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「(仮称)会津大沼風力発電事業」の計画段階環境配慮書に関する意見書を提出いたしました

2022.08.01
要望・声明

日本自然保護協会(NACS-J)は、福島県昭和村などで計画されている(仮称)会津大沼風力発電事業について、環境配慮書段階で以下のような点で、自然環境および防災面の影響が大きいと予測されるため中止すべきとして事業者の日立造船株式会社に意見を出しました。

  1. 事業実施想定区域のほぼ全域が、「会津山地緑の回廊」に指定されており、本事業の実施は緑の回廊の分断を引き起こし、緑の回廊の機能全体を喪失させる。
  2. 国内希少野生動植物種に指定されているイヌワシとクマタカ、渡り鳥のノスリやハチクマなどの鳥類が、風車によるバードストライクの危険に晒される恐れがある。
  3. ブナ林など自然度が高い森林のほぼ全域が水源かん養保安林に指定されており、一部は土砂災害防止のために土砂流出防備保安林に指定されている。風車建設のための保安林を解除し、伐採、土地改変を行うことは、自然環境保全および防災上で大きな問題がある。

(仮称)会津大沼風力発電事業環境影響配慮書に関する意見書(PDF/750KB)


2022年8月1日

日立造船株式会社 御中

(仮称)会津大沼風力発電事業
計画段階環境配慮書に関する意見書

〒104-0033 東京都中央区新川1-16-10 ミトヨビル2F
公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 亀山 章

1.緑の回廊の連続性の喪失

本事業の事業実施想定区域のほぼ全域が、国有林の「会津山地緑の回廊」に指定されている。緑の回廊は、森林の生物多様性の保全を目的として、森林生態系保護地域などの保護林をつなぐものである。緑の回廊の目的は、野生生物の移動経路、生育・生息地の拡大と相互交流を促す連続性を確保することであり、日本自然保護協会などが林野庁に働きかけをして誕生した制度である。
本事業の実施想定区域は「会津山地緑の回廊」を分断して想定されており、本事業実施による影響は、事業実施想定区域の範囲にとどまらず、「会津山地緑の回廊」の機能である森林の連続性を失わせることになる。
本書p.197の専門家等へのヒアリング意見においても「緑の回廊も設置の経緯や趣旨を考えると、基本的に避けるべきである」とある。
本事業は、緑の回廊での事業実施を前提としており、生物多様性への影響が多大であることから事業自体を実施すべきではない。
日本自然保護協会は、自然環境と生物多様性の保全の観点から、福島県大沼郡昭和村、会津美里町、南会津郡下郷村および南会津町で計画されている(仮称)会津大沼風力発電事業(事業者:日立造船株式会社、最大183,000kW、基数:最大40基)の計画段階配慮書に関して意見を述べる。
本事業は下記の懸念があり、生物多様性の喪失などの自然環境面での多大な影響が予測されることから、事業計画を中止すべきである。

2.鳥類のバードストライクへの懸念

事業実施想定範囲では、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」(種の保存法)において国内希少野生動植物種に指定されているイヌワシとクマタカの生息が確認されている。また当該地域はノスリやハチクマなどの渡り鳥の渡りの経路となっている。さらに、環境省作成の陸域版センシティビティマップにおける注意喚起メッシュ図では、風車の建設には注意を要するエリア(A3)に全域が含まれている。40基もの風車が建設されれば、このような鳥類がバードストライクの危険に晒されることになるため、同地域で事業を計画すべきではない

3.事業実施のための森林の伐採による自然環境および防災上の懸念

事業実施想定区域にはブナクラス域の代償植生であるオオバクロモジ-ミズナラ群集が広く分布し、風力発電機の設置想定範囲の尾根部を中心に植生自然度9のチシマザサ-ブナ群団が分布しており、事業実施想定区域のほぼ全域が水源かん養保安林に指定されている。風力発電機設置のためには保安林を解除して、大規模な森林伐採を行う必要がある。
また、風力発電機などの搬入路として6つのルートが想定されているが、これらのルート付近には風力発電機を搬入するのに十分な既設の林道は存在せず、風力発電機の搬入などのためには、大規模な土地の改変および立木の伐採を行う必要がある。これらのルートのうち、事業実施想定区域内の広平沢と三引沢は、昭和50年七夕災害の際に、山腹崩壊などによって発生した土砂が谷底部に堆積している。特に、三引沢の周辺は土砂流出防備保安林に指定されており、保安林を解除し、大規模な工事を行うことは、下流部への土石流などの土砂災害の危険性を高めることになる。
このような自然度が高く、防災面でも重要な森林群落を伐採し土地改変を行う本事業は、自然環境保全および防災上から、実施すべきではない。

以上


ご参考:

駒止湿原
▲駒止湿原(写真提供:小山抄子(おぜしかプロジェクト/NACS-J会員))

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