大船渡市吉浜地区における大規模太陽光発電事業についての要望書
日本自然保護協会は、イヌワシを始めとする絶滅危惧種の保全を進めています。
今回、岩手県大船渡市内在住の自然観察指導員や会員の方々から情報と相談を受け、当会がイヌワシ保全を進めている観点から見過ごされるべきではないと判断し、要望書を提出しました。
2020年3月26日
岩手県知事 達増拓也 殿、大船渡市長 戸田公明 殿
自然電力株式会社 代表取締役 磯野 謙 殿、川戸健司 殿、長谷川雅也 殿
大船渡市吉浜地区における大規模太陽光発電事業についての要望書
公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 亀山 章
平素より、地域の自然環境の保全にご尽力いただいていることに敬意を表します。
日本自然保護協会は、1951年の設立当初からエネルギー開発に伴う自然保護の問題に取り組んできました。近年、各地ですすめられている太陽光発電事業は気候変動の対策として大切ですが、地域の生物多様性保全と両立した形で進めることが重要になっています。
さて、大船渡市吉浜地区においては、大船渡荒金山・大窪山太陽光発電所事業(事業者:自然電力株式会社、発電容量:計29.4メガワット、事業面積:計80ha、以下本事業)の計画が進められています。
本事業では、事業者による猛禽類調査(2016年11月~2017年10月)で、イヌワシ(絶滅危惧ⅠB類・国指定の天然記念物)の若い雌雄のペア飛行が確認されており、その後、2018、2019年も市民の調査により単独の個体が確認されています。この地域では、イヌワシは2004年まで繁殖していた状況が知られていることから、この地域はイヌワシの繁殖生息環境の可能性が高いと考えられます。イヌワシの生息状態は、全国で危機的な状況であることから、安易に開発を行うべきではありません。
また、大窪山地区は「五葉山県立自然公園」第三種特別地域に指定されており、「より完全な自然即ち天然地形・動物・植物の三者の保護を期す」ことになっております。さらに大窪山地区は、後方に滑落崖があり移動体が明確な地すべり地形が認められ、不用意な土地改変は下流部などへの災害を引き起こす可能性があります。一方、荒金山地区の計画地には湿地が含まれ、希少な湿生植物が生育している可能性があります。
本事業の計画は、住民から反対する意見も多く、地域の合意形成ができておりません。本事業の手続きを拙速に進めることなく、本年4月から太陽光発電事業も対象となる岩手県環境影響評価条例(以下、アセス条例)にしたがって、現地の自然環境の特性にあわせた調査と評価を行うとともに、地すべり災害の危険性も評価すべきです。
これらのことから、岩手県、大船渡市、および自然電力株式会社に対して、以下のことを要望します。
- 岩手県は、事業者による林地開発許可申請や自然公園法の開発許可申請を厳格に審査すること。またアセス条例の対象事業として事業者に指導し厳格に審査すること。
- 大船渡市は、現地の土地所有者として自然環境の保全に責任を持つ立場から、自然地形、動物、植物の保全に努め、市民からの意見や要望を反映した判断を行うこと。
- 自然電力株式会社は、拙速に開発の手続きを進めず、本事業の立地の見直しや中止を柔軟に検討すること。規模を見直し事業をすすめる場合でも、アセス条例による調査と評価を科学的に行うこと。また、大窪山南西斜面の予定地においては、現地での地形調査、地表変動調査、地下水調査および土質調査を行い、地すべり災害の危険性について評価を行うこと。
図表
202003_大船渡市太陽光発電事業_図表一式(606KB)
以上