島根県で計画されている(仮称)新浜田ウィンドファーム発電事業の環境影響評価準備書に対して意見書を提出しました
日本自然保護協会(NACS-J)は、島根県の浜田市と益田市で計画されている(仮称)新浜田ウィンドファーム発電事業について、事業計画の一部を取りやめ、および、調査に重大な誤りがあることから環境影響評価準備書の作成をやり直すことを求めて、株式会社グリーンパワーインベストメントに意見書を提出しました。
(仮称)新浜田ウィンドファーム発電事業 環境影響評価準備書に関する意見書(PDF/1.0MB)
2023年2月2日
株式会社グリーンパワーインベストメント 御中
(仮称)新浜田ウィンドファーム発電事業
環境影響評価準備書に関する意見書
〒104-0033 東京都中央区新川1-16-10 ミトヨビル2F
公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 亀山 章
日本自然保護協会は、自然環境と生物多様性の保全の観点から、島根県浜田市と益田市に計画されている(仮称)新浜田ウィンドファーム発電事業(事業者:株式会社グリーンパワーインベストメント、約56,000kW、基数:14基)の環境影響評価準備書に関して意見を述べる。
本事業は下記の懸念があり、生物多様性の喪失などの自然環境面での多大な影響が予測されることから、事業計画の一部を取りやめ、調査に重大な誤りがあることから準備書の作成をやり直すべきである。
1.保護林への影響が多大である
本準備書に記載はないが、本事業で設置が計画されている風力発電機14基のうち4基は、林野庁近畿中国森林管理局が設置した保護林に近接している場所に計画されている。7号機と8号機は十文字山ブナ・ミズナラ希少個体群保護林に(準備書P.29)、9号機は十文字山ブナ・ミズナラ希少個体群保護林と十文字山スギ・イヌブナ・ミズナラ遺伝資源希少個体群保護林に(準備書P.30)、10号機は十文字山スギ・イヌブナ・ミズナラ遺伝資源希少個体群保護林に(準備書P.30)それぞれ近接している。特に9号機と10号機は保護林から20mの位置に風力発電機が設置され、保護林の境界部まで整地のための伐採および切盛土が計画されている。さらに、これら4基の風力発電機設置のための搬入路は保護林に接する場所で計画されている。
保護林制度は、特に希少価値が高く特徴的な森林群落を恒久的に保存し、その生態や推移を観察して学術研究や森林施業の参考とする目的の林野庁の制度である。十文字山ブナ植物群落保護林の保護及び管理の方針は、「外接森林の伐採に当たっては、保護林の外縁部に保護樹帯を設ける。」としており、同保護林の林縁部を伐採し切土および盛土を行う当計画は、保護林機能の喪失につながる。
このように、本事業は生物多様性保全上重要な保護林への影響が多大であることから14基の風力発電機のうち7号機、8号機、9号機および10号機の4基の風力発電機設置は実施すべきではない。
地図データ(Google©2023)にNACS-Jが保護林の範囲を作図
2.植生の状況把握に重大な誤りがある
上述のように、7号機、8号機、9号機および10号機の北側は林野庁の保護林に指定されている。本準備書では空中写真判読(準備書P.155)および現地調査の結果(準備書P.1607)、保護林内の植生調査地点V01の周辺は植生自然度9のスギ-ブナ群落、V02の周辺は植生自然度8のブナ-ミズナラ群落としている(準備書P.1600)。しかし、これら群落はわずかで、保護林に指定されている斜面のほとんどは、胸高直径20cm~30cmからなる若い二次林が広がっており、植生自然度は7であるとしている(準備書P.1610)。
保護林は林野庁により厳正に保護されているだけでなく、定期的なモニタリング調査が実施されている。平成20年度近畿中国森林管理局保護林モニタリング調査十文字山ブナ植物群落保護林調査報告書によると、当保護林全域は、高木層はブナ、ミズナラが林冠を形成しており、亜高木層はクリやミズナラ等が生育し、低木層~草本層にはチマキザサが密生していることが報告されている。また、平成28年には保護林の大幅な拡張がおこなわれている。
さらには、十文字山ブナ・ミズナラ希少個体群保護林および十文字山スギ・イヌブナ・ミズナラ遺伝資源希少個体群保護林の範囲は環境省の1/25,000植生図ではブナ-ミズナラ群落とされ、植生自然度は8となっている。当会の調査でも、現地は胸高直径60cm、樹高20mほどの100年生のブナやミズナラが林冠を形成する森林であることを確認している。このようなことからも当保護林全域は植生自然度8であることは自明である。
このように対象事業区域内の森林群落の把握に大きな誤りがあるにもかかわらず、本準備書の予測結果では自然度8、9、10の自然度が高い植生の造成を回避していると断言している(準備書P.1675)。さらにはこれら植生データは、動植物や生態系の評価の際に根幹を為すデータとして利用している。本準備書は風力発電機設置予定地周辺の森林群落を正しく評価出来ておらず、そのため動植物への影響評価が不十分であり、本準備書をもって本事業による環境への影響が少ないと結論づけることは不可能である。このようなことから、空中写真判読および現地調査による植生の調査をやり直し、動植物への影響を再度行い、準備書の作成をやり直すべきである。
地図データ(Google©2023)にNACS-Jが環境省植生図を基に作図
地図データ(Google©2023)にNACS-Jが準備書植生図を基に作図
3.絶滅のおそれのあるサンショウウオ類の生息が確認されている
改変区域内および対象事業区域内で環境省のレッドリストⅠB類に指定されているイワミサンショウウオの生息が確認されている(準備書P.971)。また、対象事業区域内で環境省のレッドリストⅡ類に指定されているチュウゴクブチサンショウウオが確認されている(準備書P.971)。サンショウウオは移動能力が低く、またイワミサンショウウオやチュウゴクブチサンショウウオは分布地が限られている。このようなことから、希少サンショウウオの生息している場所での事業はおこなうべきではない。
以上