大台ヶ原・大峯山・大杉谷ユネスコエコパークを訪問してきました。<後編>
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前編に続き、
23日は大台ヶ原に上がり、環境省が主催する東大台ヶ原での自然再生のガイドウォークに参加しました。
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横田岳人先生(龍谷大)による解説
大台のトウヒ林がなぜ衰退してしまったのか?
横田先生の解説によると、亜高山帯針葉樹林は1500~1700m付近に紀伊半島では成立する。トウヒは様々な理由で更新できない状況が続いている。
トウヒの下層はコケ層だった。1959年伊勢湾台風により、倒木が多く発生し、ミヤコザサが優占するようになった。また、その前年にミヤコザサは一斉開花し種子生産をしており、更新しやすい状況であった。その結果、コケ層だった下層はミヤコザサに一斉に置き換わった。
また、当時は拡大造林施策が続いており、標高の高いとこころまで伐採進み、ミヤコザサ帯は高標高域にまで拡大した。さらに、尾鷲の火力発電所の煤煙がトウヒを弱らせていたとする説もある。酸性雨の影響なども懸念されていたが、防鹿柵の設置の比較などにより、その影響が少ないことは確認された。温暖化の影響もトウヒ林が更新しにくい理由の一つになっている。下部の植生だったシラビソ、ウラジロモミの定着がよくなっている。
とのことです。大台が原の植生が変わったのは、シカだけが原因ではないようです。
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環境省が13年前に設置した防鹿柵 下層にはミヤコザサが優占し更新しにくい状況が続いている。
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大台ヶ原のシカ 10年前は1平方キロメートルあたり40頭であったが、国や県が協力して予算を計上し、銃やわなによる徹底した駆除により、現在は5頭程度にまで減少しているとのこと。今回の視察でも遭遇したのはわずかでした。ただし、麓の地区では、近年シカによる食害に本当に困っているようです。
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大台ヶ原の麓 柏木地区にて。 畑を完全に囲わないとサル、イノシシ、シカにより野菜の収穫ができない。
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西大台ヶ原への立ち入りのための事前レクチャー、入域するためには上北山商工会に申請書と入山料1000円を支払い、事前レクチャーを受けてからでないと入ることができない。
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西大台ヶ原利用調整地区入り口
ボランティアコーディネーターが見回りや監視を行っています。私も、周回路回った際には、2回、立ち入り許可書の確認を求められました。
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西大台ヶ原の開拓跡周辺のようす
環境省のレンジャーの方に聞いたところ西大台利用調整地区は、平成18年5000人、平成19年9月の調整開始前は飛び込み効果で約10000人となりましたが、調整開始後は平成20年1000人位でした。しかし、平成25年現在は約3000人となっており、調整前の状況に近づきつつあるとのこと。これは、子供料金設定、当日受付など運用を変えていること、周知が進んできたことによるそうです。
5月と10月がピークで800人/月くらい。大阪、奈良から多いが東京、神奈川からも来ているそうです。当初は、知らなかった人が大台ヶ原に来て立ち入りを制限されるため苦情もあったそうですが、現在では苦情も少なくなってきているとのこと。
立ち入りをした感想としては、4時間位の山歩きでしたが、人に出会うこともなく静かに森の観察をすることができたのはよかったと思います。レクチャーを聴いて事前にいろいろな知見を得られるのも観察の補助になりました。ただ、手続きは面倒ですし、監視されている感じもして、いつもと違う感じも受けました。結果として、登山道の侵食などはあまり見られないようですし、渓流のアマゴなど貴重な生物も回復しつつあるそうです。ウラジロモミ、シラビソ、ヒノキ、ブナ、トチノキ、ミズナラが林冠構成種で、下層はスズタケ、ミヤコザサ、ミヤマシキミ、バイケイソウ、カラマツソウ、カワチブシなどシカが食べない種類が林床に見られ、林床の植生も回復過程にあるようです。