川辺川に「流水型のダム」を求める表明に対して意見書を提出しました
11月19日に蒲島郁夫熊本県知事が表明した「球磨川流域の治水の方向性」において「流水型のダム」を国に求めていることに対して、日本自然保護協会は自然保護の観点から意見書を提出し、河川生態系に及ぼす可能性を指摘し、改めてその必要性を検討すべきと意見しました。
川辺川に「流域型のダム」を求める表明に対する意見書(PDF/600 KB)
2020年11月21日
熊本県知事
蒲島 郁夫 様
川辺川に「流水型のダム」を求める表明に対する意見書
公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 亀山 章
11月19日、蒲島郁夫熊本県知事は「球磨川流域の治水の方向性について」として、現行の貯留型「川辺川ダム計画」を完全に廃止したうえで、「緑の流域治水」の一つとして、「新たな流水型のダム」を国に求めることを表明されました。
公益財団法人日本自然保護協会は、河川生態系の重要性から球磨川流域の保全に地域の方々とかかわってきた経緯から、このたびの知事の表明につきまして意見を申し述べます。
社会や経済の基盤には自然環境があるという考えは世界的にも浸透し、生態系を活用した防災・減災(Eco-DRR)が注目されるなか、今回の表明で「命」と「環境」は二律背反するものではなく、「命と環境の両立」を位置づけたことは評価します。
しかしながら、今回の表明は、豪雨発生後数ヶ月間で洪水の検証と検討、意見を聴く場を設けて結論づけられたものであり、「球磨川豪雨検証委員会」は、洪水の流量とダムの治水効果の検証に終始し、豪雨時に球磨川本流の流れを妨げた可能性のある瀬戸石ダムの検証や、流域で多く発生した土石流、森林管理や治山対策などは十分に検討されていません。ダムの効果を検証するだけでは、本来の流域治水に向けた総合的な検証を行ったとは言えません。さらには、「球磨川流域治水協議会」においても、流水型ダムの選択肢は熊本県や国土交通省九州地方整備局から一切提示されておらず、議論の俎上に載っていません。それにもかかわらず知事が「流水型のダム」を突如表明したことに違和感があります。
類例の少ない流水型ダムは「清流」を守り自然環境と共生する選択肢として十分なものではありません。現行計画のダムの洪水調整容量を想定した場合、既存の流水型ダムとは比較にならない巨大なものになります。土砂の堆積により河川環境が変化し、アユをはじめとする遡上性魚類の移動阻害となるなど河川生態系に影響を及ぼす可能性があり、「川辺川の清流」は維持できなくなる懸念があります。既存の流水型ダムでの環境モニタリングの実績は十分ではないため、現時点で「流水型のダム」をもって「環境に極限まで配慮することができる」とは言い切れないのが現状です。
したがって、現行の「川辺川ダム計画」の廃止と合わせて、「流水型のダム」の環境影響を科学的に予測評価し流域住民が意見を述べることができるよう、法にもとづく環境アセスメントを、知事が国に求めたことは評価できますが、それ以前に「流水型のダム」の想定される規模のもとで、メリット、デメリット、環境影響、費用対効果などから「流水型のダム」建設の必要性の検討を県民含めて丁寧に行うよう要望いたします。
以上