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嘉徳海岸浸食対策事業の一時中止と管理体制の再構築の要望

2021.09.22
要望・声明

奄美大島の嘉徳海岸とそこに流れ込む自然度の高い嘉徳川は生物と地形の多様性豊かであることが知られています。この海岸に計画されている嘉徳海岸侵食対策事業が9月末に着工される予定のため、工事の一時中止と管理体制の再構築を求める要望書を鹿児島県知事、瀬戸内町長、環境大臣に提出しました。

【要望書】嘉徳海岸浸食対策事業の一時中止と管理体制の再構築の要望


2021年9月22日

鹿児島県知事 塩田 康一  様
瀬戸内町長  鎌田 愛人  様
環境大臣   小泉 進次郎 様

公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 亀山 章
海の生き物を守る会
代表 安部 真理子
NPO法人 ラムサールネットワーク日本
代表 金井 裕 永井 光弘

 

嘉徳海岸侵食対策事業の一時中止と管理体制の再構築の要望

 

全国で自然度の高い河川や砂浜の生態系が失われつつあるなか、奄美大島の嘉徳には、海から陸、川から砂浜までがひとまとまりに残されています。しかし、海岸部では嘉徳海岸侵食対策事業が計画され、この9月末には着工することが予定されています。
この海岸には世界的に絶滅が危惧されているアカウミガメとアオウミガメが産卵し、2002年にはオサガメが産卵したことが記録されています。IUCN(国際自然保護連合)レッドリストで絶滅危惧IA類のオサガメの産卵記録は日本ではこの事例だけであり、世界の最北端の産卵場所として記録されたものです。
また、砂浜の打ち上げ調査により、60種以上の生物種が記録され、特に貝類は432種と多様性が高く、このうち絶滅が危惧されるレッドリスト記載種が33(環境省:27、鹿 児島県:13、共通:7)種報告されています(日本自然保護協会 2017、2018)。その後の甲殻類の調査によりヒメヒライソモドキなど,鹿児島県のレッドデータブック掲載種が8種確認されています(藤田、2018)。
さらに、嘉徳海岸に流れ込む嘉徳川は自然度が高く、環境省レッドリストの絶滅危惧IA類 (CR)であるリュウキュウアユが健全な個体群を維持しています。河口域では絶滅危惧種を含む汽水性貝類が生息しており、河床転石帯には、鹿児島県のレッドデータブックに掲載されているヒメヒライソモドキ、ケフサヒライソモドキ、カワスナガニも高密度で生息していることが確認されました(藤田、2018)。
これらの豊かな生物多様性は琉球列島には数少ない、サンゴ礁に縁どられない岩石由来の砂粒からなる非サンゴ礁性の砂浜と、そこに流れ込む自然度の高い嘉徳川の特異な地形に支えられています。このような非サンゴ礁性の砂浜のうち、人工物のない自然海岸は、嘉徳海岸のほかには今では西表島月ヶ浜にしか残されていない重要なものです。
今年7月の奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島世界自然遺産登録に際し、緩衝地帯(バッファーゾーン)が嘉徳川および嘉徳海岸まで拡大され、とりわけ嘉徳川は自然の水の流れを保つ貴重な河川であることが世界自然遺産の諮問機関であるIUCN(国際自然保護連合)により、高く評価されました。
世界遺産登録に関するIUCN評価書では、 現在計画されている嘉徳海岸侵食対策事業が計画以上に拡大されないことを確認したとあるものの、本事業の発端となった砂浜の侵食は現状では大幅に解消されてきています。護岸工事の必要性が低下していると考えられるいま、本事業は見直すべきであると考えます。

水や砂は川と海の間を動いており、多くの生物が川と海と砂浜を行き来しています。人工構造物の設置によりそのバランスが崩れると、汽水域の劣化や河床の低下などが起こり川の健全度が低下します(例:Tsoukala, V.K.,et al(2015)。
本事業の実施により、海と陸の連続性が壊されることが危惧されます。砂丘や河口域はそのもの自体が防災効果を持つものであり、防災・減災については、国際的には、護岸などの人工構造物ではなく生態系を基盤にした防災・減災(Eco-DRR:Ecosystem-based Solutions for Disaster Risk. Reduction)の考え方、つまり自然が持つ力を利用した方策が注目されています。砂浜は防護・環境・利用の観点で我々が社会生活を送る上で欠くことができない存在であり、波を減衰させ、高潮や津波等の災害 から人命・財産を守る役割があることが再認識されています(国土交通省、2019)。
海岸部は鹿児島県の管理のもとに事業が進められ、瀬戸内町が嘉徳川を管理するという現在取られている方法では、河口域と川から海まで一体の自然の持つ緩衝材としての機能を活かすことができません。鹿児島県と瀬戸内町が協力し、河口域から海岸部まで統合的な管理をしていくことが必要です。事業を一時中止して、鹿児島県と瀬戸内町が主体となり防災と生物多様性が両立できるEco-DRRの先進的な取り組みを行い、世界的に高く評価された嘉徳川と嘉徳海岸を大切にしていただくことを強く要望します。また、気候変動の影響が強くなることも考えられるので、新たな知見に基づき事業を進め、必要な場合には自然再生の技術を適用していくことも必要です。
入札や着工の日程などが集落の全ての住民に周知されていなかったなど、合意形成が十分ではなかったことが報じられています(奄美新聞 2021年8月23日)。世界遺産条約では市民の役割を重視しており、持続可能な自然資源の管理計画において計画立案から遂行、管理までを含めて、市民の参画こそが長期的な保全にとって重要であると考えられます。

日本自然保護協会は1990年代から海も山も含む形で琉球諸島の世界自然遺産の登録を要望してきました。今回の遺産登録に際し、海までは入らなかったものの当初の計画では島の中心部の陸地のみが対象でしたが、海岸部にまで緩衝地帯が拡大されたことは画期的です。以上のことから次のことを要望します。

  1. 嘉徳海岸侵食対策事業の工事を一時中止すること
  2. 住民との丁寧な合意形成を行うこと
  3. 国際的に高い評価を得た嘉徳川と嘉徳海岸を一体として管理できる体制を鹿児島県と瀬戸内町で構築すること

以上

 


参考:


奄美大島の世界遺産の森から砂浜までがひとまとまりに残されている嘉徳海岸(2017年12月撮影)。河川が運んできた砂による、琉球列島には数少ないサンゴ礁に縁どられない砂浜が広がっている。

嘉徳海岸におけるNACS-Jのこれまでの活動

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