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ダム建設を前提としない「流域治水」を求める意見書を提出しました

2020.10.02
要望・声明

令和2年7月の豪雨で多くの被害を受けた球磨川流域において、現在、復旧・復興の検討が行われていることを受けて、川辺川ダム建設に対する活動や荒瀬ダム撤去による河川環境再生の支援等をしてきた立場から、熊本県、国土交通省、環境省へ意見書を提出しました。

10月6日に第二回が開催される球磨川豪雨検証委員会では、川辺川ダム建設を選択肢として検討がされはじめています。それに対し、国土交通省が自ら「流域治水」に政策転換し推進しようとしていることを踏まえ、球磨川流域でダム建設を前提としない「流域治水」を具体化すること、民意を最大限に尊重することを求めました。

球磨川流域の復旧・復興と治水対策の検討についての意見書(PDF/978KB)


2020年10月2日

熊本県知事    蒲島 郁夫  様
国土交通大臣   赤羽 一嘉  様
国土交通省
九州地方整備局長 村山 一弥  様
環境大臣     小泉 進次郎 様

公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 亀山 章

球磨川流域の復旧・復興と治水対策の検討についての意見書

令和2(2020)年7月3日から4日にかけて、熊本県球磨川流域は日本付近に停滞した前線の影響で線状降水帯が発生して記録的な豪雨に見舞われました。この大雨により、球磨川水系で氾濫が発生したほか、流域では土砂災害、低地の浸水等により、人的被害や物的被害が多く発生しました。

日本自然保護協会は、河川生態系保全の重要性から、全国各地のダムや河口堰の問題に取り組み、特に川辺川ダム建設計画に対しては、希少猛禽類のクマタカや尺アユ、水環境などの調査を専門家や市民とともに行い、その問題点を明らかにしてきました。また、荒瀬ダムの撤去による河川環境の再生と地域振興の現地活動を支援してきました。これらの活動を踏まえて、球磨川流域の復旧・復興と治水対策について、流域全体の生物多様性の保全と持続的な社会の発展の観点から、以下のように意見を申し上げます。

1.ダム建設を前提とせず流域治水を具体化する

国土交通省は、「気候変動を踏まえた水災害対策のあり方」(国土交通省社会資本整備審議会、令和2年7月9日)において、従来のダムに依存する治水から「あらゆる関係者が流域全体で対応する流域治水」への転換を答申し、公表しています。これは、過去の国土交通省(建設省)河川審議会の答申「21世紀の社会を展望した今後の河川整備の基本的方向について」(平成8年)、「流域での対応を含む効果的な治水の在り方について」(平成12年)でも流域治水に共通する治水の考え方が示されていたにも関わらず、具体的な政策には至らず、今回のような豪雨災害が発生しました。

また、環境大臣と防災大臣による共同メッセージ『気候危機時代の「気候変動×防災」戦略~「原形復旧」から「適応復興」へ~』が公表され、「土地利用のコントロールを含めた弾力的な対応により気候変動への適応を進めること」を謳っています(令和2年6月30日)。
これらの政策転換に加え、東日本大震災後に世界で提唱される「生態系を活用した防災・減災(Eco-DRR)」の考えを、球磨川流域の復旧・復興に取り入れることが重要です。

球磨川水系の川辺川ダム建設計画は、有識者や住民の意見を尊重し、熊本県知事が建設の反対を表明した経緯があります。その後、平成21(2009)年より国・県・流域市町村による「ダムに寄らない治水」の検討を続けてきましたが抜本的な対策はまとまらず今日に至りました。その反省もないまま、流域の市町村長で構成される「令和2年7月球磨川豪雨検証委員会」では、流域の総合的な被害検証を行うことなく、川辺川ダムがあった場合の被害軽減を予測値のもとに検証し、ダムを選択肢とした検討がされはじめています。一方で、河川工学の専門家は球磨川水系の水位や雨量、実測データを用いて推定流量を計算し、川辺川ダムがあっても被害軽減にはならなかったことを検証しています(大熊孝、今本博健)。ダム建設の費用は膨大であり、川の物質循環や生態系への影響が大きいばかりではなく、今回のような記録的な豪雨の際のダムの緊急放流は被害を増大させます。

前述のように、政府の災害に対する政策転換期だからこそ、前時代的なダム建設を前提とせずに、地域の持続的な発展につながるよう、省庁・県の部局の縦割りを廃し、流域全体で対応する流域治水をこの機会に徹底的に具体化すべきです。

1)水害防備林の評価と整備

昨年度に国土強靭化の名目で球磨川上流部や川辺川の水害防備林(河畔林)が河道の流下能力を阻害しているということで伐採されました(球磨川上流地区河道掘削伐採工事、国土交通省八代河川工事事務所)。そのため、今回の洪水で河道沿いにある水田に土砂が流入する被害が増大したといわれています。水害防備林は、洪水時に河道から溢れる水勢を弱め、堤内への土砂流入を少なくする効果が期待されます。このようなことから、従来の土地利用や河畔林の分布状況を踏まえながら河道沿いに水害防備林を積極的に取り入れるべきです。

2)遊水地の機能と土地利用のあり方の検討

球磨川や川辺川の河道沿いにある水田などの農地は地形的には氾濫原に存在しており、増水時に越流した水の遊水地となる可能性があります。農地を増水時の流量調整機能を持つ遊水地の候補地とする際には、農政部局や農業関係者と調整を行い、営農に対する補償の仕組みを検討すべきです。
また同時に、気候変動による災害の激甚化の観点から、洪水浸水想定区域や土砂災害警戒区域にある市街地や集落、公共施設などの被害状況と土地利用の変遷を検証したうえで、被災者や住民の声、多彩な学問領域の知見を取り入れ、長期的には安全な場所へ集約するなどの土地利用のあり方を流域全体で検討すべきです。

3)土石流の検証と流域の総合的な森林管理の検討

球磨川の本川および支川の多数の支谷では土石流が発生し、谷出口の集落や道路、鉄道に多量の土砂と流木による被害を生じさせました。土石流が発生した谷では、7月以降も降雨のたびに濁流と土砂の流下がみられ、二次災害の危険もあります。球磨川流域では、近年ニホンジカが増加しており、林床植生が衰退し急傾斜地の表層土流出が危惧されます。河川だけでなく集水域の森林管理や獣害対策を徹底して行わなければ、下流域の道路・鉄道などのライフラインや地域住民の生活の復旧は安全なものになりません。流域全体の土石流の発生状況と危険性を早急に点検し、総合的な森林管理と治山のあり方を早急に検討すべきです。

4)瀬戸石ダムの被害と撤去

球磨川の本川の渓谷狭窄部にある瀬戸石ダム(発電用ダム、管理者:電源開発株式会社)は7月4日未明に洪水量毎秒2,000㎥を超過し、朝には洪水吐ゲートを全開したことにより、下流部で急激な水位上昇が起こりました。また、上流部でも水位があがるバックウォーター現象が起きて、浸水被害を拡大しています。ダム湖の土砂堆積に対する管理不届きは今回の水害前より指摘されており、土砂撤去がされていないためにダム堆砂量は減少していません。このように、渓谷狭窄部の洪水流下を阻害し、住民の安全性を脅かし、平時も河川の物質循環を断絶している瀬戸石ダムは、今後、発電事業の再稼働は行わず撤去すべきです。

2.球磨川流域の民意を尊重する

現在、復旧・復興の推進体制として、熊本県に「復旧・復興本部会議」のもと、「くまもと復旧・復興有識者会議」(座長:五百旗頭真)、「球磨川豪雨検証委員会」(事務局:国土交通省九州地方整備局・熊本県)が設置されています。この検証や検討の結果に、流域住民や県民の意見を取り入れ、合意形成されることが最も重要です。特に川辺川ダム建設の必要性に関しては、過去に熊本県や国土交通省が主催し、「川辺川ダムを考える住民討論集会」(2001年~2009年計9回)で、住民参加のもとで議論されており、今回もその判断には民意を最大限に尊重すべきです。

以上

(引用・参考資料)

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