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米軍普天間飛行場代替施設建設事業におけるサンゴ類の特別採捕許可についての要望書を提出しました

2022.08.08
要望・声明
公益財団法人 日本自然保護協会(NACS-J)は、米軍普天間飛行場代替施設建設事業におけるサンゴ類の特別採捕許可に関して、防衛省と沖縄県知事に要望書を提出しました。NACS-Jが実施した現地調査により、これまで沖縄防衛局が実施してきたサンゴ移植には、科学的見地から問題点があることが明らかとなりました。実施されてきたサンゴ移植の妥当性について科学的な検証を行う必要があるため、これまでに移植された41,857群体のサンゴすべての写真の公表を求めるとともに、移植方法の再検討の実施を求めました。

防衛省宛

米軍普天間飛行場代替施設建設事業におけるサンゴ類の特別採捕許可についての要望(PDF/264KB)

沖縄県宛

米軍普天間飛行場代替施設建設事業におけるサンゴ類の特別採捕許可についての要望(PDF/1.3MB)


【沖縄県宛】

2022年8月8日

沖縄県知事 玉城 デニー 様

公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 亀山 章

米軍普天間飛行場代替施設建設事業におけるサンゴ類の特別採捕許可についての要望

7月22日、沖縄防衛局は沖縄県に、米軍普天間飛行場代替施設建設事業に伴い大浦湾側に生息する小型サンゴ類や大型サンゴ類など約84,000群体に対する特別採捕(移植)許可を求め、再度申請したと報じられています。

日本自然保護協会は、辺野古・大浦湾の生物多様性豊かな自然環境の保全を20年以上にわたり取り組んでいます。その立場から米軍普天間飛行場代替施設建設事業の実施海域において行われているサンゴ移植について、以下の理由から見直しを要望いたします。

2021年7月に同海域でのサンゴ移植が開始されて以来、当会はヘリ基地反対協議会と協力して数回にわたり潜水調査を実施し、移植されたサンゴの調査を実施しました。移植された41,857群体のすべてを調査したのではないものの、調査した限りにおいて移植に成功している群体がある一方で、多くの群体は死滅した部分があることが確認されました。死滅の度合いは群体により異なりますが、50%以上の部分が死滅している群体も多く存在しました。また移植時に使われた目印のみが残り、移植された後に群体ごと失われと示唆される痕跡も確認しました。さらに、移植されたサンゴ群体同士や移植されたサンゴと元々その海域に生息していたサンゴ群体の距離が近すぎるため、将来的にサンゴ群体同士が競合する可能性が高い場面も複数個所において確認しました。加えて、夏場にはホンダワラ類が繁茂してサンゴに日光が届きにくい場所、つまり生息環境として不適切な場所へ移植されたサンゴも多数存在しました。
以上のように当会の調査では、沖縄防衛局による移植には多くの問題点があることが明らかになっています。

環境監視等委員会では移植元と移植先の類似性については議論されているものの、新たなサンゴを移植することにより移植先にもともと生息しているサンゴ類に与える影響についてはまったく考慮されていません。第38回環境監視等委員会の資料には「もともと生息していたサンゴ類で1種類の減少を確認しているが、移植したサンゴ類では減少は確認していない」「群体数は移植直後と比較して、移植したサンゴ類で1%未満、元々生息していたサンゴ類で2%強の減少を確認している」という記述がありますが、サンゴを移植したことと、移植作業により環境がかく乱された可能性があります。また同委員会の総評として「全体として元々生息していたサンゴ類との比較においても大きな違いは見られないことから移植したサンゴ類の経過は順調であると考えられる」とありますが、「移植先にもともといたサンゴ類」と「移植したサンゴ類」を比較することで移植の成否を判断することは科学的ではありません。移植したサンゴ類の状況は、移植元の群体と比較すべきです。今回の場合は、移植したサンゴ群体は移植時には100%健全な状態であったため、移植先においてもその生残率を維持すべきです。
以上のことから、同事業に伴い実施されたサンゴ移植が成功しているとは到底考えられません。

加えて沖縄防衛局は移植した群体の10%程度しかモニタリングを行っていません。私たちが調査を行った場所が、沖縄防衛局がモニタリングを行っている場所なのか、否かが不明であるものの、新たな移植を開始する前に、これまでに移植したサンゴ類のうちモニタリングを行っていない場所の現状についても把握する必要があります。

新たに申請された約8万4千群体群体についても、現在の方法で移植するのであれば、生残率が低過ぎて、環境保全措置として意味をなしません。

以上のことから、沖縄県には、サンゴの特別採捕許可を審査する立場として以下のことを要望いたします。

  1. これまでに移植された41,857群体のサンゴのすべての写真の公表を沖縄防衛局に求めること
  2. これまでに移植された41,857群体のサンゴのすべての写真を精査し、これまでの移植方法で良いのかどうか検討すること
  3. 沖縄県が移植の実態を把握する目的で現場の潜水調査を行い、検証すること

今後、地球温暖化により1.5℃の気温上昇が行った場合、地球上のサンゴ礁の70~90%が失われると予測されています(IPCC第6次評価報告書)。現在残っているサンゴ礁はいずれも沖縄県にとって大事な財産です。事業実施にともなう環境破壊は最小限にとどめるよう努力していただきたくようお願いいたします。

以上

辺野古シュワブ南のサンゴの写真▲写真1:2021年11月5日撮影。辺野古シュワブ南。ものさしの右側の群体は死滅した部分が多く、左側の群体も一部死滅している。(キクメイシ類)

辺野古シュワブ南のサンゴの写真▲写真2:2021年11月5日撮影。大浦湾。ものさしをはさんだ両側にある群体が移植されたもの。この時点では移植はうまく行っていると思われる(キクメイシ類)

大浦湾のササンゴの写真▲写真3:2022年5月25日撮影。 辺野古シュワブ南。移植されたサンゴの大部分が死滅している(キクメイシ類)

辺野古シュワブ南のサンゴの写真▲写真4:2022年5月25日撮影。辺野古シュワブ南。移植されたサンゴは生きているものの、周辺に海藻が付着している(キクメイシ類)

辺野古シュワブ南のサンゴの写真▲写真5:2022年5月25日撮影。辺野古シュワブ南。サンゴが部分的に死滅しており海藻が付着している

辺野古シュワブ南のサンゴの写真▲写真6:2022年5月25日撮影。辺野古シュワブ南。サンゴが部分的に死滅しており海藻が付着している(キクメイシ類)

辺野古シュワブ南のサンゴの写真▲写真7:2022年5月25日撮影。辺野古シュワブ南。移植されたサンゴ(キクメイシ類)は現在は生きているものの、周辺部分に海藻が多く繁茂しており、サンゴ類の生息に適さない環境であることが伺える。

大浦湾のササンゴの写真▲写真8:2022年5月25日撮影。大浦湾。移植されたサンゴ類の周辺環境。海藻が多く繁茂しており、サンゴ類の生息に適さない環境であることが伺える。

辺野古シュワブ南のサンゴの写真▲写真9:2022年5月25日撮影。辺野古シュワブ南。移植されたサンゴ類の周辺環境。海藻が多く繁茂しており、サンゴ類の生息に適さない環境であることが伺える。

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