沖縄島に出張してきました。
保護室の辻村です。
2016年5月18日から21日まで辺野古・大浦湾、嘉陽、泡瀬干潟の現場を駆け足で回ってきました。
今年の保護室では、土砂の移動に伴う外来種の混入を防ぐことをメインテーマの一つに掲げています。現在、奄美大島の採石場では山が大きく切り崩され大量の土砂が野積みになっています。これらの土砂が、現在、建設が進む那覇空港第2滑走路のための埋め立て土砂に使われます。また、米軍基地建設移設のため辺野古の海の埋め立てにも奄美大島からの土砂が使われることになっています。
このように山は破壊され海は埋め立てられるという問題に共通しているのは土砂です。そしてこの土砂が埋め立てのためなどで他の場所に移されると土砂の中に混じっている生物も一緒に移動することになり、その地域にいないはずの生物が土砂とともに入ってきてしまい、本来の生態系を壊してしまう、という外来種問題が発生します。(実際に、那覇空港の埋め立てに使う予定の奄美大島の採石場周辺では特定外来生物のハイイロゴケグモが見つかっています。)
独自の生態系が発達している小笠原諸島や南西諸島ではこれまでも外来種の移入が問題視されてきましたが、そもそも日本自体が島しょ国ですから外来種問題は、日本のどこでおきてもおかしくはないのです。
保護室では、日本各地で土砂の移動によって外来種が移入し生態系に影響を及ぼしうることを問題視し、土砂の移動による外来種問題をメインテーマの一つにしました。
これまで、自分は国立公園での自然保護問題として小笠原諸島の保全やリニア中央新幹線建設問題、地熱開発などの現場を担当してきました。リニア中央新幹線は路線の8割以上が地下トンネルですので大量の土砂が発生します。このように、自分がこれまで見てきた現場の多くは「土砂の供給源」としての場の問題でしたが、今回の沖縄の出張は、「土砂の受け入れ側」の問題の現場をしっかりと把握することが目的でした。
4月18日に那覇空港に到着して安部と合流し、すぐに那覇空港第2滑走路の埋め立て現場が一望できる場所に行きました。元々はサンゴ礁域ですが、着々と進む工事現場の景観が広がっています。ピーク時に予約が取れないことがあるという事で滑走路を増設する事業ですが、失う自然環境の大きさは計り知れないものがあると思います。
その後嘉陽海岸のセットバック護岸を見に行きました。自然海岸を残してほしいと思いますが、海に近接した生活がある以上、最低限の護岸が必要という考えもあります。嘉陽では、地域住民と行政がしっかりとコミュニケーションをとり、合意形成をするプロセスが重視されました。開発側、自然保護側双方にとって完ぺきではないにせよ、きちんと合意を果たすことができる好例で、すべての公共事業がこのように進められれば、軋轢も少なくなると思います。
4月19日は辺野古・大浦湾でのジュゴンの食み痕調査に同行しました。自分はダイビングはできないので、シュノーケリングだけでしたが、海底地形に対応して様々なサンゴが分布している様子がわかりました。さらに海底地形がとても複雑です。河口部のマングローブ林の環境からサンゴ礁環境、海草藻場環境がモザイク状にあり、一見して生物多様性豊かな海域であると感じました。フロートはだいぶ撤去されていましたが、海上は賑やかで、ジュゴンはまだこの海域に出現していないことがわかりました。一刻も早く静かな自然状態に戻ることを願ってやみません。
4月20日は、行政関係者と意見交換をしました。彼らは2~3年で移動することが通例なので、こちらとしては毎回そもそものお話をしないと議論が通じません。自分の任期中問題がなければよいという態度の人もおられたので、より一層疲れました。個人としては良い人たちかもしれませんが、行政の役割は我々市民のために働くことであって、上司(行政機関)のために働くことではないはずです。
4月21日最終日は、泡瀬干潟を見に行きました。第一工区は埋め立てられてしまいましたが、まだ、干潟が残っています。NACS-Jとしてはラムサール条約に登録するべき場所とかんがえており、一刻も早い保護区の指定が必要です。泡瀬干潟を含む海域を全貌できる勝連城跡に上って景観を見ましたが、コンクリートに埋め尽くされそうになっている我が国に縮図をみるような景観でした。この場所に小さな小さな外来種が混入しても見つけることは難しいでしょう。外来種対策の基本は入れないこと。NACS-Jでは外来種を入れないことを前提として、外来種を持ち込む原因になる土砂をもたらす不必要な開発行為を止めるべく活動と調査を継続していきます。
写真①名護市の採石場
写真②カフェの窓から見える那覇空港増設の埋立現場
写真③嘉陽海岸
写真④辺野古・大浦湾
写真⑤辺野古沖の監視船
写真⑥泡瀬干潟遠望