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西日本豪雨災害の復旧事業と地域再建に関する意見書を提出しました

2018.08.10
要望・声明

今年7月の西日本での記録的な大雨から1か月が過ぎました。豪雨による被害は広島県、岡山県、愛媛県はじめ西日本の広範囲に及び、多くの尊い命が奪われました。一日も早い生活再建が必要であることは当然ですが、拙速に復旧事業を進めては、地域の環境や文化の破壊など、地域の再建と逆行することになりかねないと危惧することから、意見書を提出しました。

西日本豪雨災害の復旧事業と地域再建に関する意見書(PDF/4.23MB)


30日自然 第36号
2018年8月9日

内閣総理大臣 安倍晋三 殿
環境大臣   中川雅治 殿
国土交通大臣 石井啓一 殿

西日本豪雨災害の復旧事業と地域再建に関する意見書

公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 亀山 章

今年7月の西日本での記録的な大雨から1か月が過ぎました。この豪雨による被害は広島県、岡山県、愛媛県はじめ西日本の広範囲に及び、土砂崩れや河川の氾濫が相次ぎ、水や土砂が町を呑みこんで多くの尊い命が奪われました。一日も早い生活再建が必要であることは当然ですが、拙速に復旧事業を進めては、地域の環境や文化、自然とのふれあいの場の破壊など、地域の再建と逆行することになりかねないと危惧することから、以下の点を要望いたします。

1.ダムの運用を含め、豪雨災害の原因究明を科学的に行うこと

今後の災害に備えるためにも、今回の原因を正しく解明することが必要です。複数の分野の専門家による調査とそれに基づいて原因を解明してください。

今回の被災地は広域のため、場所によって原因が異なったり、解明までに時間を要するであろうと思いますが、時間をかけないとわからないこともあるはずです。また、ダムの運用等による人災の可能性を示唆される情報も報道されています。

拙速に復旧事業を進めないこと、また、新たに判明した課題に対応できるよう、災害復旧予算の執行期間の延長や、使途の変更を可能にすることを望みます。

2. ダムによる防災の限界を認識し、ECO-DRRの考え方を災害復旧で取り入れること

ダムに頼る防災には限界があることを認識し、今後は、生態系を基盤にした防災・減災(Eco-DRR:Ecosystem-based Solutions for Disaster Risk. Reduction)の考え方を取り入れていくべきだと考えます。

Eco-DRRは自然の機能を活かした減災の方法です。東日本大震災ののちに日本でも議論が行われてきました。湿地、砂丘、森林などの自然のつながりをそのまま保全することで、地域の産業に資すると同時に災害に対する地域社会の脆弱性を改善する費用対効果の高い方法である事例が報告されています。

ダムは防災機能はあっても、物質の循環を遮断もします。新たな構造物を作る前に、可能な限り既存の堤防等の強化とともに、森や林などの自然の活用および田んぼなどの調整機能を活用することを要望します。

3.  自然のまとまりやつながりを活かすよう、省庁横断型で取り組むこと

自然はできるだけまとまりで残すことが大切です。大熊孝氏は川を次のように定義しています。「川とは、山と海とを双方向につなぐ、地球における物質循環の重要な担い手であるとともに、人間にとって身近な自然で、恵みと災害という矛盾の中に、ゆっくりと時間をかけて、人の“からだ”と“こころ”をつくり、地域文化を育んできた存在である」。

災害の予防には、自然を構成する生態系や地形のすべてを考慮する必要があるため、森林は林野庁、河川は国土交通省など分担していたとしても、省庁が連携し横断型で取り組むことが必要です。また、防災という視点で日本全土を見渡した、土地利用計画の見直しが必要と考えます。

4. 地域の自然を熟知している市民の意見を取り入れること

防災は、住民とともに進めることが重要です。1997年の河川法の改正は、住民参加がうたわれた大きな転換となりました。しかし、いまも河川管理者である行政主体の防災が行われている現場は少なくありません。

おわりに

日本列島は、いくつものプレートの境目に位置し、火山が多く、流氷からサンゴ礁まで、多様な地形や生態系を併せ持ち、季節による変化も大きいという特徴を持っています。この自然のダイナミズムは、生物学的、地理学的な多様さと豊かさの源でもありますが、人間にとってはときに自然災害となって襲いかかるものでもあります。

私たちの先祖は、このような特徴を持つ自然と共に生きるために、多くの知恵や技術を培い、自然を敬い、畏怖しながら自然に働きかけ、自然災害とも折り合いを付けて文化を築いてきました。

近代化以降、我が国では西洋的な自然認識に基づく科学技術を積極的に導入し、工学的な技術によって災害を克服しようとする取り組みが進められてきました。ときに、自然のダイナミズムを完全に抑え込もうとの試みもなされてきました。

しかし、このようなやりかたには限度があることを、自覚し、方向転換をすべき時代に来ていると考えます。米国ではダムの撤去が行われつつあります。国内でも熊本県の荒瀬ダムで、本格的なダム撤去が行われました。近年の気候変動により、台風の規模や進路、雨の降り方が変わってきています。気候変動等の影響から今後も日本や世界の各地で同様の災害が起こることが考えられます。自然環境の保全と地域の減災・防災を両立させる方法を再考することを望みます。

以上


Eco-DRRとは

Eco-DRR とは自然の機能を活かした減災の方法である。国連国際防災戦略(ISDR)は、「重要な生態系サービスの保護は、災害に対する脆弱性を改善し、地域社会のレジリエンス(回復力)を高める には不可欠」と述べている。健全な生態系は防災・減災機能も持っており、生態系を基盤とした防災・ 減災(Ecosystem-based Solutions for Disaster Risk Reduction (Eco-DRR))を提案している。 たとえば、マングローブ林がサイクロンによる高潮被害の軽減し、サンゴ礁が暴風雨や侵食から海岸を保全する等の機能を持つことが知られている。砂浜やサンゴ礁には波や風の力を低減する防護機能があり、高波や台風の影響を軽減する。

(『沿岸生態系を活かした防災・減災のための提言』より一部抜粋)

沿岸生態系を活かした防災・減災のための提言
https://www.nacsj.or.jp/archive/2016/02/603/

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