皇居外苑におけるアメリカザリガニ防除事業の実施
日本自然保護協会(以下、NACS-J)は、環境省が作成をすすめているアメリカザリガニ対策の手引きの課題整理のため行った、アメリカザリガニ防除事業(以下、防除事業)に協力し、皇居外苑の牛ヶ淵と北の丸池において捕獲調査を実施しました。
昨年2021年、アメリカザリガニやアカミミガメが外来生物法の規制対象になるというニュースが話題となりました。これまでもNACS-JなどのNGOや研究者からの提案・要望(https://www.nacsj.or.jp/archive/2021/09/12377/)もあり、ついに2022年1月には外来生物法改正に向けた中央環境審議会の答申が提出され、今国会(第208回通常国会)で改正法案が審議されます。特定外来生物の新たな規制の枠組みにより、飼育は認められるものの、輸入や販売、野外への放出等が禁止されることが検討されています。
アメリカザリガニの原産地はアメリカ南東部からメキシコ北東部のミシシッピ川流域です。日本国内へは約100年前に持ち込まれました。人為的要因・自然要因から、今では日本全国へと分布を拡大し、各地で水生植物や昆虫、魚類など国内の生態系へ大きな影響を与えています。こういった点から環境省は2020(令和2)年度に「アメリカザリガニ防除の手引き」素案を作成しました。今回の防除事業はこの作成にあたって必要な課題整理のため行われた調査となります。
対象地域は皇居外苑の牛ヶ淵と北の丸池です。これらの池もアメリカザリガニによる生態系への影響が考えられています。これまでも駆除が進められてきましたが、いまだ多数の生息が確認されており、改善が望ましい状況にあります。今回の防除事業では低密度管理、希少種保全、普及啓発の可能性を判断するための情報収集を行いました。
調査は2021年9月15日~11月10日の間で行われました。期間中に5回調査を行い、アメリカザリガニの捕獲及びその他の生きもの調べを実施しました。合計30個の罠(アナゴカゴ・連続捕獲罠)を設置し、10~14日の間隔で見回り調査を行います。牛ヶ淵は足が水底に届かないところにも罠を設置しているのでボートでの移動、作業も含まれます。
▲ボート上での作業風景
調査期間中のアメリカザリガニの捕獲数は牛ヶ淵で合計119匹、北の丸池は合計305匹でした。罠の設置場所の特徴と捕獲数の関係をみてみると、浅瀬や身を隠せる場所に設置している罠は多く捕獲され、一方ボート上から設置するような深場の罠は捕獲数が少ない傾向にあります。北の丸池の方が多く捕獲できた理由は浅瀬や隠れ家が多くあるからと想像できます。なお、捕獲した個体は適切に処理をしました。
▲1つの罠で、30匹捕獲できることもありました
▲調査期間に2匹の抱卵個体を捕獲しました。アメリカザリガニは一度に200個~1,000個の卵を産むといわれています
牛ヶ淵、北の丸池ではアメリカザリガニ以外に、スジエビ、テナガエビ、モクズガニ、モツゴ、ウキゴリなどの在来種も多く罠に入り、70cmを超えるナマズも確認しました。一方で、ペット由来のカメの交雑種(ミナミイシガメ×クサガメ)や特定外来生物ブルーギルの幼魚も捕獲しました。
▲モツゴ
▲テナガエビ
▲ナマズ
北の丸池は一部に抽水植物などの生育地があり、トンボ類やゲンゴロウ類の水生昆虫にとっても重要な生息環境です。こういった多様な在来種の生きものが継続して生息できるよう、アメリカザリガニの防除は必要だと感じます。
今回の調査を進めていくなかで、皇居外苑の訪問者から声をかけられることがありました。特に北の丸池は調査地点が公園利用者との距離が近いため、多くの方の興味を引いたように感じます。今回は捕獲調査の意義や外来種問題の説明を解説しました。アメリカザリガニの問題について知ってもらうきっかけにもなりました。
現在アメリカザリガニは日本全国に生息しています。そのため各地でアメリカザリガニの防除活動が行われています。今後の皇居外苑はもちろん、身近な地域での活動にもぜひ目を向けてみてください。
【自然のちから推進部 原田和樹、保護部 大野正人】
ご参考
●環境省のアメリカザリガニに関するwebサイト
https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/attention/amezari.html
イラストレーター:ウラケンさんによる普及啓発ツールも掲載されています。
●NACS-Jの「外来生物対策のあり方検討会で法改正に向けた課題整理と提言」
https://www.nacsj.or.jp/archive/2021/09/12377/