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「京都府亀岡市のアユモドキおよびその生息環境の保全に向けた提言書」を提出しました

2020.03.27
要望・声明

今年2020年2月にこけら落としが行われた京都サンガスタジアムは、当初、絶滅危惧種アユモドキの生息地に建設が計画されていました。

2015年にNACS-Jや多くの学会や団体が見直しを求め、2016年に京都府と亀岡市は候補地を変更。その後も専門家会議やNACS-Jら関係NGOとの意見交換などが続いています。

スタジアムは開業しましたが、旧建設予定地などで計画されていた保全対策はまだ十分でなく、アユモドキの絶滅の危機は解消されていません。そこでNACS-Jなど53団体は、保全を求める提言書を提出しました。

アユモドキの保全に向けた提言書 (PDF/55KB)
アユモドキ提言別添資料(PDF/558KB)

 


2020年3月26日

環境大臣 小泉 進次郎 殿
文化庁長官 宮田 亮平 殿
京都府知事 西脇 隆俊 殿
亀岡市市長 桂川 孝裕 殿

京都府亀岡市のアユモドキおよびその生息環境の保全に向けた提言書

平素より、アユモドキをはじめとする京都府下での生物多様性の保全にご尽力を頂き敬意を表します。

この度、「サンガスタジアム by KYOCERA」(以下、京都スタジアム)が完成しましたが、京都スタジアム建設問題は、マスコミ等でも取り上げられ社会問題となるなどアユモドキの保全と切り離せない関係にあります。

アユモドキは、国の天然記念物で環境省レッドリストの絶滅危惧ⅠA類の絶滅危惧種であり、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(以下、種の保存法)の国内希少野生動植物種に指定され、2015年4月には、文部科学省、農林水産省、国土交通省、環境省の4省でアユモドキ保護増殖事業計画が策定されています。亀岡周辺の水田地帯は近畿地方に唯一残るアユモドキの生息地で、湿性植物の多様性が高く、棚田の石垣等伝統的な里山景観があることから、ラムサールの潜在登録候補地に登録されています。さらに、2015年11月にはIUCN(国際自然保護連合)のレッドリストにおいて絶滅危惧種(CR)として記載され、本種の保全は国際的にも注目されています。(参照:提言別添資料

スタジアムの建設過程においては、京都府と亀岡市による建設場所の変更や各種対策によって、直接的、短期的な悪影響が大きく軽減されることになり、大いに評価し、感謝いたします。しかしながら、当地におけるアユモドキの危機的な状況は依然変わらず、旧建設予定地を中心とする保全エリアの整備と具体的な保全対策の推進が必要な状況にあります。特にこの保全エリアについては、基本構想がまとまった程度であり、また、隣接する生息地についても、今後も引き続き科学的な調査や評価等を行っていく必要があります。また、2030年の持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けて国際社会の努力が高まる中、SDGsの土台とも言われる生物圏の保全は、地域創生の核に位置付けられるべきです。

そこで、私たちは、これまでアユモドキの保全に携わってきた関係行政部局に対して 、地球上に唯一日本に残された、かけがえのないアユモドキと言う種の保全に向けて、下記の9点について提言します。この提言の実現に向けて、一層ご尽力いただきますよう、お願い致します。

【アユモドキ保全検討会(仮称)の設置】

  • 現在、本種の保全・個体群再生に関わる専門家で組織された「環境保全専門家会議」や「再生事業検討会議」などが設置されている。しかし、確実な保全を図るために、環境政策の担当者や環境経済学分野の専門家、価値評価の専門家等、さらに、スタジアム指定管理者なども加え、既存の組織を発展させたアユモドキ保全検討会(仮称)を設置すべきである。

【保全エリアの拡大と保全活動】

  • アユモドキを自然と共存する社会の象徴として位置づけ、当該地域(スタジアムだけでなく、区画整理事業、都市公園用地その他周辺域も含めて)の里山景観を将来的に維持することにつなげる検討をすること。
  • 保全エリア(都市公園区域)の構想具体化のためのロードマップを作成し、その実現を着実に進めること。その際、行政、地域住民、専門家、市民団体等の関係者が協働して取り組んでいく体制を創り出していくこと。
  • 保全エリアだけでなく広域的なアユモドキの保全再生を進めるための計画を策定し、実現のための行動を起こすこと。その際、河川の整備・管理、農地整備や農業のあり方などについて、河川部局、農林部局と共に検討し、計画に組み込むこと。
  • 上記2点の内容を、種の保存法の保護増殖事業計画と京都府条例(絶滅のおそれのある野生生物の保全に関する条例)の保全回復事業計画に位置付けること。
  • そのうえで両事業計画のもとに、国の省庁および京都府、亀岡市が共同で、本地域を対象とした具体的なアユモドキ保全回復アクションプランを策定すること。そのなかで、全体の目標達成のために誰がいつまでに何を実施するかを明らかにするとともに、各主体の取り組みがバラバラではなく相互に連携し、地域の協力のもとに全体の保全再生の効果を高めていけるようにすること。上記のアユモドキ保全検討会(仮称)での議論に基づき、このアクションプランの策定・実施・検証・改定を進めていくこと。
  • 保全エリアと周辺の桂川本川を、種の保存法に基づく生息地等保護区または京都府条例に基づく生息地等保全地区に指定すること。
  • 岡山個体群の保全団体との情報の共有や連携を行うこと。

【科学的な調査】

  • アユモドキの生活史の全貌を解明し、生活史段階ごとの的確な保全策を策定するために、詳細な科学的調査を行うこと。
  • 桂川の個体群とその生息環境も含めた継続的なモニタリングの実施を行うこと。
  • アアユモドキの生息を支えてきた水田および河川の生物多様性が維持されているか、継続的に調査すること。

【保全エリアの名称について】

  • アユモドキを保全するコアとなる「京都・亀岡保津川公園」は、その目的を明確にして啓発等に資するために、例えば「京都・亀岡アユモドキの里公園」など、アユモドキの名を明示したものとすべきである。

【保全予算の確保等】

  • 世界的に絶滅の恐れが高いアユモドキを始め淡水域の生態系が回復・維持されることも含めて、十分な予算を確保すること。
  • 途切れることのない、保全活動予算の捻出を担保すること。また、スタジアムの利用料金の一部をアユモドキの保全に使うこと。

【周辺開発による影響】

  • 「サンガスタジアム by KYOCERA」や「駅北土地区画整理事業」などスタジアム周辺の開発によって、建造物や看板等による被陰の悪影響、夜間の光害、ゴミ問題等の発生が懸念されるためアユモドキの生息に影響がないよう最大の配慮を行うこと。

【管理・運営・規制】

  • 生息地に悪影響を与えられないような管理・規制を検討すること。
  • ラバーダムの適正な管理と継続的な運用を行うこと。

【スタジアム運営と普及・啓発・教育について】

  • 収容人数約21,600人のスタジアムにおいて、イベント終了後、帰宅で溢れる人々が過剰に保全エリアに入り込む恐れがある。今後、アユモドキ保全に向けたスタジアム運営・利用上の注意事項をまとめ、来場者に周知すべきである。
  • スタジアム利用者へアユモドキや生物多様性に関する普及、啓発を推進すること。
  • 京都府民に広く普及、啓発、教育を進めること。

【情報公開と国際的な報告】

  • 河川部局、農林部局等の関連部局や岡山市のアユモドキ保全団体等と共有した情報も、可能な限り公開すること。
  • IUCNのレッドリスト評価を担う種の保存委員会(SSC)に対して、アユモドキの保全状況の報告を行うこと。

以上

提言書賛同団体:
(公財)世界自然保護基金ジャパン、(公財)日本自然保護協会、(公財)日本野鳥の会、(一社)コンサベーション・インターナショナル・ジャパン、(公財)日本生態系協会、日本生態学会近畿地区会自然保護専門委員会、(一社)日本魚類学会、日本野鳥の会京都支部、近江ウェットランド研究会、全国ブラックバス防除市民ネットワーク(ノーバスネット)、(NPO)宍塚の自然と歴史の会、(NPO)日本国際湿地保全連合、(NPO)秋田水生生物保全協会、阿武隈生物研究会、生駒の自然を愛する会、(NPO)エコパル化女沼、岡山淡水魚研究会、香川淡水魚研究会、(NPO)かごしま市民環境会議、霞ヶ浦チャネルキャットフィッシュバスターズ、亀成川を愛する会、神崎川を守るしろい八幡溜の会、外来魚問題連絡会in北海道東北ブロック、近畿大学バスバスターズ、(NPO)くすの木自然館、佐渡在来生物を守る会、滋賀県大生き物研究会、(NPO)シナイモツゴ郷の会、城北水辺クラブ、(一社)水生生物保全協会、(NPO)生態工房、生物多様性研究会、生物多様性保全ネットワーク新潟、ゼニタナゴ研究会、(NPO)茅ヶ崎公園生態園管理運営委員会、土浦の自然を守る会、(NPO)鶴岡淡水魚夢童の会、手賀沼水生生物研究会、東海タナゴ研究会、東京勤労者つり団体連合会、ナマズのがっこう、琵琶湖外来魚研究グループ、びわ湖サテライトエリア研究会、琵琶湖を戻す会、ブラックバス問題新潟委員会、ぼてじゃこトラスト、水辺づくりの会鈴鹿川のうお座、(NPO)水辺と生物環境保全推進機構、深泥池水生生物研究会、三ツ池公園水辺クラブ、(公財)宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団、宮城大学自然研究部、淀川水系イタセンパラ研究会。

以上

本件に関する連絡先:
草刈秀紀(世界自然保護基金ジャパン 03-3769-1711)
志村智子(日本自然保護協会 03-3553-4103)
葉山政治(日本野鳥の会 03-5436-2633)
岩崎敬二(日本生態学会近畿地区会自然保護専門委員会 0742-41-9591)
小林 光(全国ブラックバス防除市民ネットワーク nobass3@gmail.com)
森 誠一(日本魚類学会自然保護委員会 smori@gku.ac.jp)


2020年3月26日:提言書別添資料

京都府亀岡市のアユモドキとその生息環境を確実に保全すべき理由

アユモドキの写真

©Kazumi Hosoya

アユモドキ
コイ目アユモドキ科 学名: Parabotia curtus

  • 全長15cm程度に成長。ドジョウの仲間としては体が平たく,幼魚の体表には特徴的な縞模様が見られる。成魚は底生のトビケラやユスリカの幼虫などを食べる。
  • 河川中下流や水路に生息し, 遮蔽物が多く砂礫や岩場のある砂泥底の環境を好む。
  • 6~9月に河川の増水などによりできる一時的水域(いわゆる氾濫原)に進入し、繁殖行動を行うことを不可欠とする。氾濫原は水田により代替され、今日に至る。

1.絶滅寸前の日本固有種であり、その生息地は今日国内でたった3ヵ所に

アユモドキは西日本の河川に生息する国内では1科1属1種の日本固有の淡水魚です。かつては琵琶湖・淀川水系と山陽地方の数河川に分布しましたが、現在は京都府の桂川水系、岡山県の旭川水系、同吉井川水系の3カ所でしか確認できなくなっています。もともと不連続な分布様式をもち、地域が違えばまったく別の生物集団のため、他地域からの移植で増殖を図ることはできません。アユモドキは今日の日本で最も絶滅が心配されている生き物のひとつです。

現在生息が確認している場所の地図

2.国や県の法律や条例で保護すべき種に位置づけられ、保護増殖事業計画も継続中

アユモドキは以下の法律や条例により保護が必要な種に指定されています。

  • 国の天然記念物(文化財保護法) 昭和52年(1977年)に指定。
  • 国内希少野生動植物種(絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律、略称:種の保存法) 平成16年(2004年)に指定。
  • 絶滅危惧IA類(環境省第4次レッドリスト) 平成24年(2012年)に指定。
    ※ⅠA類は最も絶滅のおそれが大きいとされる生物種
  • 指定希少野生生物(京都府絶滅のおそれのある野生生物の保全に関する条例) 平成20年(2008年)に指定。

さらに、平成16年(2004年)年には文部科学省、農林水産省、国土交通省、環境省の4省により「アユモドキ保護増殖事業計画」が策定され、計画は2015年に一部修正されて現在も継続中です。アユモドキはまさに緊急に保護すべき生物種として位置づけられています。

3.その保全の動向は海外からも注視されている

国際自然保護連合(IUCN)が世界でおよそ9万種の生き物の状況を評価したIUCNレッドデータリストにおいても、2015年、アユモドキは最も絶滅のおそれの高いCR(Critically Endangered、深刻な危機)に分類され、その保全の動向は国際的にも注目されています。

4.京都スタジアムは完成・開業したが、亀岡市のアユモドキとその生息環境の保全計画はまだ十分とは言えない

京都府桂川水系のアユモドキ生息地でも、唯一確認されている繁殖場所が亀岡市にあります。これは桂川(同地では「保津川」と呼ばれる)の支流にあり、水田に水を灌漑するためのラバーダムが上がることで出現する一時的水域です。アユモドキはそうした一時的水域でなければ繁殖することができません。

この繁殖場所と初期の成育場所である水田域が京都スタジアム(現在の名称/サンガスタジアム by KYOCERA)の建設予定地に含まれ、市民や生物系学会、環境保全系市民団体などによる反対運動が起こりました。京都府と亀岡市は専門家会議の提言などを容れて建設予定地を駅北側の住宅・商業開発区域内に変更し、スタジアムは2020年2月に開業しています。

しかし、スタジアムによる影響が未知である上、当初の予定地に計画されたアユモドキ保全の中心となるべき公園(現在の名称/京都・亀岡保津川公園)の設計やアユモドキ保全計画は今なお不十分であり、亀岡市のアユモドキの絶滅に対する危惧は解消されていません。

5.アユモドキだけでなく貴重な生態系、自然と共生する社会、希少な里山景観を保全し、世界的に稀有な先駆事例として地域に利するものとしてほしい

アユモドキは自然と共生する社会の象徴です。近畿地方に唯一残るアユモドキ生息地である京都府亀岡市周辺の水田地帯は、湿性植物の多様性が高く、棚田の石垣など伝統的な里山景観を有することから、ラムサール条約の潜在登録候補地に選定されています。ここには在来の淡水魚類が35種以上も生息する貴重な淡水生態系が残されています。

亀岡市では平成15年(2003年)より行政と市民が協働してアユモドキ生息地の保全に取り組んで来られました。また、ラバーダムの管理を含む繁殖場所の保全には農家も貢献されました。まさに、自然と共生する社会を維持して来られたのです。

スタジアム建設場所の変更により破壊を免れたものの、今なお消滅の危機にあるのは、アユモドキ生息地だけではなく、この貴重な生態系であり、自然と共生する社会であり、それらが生み出す独特の里山景観です。

この有機的なつながりを保持していくには、アユモドキ繁殖場所周辺だけではなく、水田と河川が連結するより広大なエリアの保全が不可欠です。必要なエリアの保全と共生に成功することができれば、東アジア温帯モンスーン水田生態系保全の先駆にして世界的に稀有な事例となり、地域にも利するのではないかと私たちは考えています。

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