項目を記述している。しかし、専門家等へのヒアリング結果は、地区ごとに別表扱いであるが(表.6.2-1、表6.2-26、表6.2-51)、まったく同じ内容が掲載されている。計画エリアが広域にわたるため、各地区で自然環境は異なっており、それに合わせて専門家等へのヒアリング内容も地区ごとに精査して掲載すべきである。
4)本アセス図書を常時公開すべきである
本アセス図書の閲覧は、環境影響評価法により定められているとはいえ、縦覧期間が 1ヶ月程度と短く、また縦覧場所も限られている。インターネット上で閲覧は可能ではあるが、印刷やダウンロードができないため、縦覧期間終了後は、アセス図書の内容が実際の計画地の状況と齟齬がないかの確認が難しい。 地域住民や利害関係者等が常時、容易に精査できることが、環境影響評価の信頼性にもつながるものであり、地域との合意形成を図るうえでも不可欠である。全事業の環境影響評価図書を常時公開している事業者もあり、閲覧可能期間を短くしている本事業者の対応は不親切といわざるを得ない。閲覧可能期間に限らず、縦覧期間後も地域の図書館などで、図書を常時閲覧可能にし、また、随時インターネットでの閲覧とダウンロード、印刷を可能にすべきである。
以上