「尾瀬国立公園管理運営計画書(案)」に関する意見 を出しました。
日本自然保護協会は、1949年の前身の尾瀬保存期成同盟発足以来、尾瀬の自然保護活動に関わってきました。この度、環境省の「尾瀬国立公園管理運営計画書(案)」に関する意見募集(パブリックコメント)に対して意見を提出しました。
「尾瀬国立公園 管理運営計画書(案)」に関する意見 (パブリックコメント)
2021年11月22日
「尾瀬国立公園管理運営計画書(案)」に関する意見(パブリックコメント)
公益財団法人 日本自然保護協会
日本自然保護協会は、1949年、前身の尾瀬保存期成同盟発足以来、70 年以上にわたり尾瀬の自然保護活動に関わってきました。
「尾瀬国立公園管理運営計画書(案)」は、2018年の「新・尾瀬ビジョン」を推進すべく策定されたものです。本計画書の内容は「新・尾瀬ビジョン」に示された「みんなに愛され続ける尾瀬」の実現を目指すものであり、歓迎すべきものです。しかし、一方で、尾瀬の自然としての価値を損なう恐れがある記述や 管理計画が不明瞭な箇所があるため、以下の通り意見を申し述べます 。
該当箇所:赤法華鳩待峠線の利用方針の沼山峠展望施設について(P.59)
意見:取扱方針に「沼山峠展望施設においては、視点と視対象との関係性を考慮した上で、通景の確保のため、展望ベンチ等の改修や必要最小限の範囲内で抜き伐り等を検討する。」とあり、展望確保のために樹木の伐採を検討していることが示されています。以下に挙げる理由 のように各施策との整合性がなく保護と利用を考えるうえでも、この方針に示されている展望確保を目的とした樹木の伐採を行うべきではありません。
理由:
1.令和3年4月発行の尾瀬国立公園公園計画書の利用施設計画には、「沼山峠展望施設」という施設名称は使用されておらず、あくまでも通称であることから、管理運営計画書で使用すべきではありません。また、当該地点は「園地」、「展望施設」または「休憩所」として記載もされていません。そのような場所での展望確保を目的とした安易な伐採は行うべきではありません。
2.当該地点は尾瀬沼エリアの特別保護地区内です。P.26の特別保護地区尾瀬沼地域の概要には、「オオシラビソを主体とした森林生態系」が保全対象の一つとして挙げられており、その保全方針として「保全対象を厳正に保護し、現在の自然景観を維持します。」と明記されています。同地点における展望確保を目的とした伐採はこの管理方針に反するものです。
3.当該地点は奥会津森林生態系保護地域の保存地区(コアエリア)です。森林生態系保護地域は原生的な天然林を保存することにより、森林生態系からなる自然環境の維持、動植物の保護、遺伝資源の保存、森林施業・管理技術の発展、学術研究等に資することが目的であり、観光を意識した伐採は森林生態系保護地域の趣旨に反するものです。
該当箇所:会津駒ケ岳周辺の利用方針について(P.61 および P.58)
意見:会津駒ヶ岳の登山道の整備および避難小屋の取扱いの執行者を保留扱いにせず、保護と利用の観点から環境省が責任をもって早急に整備を行うべきです。
理由:会津駒ケ岳は中腹には大径木のブナ林が広範囲にみられ、稜線部に湿原や雪田草原が点在し、深田久弥の日本百名山の一つであることから登山者に人気の山です。キリンテ富士見線は、取扱方針で「会津駒ヶ岳への入山口として、また、大津岐峠から大杉岳を経て御池、燧ヶ岳、尾瀬ヶ原、至仏山へ至るロングトレイルコースとしての当該路線の魅力の発信を積極的に行い、利用の促進に努め山へ至るロングトレイルコースとしての当該路線の魅力の発信を積極的に行い、利用の促進に努める。」とあるように、重要な登山道でする。本登山道は複数の湿原や雪田草原を横断しており木道が整備されていますが、木道は老朽化が進行しており、踏圧による周囲の植生への影響が懸念されます。「今後、環境省が登山道を整備する。」という取扱方針が示されている一方で、本計画書では執行者は空欄となっています。執行者が環境省であることを明記し、木道の取り換えなどの登山道整備を早急に行うことを求めます。
会津駒ケ岳山頂近くの「駒の小屋」は予約が取れないほどの人気の山小屋ですが、公園計画上、駒の小屋は避難小屋となっており、また執行者は保留となっています。副次的にせよ、山小屋は保護と利用の観点から登山者への指導や教育をはじめ大切な役割を担う施設です。同山小屋は特別保護地区内に立地しており、このような状況は、実情に合っておらず、取扱方針にあるように関係者間で今後の管理体制について早急に検討を行い、避難小屋から宿舎への変更などの見直しや執行者の確定を行うべきです。
該当箇所:笠ヶ岳登山道の利用方針について(P.60)
意見:笠ヶ岳登山道の荒廃は深刻な状況にあるため、具体的な取扱方針などを示すべきです。
理由:至仏山のオヤマ沢田代・歩道分岐点 から笠ヶ岳に至る「笠ヶ岳登山道」は蛇紋岩という地質の影響もあり踏圧やシカの食害等によって荒廃が進んでおり、崩壊が発生するなど自然環境に大きな影響が出ています。取扱方針に「関係者で検討を行う。」と記述がありますが、同登山道の状況は深刻であり、具体的な方針を示すべきです。
該当箇所:管理運営方針の自然環境の記述について(P.15)
意見:管理運営方針の中での「自然環境」の記述部分で 「ブナの自然林やオオシラビソ等の亜高山帯針葉樹林が広がり、それらの林床には貴重な高山植物が生育しており、」とありますが、高山植物の認識に誤りがあり修文をすべきです。
理由:高山植物は一般的に森林限界以上に生育する植物を指すものであり、ブナやオオシラビソの林床に生育する植物に対して高山植物を使用することに違和感があります。
該当箇所:全体
意見:本計画を作成するにあたり、どのような会議、WG、聞き取り等を行い、どのようなテーマについて議論を行ったのかを明確にして示すべきです。特に計画策定に関係者を代表して関わった 協議会の構成員については、氏名、所属も明記すべきです。
理由:尾瀬国立公園では、他の国立公園に先駆けて、総合型協議会を設置・運営しており、本計画策定においてもその役割や構成を明確に記しておく必要があります。
以上