奄美群島国立公園(仮称)の指定と公園計画の決定についての意見
奄美群島国立公園(仮称)の指定及び公園計画の決定に対する意見 (PDF/392KB)
2016年11月4日
環境大臣 山本公一殿
奄美群島国立公園(仮称)の指定及び公園計画の決定に対する意見
公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 亀山 章
奄美群島は、国内最大規模の亜熱帯・暖温帯常緑広葉樹林、アマミノクロウサギなどの固有又は希少な動植物、琉球石灰岩の海食崖や世界的北限に位置するサンゴ礁、マングローブや干潟など多様な自然環境を有している。
環境省はこのことを評価し、平成22年に実施した国立公園総点検事業において新規国立公園の指定の必要性を確認した。奄美群島は、地域の人々が地域の自然を持続的に利用しながら伝統的な暮らしを今も続けている地域である。したがって、国立公園の指定にあたっては、奥山の保全だけでなく自然利用の形態や土地利用の履歴を考慮し、島の海・イノー(礁原)・里・川・山など人の利用が今も息づいている地域のモザイク的な自然景観が将来にわたって維持されるよう配慮し、人の暮らしの場所と祭祀の場やカミヤマなど地域が大切にしてきた聖域や奥山との連続性も考慮に入れる必要がある。
日本自然保護協会は、新たに奄美群島国立公園を指定することの意義を認める。しかし、今回の指定および公園計画においては、奄美群島の生物多様性保全や歴史文化の保全の観点でさらなる配慮が必要であると考えるため、以下、意見を述べるものである。
意見1.生態系にとって意味のある境界線の設定とゾーニングを行うこと
自然公園の保護計画では、特別保護地区、第1種特別地域、第2種特別地域、第3種特別地域、普通地域が保護対象を中心にして適切に配置されることが望ましい。しかし、本計画案はそのような配置となっていない。また、先年改正された自然公園法の目的条項には、生物多様性保全が明記されているが、この点への配慮に欠けた計画となっている。
例えば、奄美大島の場合では住用川、役勝川の集水域は、流域にリュウキュウアユ(国CR)、キバラヨシノボリ(国EN)などが生息し、河口干潟にはオヒルギ、ヤエヤマヒルギなどからなるマングローブが広がり、異なる生態系を連続的に確保できる重要な地域となっている。河口域周辺のマングローブは特別保護地区となっているが、周辺が普通地域や特別地域で囲われていない。このように、特別保護地区が剥き出しになった地域は住用町の川内、摺勝、城周辺にも見られる。国立公園のゾーニングは重要な地域を保全し連続性を確保するため周辺の緩衝地域を十分に確保すべきである。
意見2:科学的根拠に基づいて設置すべきである。
国立公園を含む、保護区の設置にあたって第一に必要となるのは、科学的な根拠であり、科学的データに基づいた具体的な保護区の設定と規制が行われるべきである。しかし、今回の計画では、その根拠となる調査・研究の成果は公表されていない。本計画案を見ると、アマミノクロウサギなどの生物のどのような生態に基づいて案が作られたのか、検証のしようがない。
意見3 海域も広く含め、生態系の連続性を考慮した国立公園にすべきである
島嶼国である日本の生態系の特徴として、近年、森・川・海が連続した一体の存在であるという認識が周知されてきている。森を守るためには海を守ることが必要で、かつ海を守るためには森を守ることが必要である。森・川・海の連続性をそのまま保全することが生物多様性保全上重要であるにもかかわらず、本計画案では連続性を担保した保護区の設定と考えられる区域があまりにも小さい。
また、海域公園地区もごく一部しか指定されないため、海に囲まれる複数の島を有する群島において、島の陸域と海域の連続性の保全は極めて不十分である。環境省は、2016年4月に生物多様性の観点から重要度の高い海域を抽出した。その結果、奄美群島の沿岸域は一部を除きほぼ全域が重要な海域とされている。この結果との整合性から考慮しても、海域を広く公園区域に入れるべきである。さらに河川は山と海の連続性をつなぎ、希少な生物が生息生育する重要な生態系の一つである。また、河川沿いには段丘崖などが形成され、斜面林が比較的残存しているため、連続性を確保できると考えられる。奄美大島の川内川や徳之島の上成川などを、普通地域として海と山を連続的につなぐべきである。
意見4 奄美大島生物多様性地域戦略との整合性を図るべきである
奄美群島のうち奄美大島の5市町村が策定した奄美大島生物多様性地域戦略では、保護地域に加えて二次林及び畑地帯に、大陸性依存種が生息することから、保全地域として自然の再生・回復するための事業を優先的に実施する地域としている。奄美の人々の生活空間をみてもわかるように、奄美の人と自然との共生の環境文化を将来にわたって引き継いでいくために、山から海に至るまでは狭い空間しかないことから異なる生態系の連続性を確保する必要がある。5市町村は生物多様性保全・利用地域区分のイメージ図を作成しており、保護地域の周辺の多くのエリアを保全地域とする重要な地域として認識していることから、奄美大島全域を含み、一部の市街地を除くような国立公園とするべきである。
出典:奄美大島生物多様性地域戦略
意見5 外来種防除も考慮した保護計画にすべきである。
島嶼生態系は生物多様性が豊かであると同時に、脆弱であることが知られている。特に、固有種が多く外来種に弱い。それ故に、意見2、3、4に述べたよう、科学的根拠に基づいた公園や保護区の設定が必要となる。
外来種対策を考えた場合、緩衝地帯の周辺、緩衝地帯のそれぞれの入り口で外来種となりうる生物を入れないように規制する対策が重要であり、その対策をしたうえで核心地域での入り口対策が重要である(環境省 外来種被害防除計画2015)そうしなければ、外来種の侵入を防ぐことが難しいのは、先に世界自然遺産登録となった小笠原諸島での事例を見れば明らかである。
本年9月に開催されたIUCN(国際自然保護連合)の第6回世界自然保護会議で採択された勧告「島嶼生態系への外来種の侵入経路管理の強化」勧告は、国際条約と同等の重みをもっている。また、2014年に開催された生物多様性条約第12回締約国会議では、島しょ国の生物多様性に迫る危機である外来種問題解決のために、経済的な援助や、研究・技術提供を外来種対策の先進的な取り組みを行っている先進国から積極的に提供していくことの重要性が共有された。日本は当然ながら提供国側に位置していることを自覚し、自国の島しょ部の生物多様性保全の姿勢が世界の模範となるよう誠意と責任を持った対応が必要である。
以上