「食料・農業・農村基本計画」に自然環境保全の強化策の必要性を明記すべきと意見書提出
農業と生物多様性は密接な関わりがあり、農業の営みによって形成された二次的自然は、多くの動植物が生息生育することを可能にし、近年「里地里山」として自然環境保全上も重要視されています。
しかし、不適切な農薬・化学肥料の使用や、経済性や効率性を優先した農地・水路・ため池などの整備・管理などによって、農業地域における生物多様性は顕著に劣化してきています。かつて農業地域に当たり前に生息していたメダカやタナゴ類、トノサマガエルなどの多くの生物が環境省レッドリストに掲載されるなど、絶滅の危機が懸念されています。
さらに、NACS-Jおよび環境省が発行した「モニタリングサイト1000里地調査 2005-2017年度とりまとめ報告書」では、現在、まだ環境省レッドリストに掲載されていない生き物でも、ゲンジボタルやヘイケボタル、ノウサギ、イチモンジセセリなどの身近な普通種の多くが絶滅危惧種の判定基準に該当するほど急速に減少していることが明らかになりました(環境省2019)
このような状況に対して、現状の「食料・農業・農村基本計画」には生物多様性保全に向けた十分な記述がなく、これまでの食料・農業・農村政策審議会企画部会での議論や、各方面での議論の中でも、自然環境、生物多様性保全の議論はほとんどありません。
また、現行の制度として、日本では国と地方自治体の予算として約1500億円/年※もの予算を使って、生態系保全などをはじめとした農地の多面的機能の発揮を促進するための交付金が支払われていますが、現場ではU字溝化などの農地施設の長寿命化といった、環境に配慮しない農地の維持管理のための活動への偏りが目立ち、本来的に多面的機能を低下させうる取り組みが実施されている現状があります。
そこで、当協会をはじめとした環境NGO5団体が中心となる「生物多様性と農業政策研究会」では、12月5日、今年度改訂予定の「食料・農業・農村基本計画」に対し、現行制度への問題点なども指摘を踏まえて、農業・農村における生物多様性の保全と回復に向けた考え方と施策を盛り込み、自然環境保全機能の発揮を明記すべきとの意見書を提出しました。
図:多面的機能支払制度の構造(意見書の概要 解説パンフレット一部抜粋)
・ 新たな「食料・農業・農村基本計画」に対する意見書(PDF/384 KB)
・ 意見書の概要 解説パンフレット(PDF/3,587 KB)
・(参考)環境省(2019)モニタリングサイト1000里地調査 2005-2017年度とりまとめ報告書
●意見書の主な主張:
意見書の主な主張は以下のとおりです。
1.自然環境保全を含む多面的機能は、農業が行われれば自動的に生じるものではなく、食料・農業・農村基本計画に、自然環境保全を含む多面的機能発揮の施策を明記する。
2.食料・農業・農村基本計画に農林水産省生物多様性戦略を反映する。
3.生物多様性保全のための関係省庁の連携を推進する。
4.持続可能な開発のための2030アジェンダ(SDGs)の、特に、経済、社会、環境の3側面の調和を図るという考え方を基本計画に導入する。
5.環境に配慮しない農地維持活動や施設の寿命化など、自然環境保全機能の劣化の拡大が懸念される項目の改善、生態系保全活動の促進など多面的機能支払制度を見直す。
6.環境保全型農業直接支払制度の予算規模や、適応範囲を拡大する。
7.全国で行われている土地改良事業において環境配慮を進めるために、大幅な改善を図る。
●生物多様性と農業政策研究会とは:
2018年11月より、欧米や国内の農業政策と生物多様性保全の事例研究をもとに、日本における生物多様性保全と農業環境政策のよりよいありかたを目指すことを目的として、公益財団法人日本自然保護協会、公益財団法人日本野鳥の会、公益財団法人世界自然保護基金ジャパン、NPO法人ラムサール・ネットワーク日本、NPO法人オリザネットの5団体が中心に開催されている研究会。
※ 平成31年度農林水産予算概算決定の概要 日本型直接支払:
https://www.maff.go.jp/j/budget/attach/pdf/31kettei-55.pdf
日本型直接支払交付金は国が1/2、都道府県1/4、市町村1/4としている。
本件に関するお問い合わせ先:
日本自然保護協会 担当 後藤、藤田
TEL 03-3553-4104 Email satoyama@nacsj.or.jp
NPO法人オリザネット 担当:斉藤・古谷
Tel:048-973-6360 / メール:oryzanet@ybb.ne.jp
その他、意見書に掲載の各団体担当者