絞り込み検索

nacsj

海洋保護区設定に対してパブリックコメントを提出しました

2018.12.27
要望・声明

現在、政府は「海洋保護区(沖合域)」設定の方針等を検討しています。検討会の答申案に対して、日本自然保護協会はパブリックコメントを提出しました。

海洋保護区の設定は、愛知ターゲットやSDGsの達成ためにもスピードアップして進めることが必要ですが、今回は水深200mより深い「沖合域」で、海底の資源開発と保全をどう調整するか、という点が新しい議論です。日本自然保護協会は、陸に比べて科学的に解明されていない海域の生態系については、予防原則に従い保全を重視すべきだと考えています。

パブリックコメントとは

国の行政機関が政令や省令などの案をあらかじめ公表し、広く国民の皆様から意見や情報を募集する手続です。 応募いただきました意見を、国の行政機関が反映することにより、行政運営の公正さの確保と透明性の向上を図り、国民の権利利益の保護に役立てます。

引用:e-Gov(イーガブ:電子政府の総合窓口)

20181226_中央環境審議会自然環境部会「生物多様性保全のための沖合域における海洋保護区の設定について(答申案)」に対する意見(196KB)


環境省自然環境局自然環境計画課 御中

2018年12月26日

中央環境審議会自然環境部会「生物多様性保全のための沖合域における海洋保護区の設定について(答申案)」に対する意見

公益財団法人日本自然保護協会
理事長 亀山 章
〒104-0033東京都中央区新川1-16-10 ミトヨビル2F
Tel.03-3553-4101 fax.tel.03-3553-0139

[意見]
(全体)
 沖合に海洋保護区を設置することは望ましいことである。愛知ターゲット及びSDGsの達成のためには、スピードアップして海洋保護区設置を進める必要がある。
 ただし、保全と資源開発・利用との調整、すみ分けといった表現が散見される。海域の生態系は科学的に解明されていない事象が多く、特に沖合域は沿岸域ほど高い精度で科学的情報が蓄積されていない(141行)ことを踏まえ、予防原則に従い(147行)、海洋保護区以外は開発できる場所と誤解されることがないよう注意が必要である。

(85行目)
今回の答申の前提となっている日本の海洋保護区の現状に誤りがある。我が国の管轄権内の海域における海洋保護区は約8.3%と試算されているが、その多くが領海(内水を含む)であり(約52.1%)、沖合域(EEZ内約3.6%)への海洋保護区の設定等は限られており、特に自然環境又は生物の生息・生育場の保護等を目的にした海洋保護区は沖合には全くない。日本自然保護協会が提出した提言書「日本の海洋保護区のあり方~生物多様性保全をすすめるために~」で指摘したように、日本の海洋保護区とされているエリアの中で真に生物多様性保全に寄与していると言えるものは国土の0.03%以下である。
また、上記約8.3%のうち、自然景観の保護や自然環境または生物の生息・生育の場の保護を目的としているのは合計で0.5%のみであり、72%は水産物の保護養殖等を目的としたものである。これは生物多様性の保全ではなく、生物多様性に基づく生態系サービスを目的としているものと考えられる。
また日本政府が主張する8.3%のうちの多くを占める漁業権設定地域や海洋資源開発促進法指定地域は、愛知ターゲットが示す「その他の効果的な保全(Other Area based Effective Conservation Measures:OECM)」に該当すると日本政府が考えたものと思われる。先月エジプトで開催された生物多様性条約第14回締約国会議にてOECMの基準が明らかにされ、海洋資源開発促進法指定地域などは満たしていないことが明確になった。
沿岸についても見直しが必要と考えるが、沖合については生物多様性保全を目的にした海洋保護区の設置が必要と考える。

(資料)
「日本の海洋保護区のあり方~生物多様性保全をすすめるために~」日本自然保護協会・沿岸保全管理検討会提言(2012年5月)
https://www.nacsj.or.jp/archive/files/katsudo/wetland/pdf/20120517mpateigensyo.pdf

DECISION ADOPTED BY THE CONFERENCE OF THE PARTIES TO THE CONVENTION ON BIOLOGICAL DIVERSITY
14/8. Protected areas and other effective area-based conservation measures(2018年11月30日 )
https://www.cbd.int/doc/decisions/cop-14/cop-14-dec-08-en.pdf

(89行)
「我が国の海域を沿岸域(領海かつ水深 200m 以浅の場所)と沖合域(領海及び排他的経済水域(EEZ)のうち、沿岸域を除いた場所)に分けると」と書かれており、本答申は、タイトルにあるとおり「沖合域」が対象になっている。一方、本答申の基礎資料となっている「生物多様性の観点から重要度の高い海域(いわゆる重要海域)」の選定作業では「沿岸域(領海かつ水深200m以浅の場所)と沖合域を区分し」た上で、「さらに沖合域は沖合表層と沖合海底を区分して解析を行うこととしました。」と環境省HP(http://www.env.go.jp/nature/biodic/kaiyo-hozen/kaiiki/kaiiki/kaiseki.html)に示されている。
第1回検討会議事録に「区域としては、水中・表層まで含まれるが、主に保護したいところは海底の生態系ということになるので、それに対するいろんな行為を規制するような形を想定している。」とあり、本答申案では「沖合海底」に関わる内容しか認められない。しかし、「沖合表層」については、例えば海洋の表層を流れる黒潮、対馬海流、親潮などの海流は、水塊、プランクトン、種子、胞子、卵、幼生、稚魚、流れ藻などの移動、供給など多様な生態系を維持する極めて重要な役割を果たしている。また海流系自体が大きな空間スケールの生態系とも考えられる。いわゆる「重要海域」選定に当たっては、このような認識に立って「沖合表層(域)」の設定がなされたと理解し、評価していた。このことは、「沿岸域」の海洋保護区設定とも深く関係する事柄である。今回の答申案ではこの部分が全く欠落している。答申には欠落の理由とこの件に関する今後の方針が明記すことが必要と考える。このままでは環境行政の文書として整合していない。今回は沖合海底に限定するのであれば、沖合域(沖合海底域)における海洋保護区の設定などタイトルを変更すべきと考える。

(101行)
今回の答申の基礎資料となっている環境省の重要海域(生物多様性保全の観点からの重要度の高い海域)の抽出過程についても、生態学的に意味のある区域線の設定や区域の抽出されていないことなど多くの課題が残されている。沿岸域で科学的な評価がきちんとなされていないのであれば、沖合についても懸念が残る。また、沿岸域と沖合の区分についても、水深だけでない区分が必要と考える。

(資料)
「環境省の『重要海域』の抽出に対する意見」日本自然保護協会(2016年5月27日)
https://www.nacsj.or.jp/archive/2016/05/616/

(121行)
「回遊する漁業対象種や海棲哺乳類等の保全については、関係する省庁が協力して漁業資源管理の取組や、種レベルでの保存・管理等を中心に行っており、今後も引き続きその保全に取り組むことが適当である。」とあり、省庁間の連携により保全に十分な成果がみられている認識と見えるが、省庁間の連携は十分とは言い難い。
このことは日本政府が公表した海洋生物レッドリストに現れている。水産庁が得ている水産資源のデータと環境省が用いている魚類・甲殻類・サンゴ類などの生物は、密接に関係して海域生態系を作り上げているにも関わらず、別々に評価がなされており、海域のデータとして総合的に評価されていない。沖合の海洋保護区については、科学的な意味を持ち、効果のある保全を進めるためには省庁縦割りを解消し、より積極的に連携させ、国の戦略として位置づけることが望まれる。
連携はある程度は行われ、取組がある種はあるが、絶滅に瀕する種は水産庁と環境省あわせて443種ある。陸に比べて調査が遅れていることを考えると、この種数にとどまらないことが懸念される。現状の取り組みを引き続き行うだけではなく、より拡大・推進して、この状況を改善できる海洋保護区にしていただきたい。

(資料)
「日本政府が公表した海洋生物レッドリストに対する意見」日本自然保護協会(2017年3月28日)
https://www.nacsj.or.jp/archive/2017/03/3824/
(244行)
「特に、人為活動を規制し自然環境の保護を図る区域においては、環境に影響を与えるおそれのある行為については原則禁止とし、実施する場合には環境大臣の許可等を受けることを必要とすることが適当である。」とあり、環境に影響を与えるおそれのある行為を原則禁止とすることは賛同する。ただし、深海の開発は、科学技術の発展とともに開発できる範囲が広がっているのに対し、環境への影響を予測するアセスメントの技術は同時に進化しているとはいいがたく、何をもって環境に影響を与えるおそれがあるかの判断基準は明確ではない。十分な予測評価やモニタリング、合意形成ができるまでは、予防原則に従うことが重要と考える。

以上


<参考>

*中央環境審議会自然環境部会「生物多様性保全のための沖合域における海洋保護区の設定について(答申案)」に対する意見の募集(パブリックコメント)について
https://www.env.go.jp/press/106216.html

*沖合域における海洋保護区の設定に向けた検討について(検討会資料・議事録など)
https://www.env.go.jp/nature/naturebiodic/kaiyo-hogoku.html

前のページに戻る

あなたの支援が必要です!

×

NACS-J(ナックスジェイ・日本自然保護協会)は、寄付に基づく支援により活動している団体です。

継続寄付

寄付をする
(今回のみ支援)

月々1000円のご支援で、自然保護に関する普及啓発を広げることができます。

寄付する