【配布資料】今日からはじめる自然観察「海岸の砂粒から生命の証を見つける」
<会報『自然保護』No.552(2016年7・8月号)より転載>
このページは、筆者の方に教育用のコピー配布をご了解いただいております(商用利用不可)。
ダウンロードして、自然観察などでご活用ください。
海岸の砂粒を人差し指の先に少しだけつけ観察してみましょう。
砂の大きさは2㎜よりも小さく肉眼で見える程度。
その多くは岩石のかけらや鉱物ですが、いろいろな生物の遺骸が含まれていることもあります。
福田修武(和歌山大学教育学部附属中学校副校長)
「砂粒は何でできているかな。」と問いかけると、大抵は「石のかけら」とか「貝殻のかけら」といった答えが返ってきます。どちらも正解ですが、場所によっては、貝殻以外にも、さまざまな形をした美しい微小な生物たちの遺骸(生物遺骸)が砂粒に含まれていることがあります。
生物遺骸が多いのはどのような海岸でしょうか。一概には言えませんが、ひとつは、水質が良いことや近くに磯や藻場があるなど、多様な生物が生活しやすい環境が近くにあることです。もうひとつは、岩石のかけらや鉱物を大量に運んでくる大きな川が近くにないことです。山からたくさんの土砂を運んでくるような川があると、砂粒のほとんどが岩石のかけらで占められてしまいます。
南西諸島には、星砂と呼ばれる星の形をした砂がたくさん見つかる浜があります。この星砂は有孔虫という微生物の殻でできています。星砂になる有孔虫は西太平洋の熱帯から亜熱帯域に分布し、日本では南西諸島でしか見られませんが、有孔虫にはたくさんの種類があり、その殻はあちこちの海岸で見られます。渦巻き型をしたものやブドウの房のような形をしたものなどがあります。また、小さなウニのとげやカイメンという動物の骨片も見つかります。大きさが1㎜に満たない小さな貝殻が見つかることもあります。これらは微小貝の仲間です。
砂粒に生物遺骸が少なかったり、ほとんど見つからなかったりする場合には、鉱物の観察を楽しむとよいでしょう。砂粒をつくる岩石のかけらや鉱物の種類は地域によって違います。砂浜全体の色が白っぽく見える砂浜には石英と呼ばれる鉱物が、黒っぽく見える砂浜には、磁鉄鉱などが多く含まれることがあります。近くに火山やその影響でできた岩石がある場所では、鉱物本来の結晶の形を残した砂粒を観察できることもあります。
砂粒観察のコツ
砂粒は小さいので、観察するときにはルーペや野外用顕微鏡があると便利です。しかし、肉眼でも生物遺骸や面白い鉱物の有無を確かめることができます。まず、砂粒を指先にくっつけたり、手のひらに少しだけのせたりします。
生物遺骸を探す場合は、生物遺骸がとても小さいので、できるだけ径の小さい砂を選び、一粒一粒の形を確認できる程度の少量にするのがコツです。円盤状の有孔虫や小さな針状のウニのとげを目印に探すとよいでしょう。また、鉱物の場合は、太陽光にかざす角度を変えると、結晶面がキラキラと輝いたりすることがあります。磁石があれば、磁鉄鉱がくっついてきます。
ルーペがあれば、0.5㎜程度の大きさの生物遺骸も見逃さずに観察できます。また、最近のデジタルカメラやスマートフォンには、記録画素数が大きくマクロ撮影機能を備えたものが珍しくありません。これらで撮影した砂粒を液晶画面で拡大表示すると、現地で複数の人が同時に観察できます。
最後に、観察する時の注意です。砂粒の標本採集は最小限にとどめましょう。また、国立公園に指定されているなど、採集が禁じられている場所では、観察したら必ず自然に返すようにしましょう。
クイズの答え:石英(海が汚れ、砂が汚れると、鳴き砂は鳴かなくなってしまう。)