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鹿児島県「大隅半島緑の回廊」で計画されている大規模風力発電事業に対し事業中止を求める意見書を提出しました

2023.01.12
要望・声明

日本自然保護協会(NACS-J)は、鹿児島県肝属郡肝付町船間地区、錦江町大原地区の「大隅半島緑の回廊」で計画されている(仮称)六郎館岳風力発電事業について、自然環境と生物多様性の保全の観点から、事業者のジャパン・リニューアブル・エナジー株式会社に意見を提出しました。

(仮称)六郎館岳風力発電事業計画段階環境配慮書に関する意見書(PDF/683KB)

2023年1月12日

ジャパン・リニューアブル・エナジー株式会社 御中

(仮称)六郎館岳風力発電事業計画段階環境配慮書に関する意見書

〒104-0033 東京都中央区新川1-16-10 ミトヨビル2F
公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 亀山 章

日本自然保護協会は、自然環境と生物多様性の保全の観点から、鹿児島県肝属郡肝付町船間地区、錦江町大原地区で計画されている(仮称)六郎館岳風力発電事業(事業者:ジャパン・リニューアブル・エナジー株式会社、約51,600 kW、基数:12基)の計画段階環境配慮書に関して意見を述べる。

本事業は下記の懸念があり、生物多様性の喪失などの自然環境面での多大な影響が予測されることから、事業を断念すべきである。

1.緑の回廊の連続性が喪失する

本配慮書には記載がないが、本事業の事業実施想定区域のうち、風車の設置が想定される尾根部は、国有林の「大隅半島緑の回廊」に指定されている。緑の回廊は、森林の生物多様性の保全を目的として、森林生態系保護地域などの保護林をネットワークとしてつなぎ、野生生物の移動経路、生育・生息地の拡大と相互交流を促す連続性を確保する制度である。この制度は日本自然保護協会などが林野庁に働きかけをして誕生したものである。

林野庁が2021年3月に通知した「緑の回廊の区域への再生可能エネルギー施設の設置等に係る手続について」では、「緑の回廊の連続性を維持すること」が必須条件となっているが、本計画は緑の回廊を分断する位置に計画されている。そのため、本事業が実施された場合、事業実施想定区域の範囲にとどまらず、「大隅半島緑の回廊」の機能である森林の連続性が喪失されることになる。

本事業は、緑の回廊での事業実施を前提としており、生物多様性への影響が多大であることから事業自体を実施すべきではない。

2.生物多様性上重要な照葉樹林が喪失する

事業実施想定区域は、人工林や二次林が多いものの、風力発電機設置想定区域の六郎館岳山頂付近にはイスノキ―ウラジロガシ群集などの照葉樹自然林が分布している。かつて、照葉樹林は西日本に広範囲に分布していたが、スギやヒノキの植林地の拡大などにより、残存エリアは狭くなっており、原生的な照葉樹の自然林は国土の約1.6 %と少なくなっている(環境庁 1996)。その中にあって鹿児島県や宮崎県では、照葉樹の自然林が他地域と比較して高い残存率を示している。特に鹿児島県の大隅半島は他地域の照葉樹林と比較しても構成種数が最も多く(約400種)、照葉樹林のホットスポットともいえる地域である(中尾ら 2014)。これは胸高直径90 cm以上の巨木が集中しておりニホンジカの食害の影響が少なく、典型的な照葉樹林の林床植生が見られるためである(前迫ら 2020)。

日本自然保護協会は、これまで宮崎県の綾の照葉樹林プロジェクト(2005年~)や鹿児島の大隅照葉樹林復元プロジェクト(2011~2013年)に取り組んでおり、屋久島低地照葉樹林の保全への意見書提出(2020)などを通して照葉樹林の保全活動を進めてきた。貴重な照葉樹林を保全するために、六郎館岳周辺の本事業は断念すべきである。

3.猛禽類の生息への影響が懸念される

事業実施想定区域では、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」(種の保存法)において国内希少野生動植物種に指定されているクマタカの生息が確認されているだけでなく、想定区域及びその周辺は、サシバ等の主要な渡り経路となっている。環境省作成の陸域版センシティビティマップにおける注意喚起メッシュ図では、「注意喚起レベルC」のメッシュとして示されており、これらの希少猛禽類の風力発電設備への衝突事故や移動経路の阻害等による重大な影響が懸念されるため、本事業は断念すべきである。

4.周辺地域の土砂災害発生リスクが増大することが懸念される

事業実施想定区域の大半が水源かん養保安林に指定されているだけでなく、一部は土砂流出防備保安林、さらには崩壊土砂流出危険地区に指定されている。このような場所で大規模な土地形状の変更や森林の皆伐を行うことは、土砂災害の発生が懸念される。自然災害のリスクが大きいことからも、本事業は断念すべきである。


引用文献

  • 環境庁 (1996) 第4回自然環境基礎調査植生調査報告書(全国版). 環境庁自然保護局.
  • 北原一平・河村和夫・佐口治(1994)鹿児島8月6日災害における土砂災害調査報告.地すべり:31,56-63.
  • 前迫ゆり・幸田良介・比嘉基紀・松村俊和・津田 智・西脇亜也・川西基博・吉川正人・若松伸彦・冨士田裕子・井田秀行・永松大(2020) シカの影響に関する植生モニタリング調査と地域の生物多様性保全研究 ―シカと植生のアンケート調査(2018~2019)報告― ―地域の植生と生物多様性保全研究グループ―.自然保護助成基金助成成果報告書:29, 14-26.
  • 中尾勝洋・津山幾太郎・堀川真弘(2014) 九州地方における植物種のホットスポットはどこか?-ニッチベース分布予測モデルによる全種と低頻度種の比較.環境情報科学論文集:28, 31-36.

 以上

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