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鹿児島県で計画されている(仮称)垂水風力発電事業の環境影響評価方法書に関する意見書を提出しました

2023.03.08
要望・声明

日本自然保護協会(NACS-J)は、鹿児島県の垂水市と鹿屋市、および霧島市で計画されている(仮称)垂水風力発電事の環境影響評価方法書に対し、自然環境と生物多様性の保全の観点から不足している情報や、調査・評価方法について意見を述べました。

(仮称)垂水風力発電事業 環境影響評価方法に関する意見書(PDF/981KB)


2023年3月8日

(仮称)垂水風力発電事業における環境影響評価方法書に関する意見書

〒104-0033 東京都中央区新川1-16-10 ミトヨビル2F
公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 亀山 章

日本自然保護協会は、自然環境と生物多様性の保全の観点から、鹿児島県垂水市、鹿屋市および霧島市で計画されている(仮称)垂水風力発電事業(事業者:株式会社ユーラスエナジーホールディングス、最大総出力:192,000kW、基数:最大32基)の環境影響評価方法書(作成委託事業者:いであ株式会社)に関する意見を述べる。

1)風力発電機の設置場所が未確定

本事業実施想定地域内には現在、大型のタワーやブレードを搬入することができる搬入路はほとんど存在せず、風力発電機の搬入のためには既存道路の大幅な拡張および新規に搬入路の整備を行う必要がある。しかし、風力発電機の設置場所が不明であるため、どのような経路でどの程度の風力発電機を搬入するかが未確定の状態である。このような状態では、自然環境への影響を正しく評価することは困難であり、現計画段階で環境影響評価を正しく行うことは不可能である。

2)鵃岳山頂付近のアカガシ二次林での動物調査

風力発電機設置想定区域のほとんどはスギの人工林やシイ-カシ二次林であり、鵃岳周辺はアカガシ二次林となっている。アカガシ二次林はシイ-カシ二次林よりも高標高に成立する森林であり、明らかに周囲の植生とは異なっている。鵃岳周辺のアカガシ二次林は風力発電機設置想定区域内でも特徴的な植生の一つであるが、鵃岳山頂付近のアカガシ二次林内では哺乳類、鳥類、希少猛禽類、昆虫の動物調査は1地点も予定されていない。そのため、風力発電機の設置が想定される鵃岳山頂付近のアカガシ二次林内で少なくとも1地点以上、各動物種群の調査を行うべきである。

3)種の保存法の指定種クマタカの生息調査

対象事業実施区域ではクマタカの生息が確認されており、この地域におけるクマタカの生息および繁殖に対する影響が強く懸念される。そのため、事業者は事業によるクマタカの繁殖等生息への影響を回避・低減する観点から、環境省「猛禽類保護の進め方(改定版)」にしたがって繁殖成功年を含めた2営巣期以上の調査を行い、行動圏の内部構造を適切に評価すべきである。

4)希少な腐生ランや着生ランの詳細な調査

事業予定地の8割を占める鹿児島大学高隈演習林では、「環境省レッドリスト2020」で絶滅危惧ⅠA類のハツシマラン、絶滅危倶ⅠB類のマヤラン、キバナノショウキラン、ナゴランなどの希少なランの生息が報告されている。また本方法書P.96-98に記載されているように「環境省レッドリスト2020」で絶滅危惧ⅠA類のサクラジマエビネ、絶滅危倶ⅠB類のタネガシマムヨウラン、ナゴランなどが生育する可能性がある。このように同地域には希少な腐生ランや着生ランが数多く生息している可能性がある。腐生ランの同定は花季のみ可能であるが、その重要性から確実に同定し記載すべきである。また、樹上の着生ランに関しても、樹上での一個体ずつの確認を慎重におこない確実に同定し記載すべきである。

5)高峠山頂(721.5m)からのフォトモンタージュ

高峠つつじヶ丘公園周辺は霧島錦江湾国立公園に指定され、錦江湾などの展望のための園地として整備されている。特に標高721.5mの高峠山頂は、桜島や開聞岳の優れた展望地であり、桜島眺望方向に国立公園を示す大きな看板が設置されている。高峠と桜島の間に風力発電機設置想定区域が広く予定されており、現在設置されている高さ約60mの風況観測塔も高峠山頂からは桜島の前に設置されている。高さ150mの風力発電機が複数設置された場合、高峠からは桜島を遮る景観になる可能性が高いことから、特に高峠からのフォトモンタージュは詳細なものを作成して景観の影響を評価すべきである。

6)環境影響評価図書の公開方法

本方法書の閲覧は、環境影響評価法により定められているとはいえ、縦覧期間が 1.5ヶ月と短く、また、縦覧場所も限られている。インターネット上で閲覧はできるが、印刷やダウンロードができない公開方法である。また縦覧期間終了後は閲覧できないため、環境影響評価図書の内容が、実際の計画地の状況と齟齬がないかの確認もできない。
地域住民や利害関係者等が常時、容易に閲覧し精査できることが、環境影響評価の信頼性を確保するものであり、地域との合意形成を図るうえでも不可欠である。そのため、縦覧期間終了後も地域の図書館などで、図書を常時閲覧可能にし、また、随時インターネットでの閲覧とダウンロード、印刷を可能にすべきである。

以上

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