ナメクジウオ生息地での上関原子力発電所建設とボーリング調査の中止を申し入れました
山口県上関町田ノ浦は、ナメクジウオ・クロサギなど希少種・絶滅危惧種が数多く生息し、瀬戸内海で最後に残された生物多様性のホットスポット、「奇跡の海」と評される場所です。中国電力は、その一帯を埋め立てて原子力発電所を計画しており、そのためのボーリング調査の計画を公表しました。
NACS-Jは、上関の自然を守る会とともに、ナメクジウオ等の緊急調査を実施。それをもとに、2019年7月31日、中国電力に開発計画とボーリング調査の中止を求める申し入れ書を手渡しました。
田ノ浦湾におけるナメクジウオの分布調査報告書(PDF/2.14MB)
クロサギの繁殖調査(PDF/752KB)
2019年7月31日
中国電力株式会社
代表取締役社長 清水 希茂 様
上関の自然を守る会 共同代表 高島 美登里
共同代表 山本 尚佳
公益財団法人日本自然保護協会 理事長 亀山 章
公有水面埋立免許の返上およびボーリング調査取りやめと環境保全対策の確立を求める申し入れ
日々のご活躍に敬意を表します。
さて、先般、貴社は上関原発にかかる公有水面埋立免許延長を申請し免許を得られました。それと並行して、原子炉設置許可申請のための海域ボーリング調査も計画されています。
福島第一原発事故以降、原発をめぐる世界の情勢は大きく変わり、主要な電力源は、原子力・火力から再生可能エネルギーへと急速な転換が進んでいます。国のエネルギー基本計画においても、上関原発を含む新増設は盛り込まれておらず、去る6月19日の世耕経済産業大臣の国会答弁でも「経産省のエネルギー政策全体の中で、原発については、現時点で、新増設、リプレースというのは想定していない」と明言しています。
上関海域は専門家が「奇跡の海」と評価する世界的な生物多様性のホットスポットであり、貴重な生態系の破壊を招く原発計画を多くの人々が憂慮しています。
上関原発計画が発表されて以来、地域社会には長年にわたる混乱がもたらされました。しかし、今や原発に未来がないことは明らかなはずです。もうこれ以上、原発新設という計画のために、社会を混乱させたり、貴重な海の自然を破壊したりしないでください。上関原発計画中止を一刻も早く決断し、無用な社会的混乱と自然破壊を止めてください。世界の宝ともいえる貴重な田ノ浦の海を、ボーリング調査で破壊することは止めてください。海底を掘削するボーリング調査は、田ノ浦に多数生息している絶滅危惧種の生息場所を直接破壊するものです。
つきましては、以下のことを、申し入れます。
申し入れ事項
- 上関原発建設にかかる公有水面埋立免許を返上すること。
- 原子炉設置許可申請のための海域ボーリング調査を実施しないこと。
- 貴社が実施した環境アセスメントは不十分だったので、通産大臣・環境庁長官・二井元山口県知事(確定当時)から環境保全措置の確立を求められた経緯があることから、以下の対策を行うこと。
a) クロサギの繁殖調査と保全対策の確立
上関の自然を守る会はボーリング予定地点から200m沖合の鼻繰島でクロサギ(レッドデータやまぐち2019 「絶滅危惧Ⅱ類」)の繁殖を確認した。追加調査および保全対策の確立なしに埋め立て工事およびボーリング調査に着手しないこと。(別添資料参照)
b) ナメクジウオ調査と保全対策の確立
上関の自然を守る会と日本自然保護協会は、2019年7月に田ノ浦湾内で共同調査を行い、以下の結果を得た。
田ノ浦湾内9か所のうち4か所からナメクジウオ(ヒガシナメクジウオ、環境省海洋生物レッドリスト2017「絶滅危惧Ⅱ類」)が見つかり、海域ボーリング予定地点近傍で最も生息密度が高いことが確認された(別添資料参照)。中電の環境アセスメント調査では今回発見されたナメクジウオの高密度生息域が見落されている。
追加調査および保全対策の確立なしに埋立工事およびボーリング調査に着手しないこと。c) カンムリウミスズメの再調査とウミスズメ調査結果の公表
中電の定期調査と上関の自然を守る会が実施した調査ではカンムリウミスズメ(IUCN(国際自然保護連合)レッドリスト2018「危急」)の確認数に大きな差異がある。再度の慎重な調査を求める。また中電の定期調査では2018年4月まではウミスズメ(環境省レッドリスト2019 「絶滅危惧ⅠA類」)の確認数が報告されているが、同年5月より記載がない。ウミスズメの調査結果を従来通り、公表すること。
- 上関原発計画の中止を一刻も早く決断すること。
以上
▲調査の様子
▲発見されたナメクジウオ
▲クロサギ(親鳥)
▲中国電力に申し入れ書を手渡す上関の自然を守る会の方々